どうしよう【1話】
プロローグです
この世界には、魔王がいる。
少なくとも、本人はそう言っている。
魔王ガッデム。眉目秀麗、長身、黒衣の似合う男。本人曰く、世界を恐怖に陥れる絶対的な魔王である。
ただし、魔王城はない。配下もいない。あるのは、少し立派な屋敷と妙に高いプライドだけだった。
そもそもの始まりは、酒場で聞かれた「仕事は?」という何気ない質問だった。
そこでガッデムは、なぜか「よくぞ聞いてくれた。私が魔王だ」と答えた。
たぶん、ノリで格好つけたかっただけである。
ところが翌日には「魔王が現れた」と噂になり、三日後には「恐るべき魔王軍が存在する」と話が膨らみ、一週間後には勇者がやってきた。
こうなってしまうと、もうあとには引けない。
「貴様が魔王か!」
勇者を前にして、ガッデムは堂々と頷いた。
もちろん内心は、(マジどうしよう)である。
しかし、ここで「実は違います」と言えば、これまでの威厳が全部なくなる。
だから彼は今日も魔王を名乗る。
この世界には魔王がいる。
けれど、その存在を誰も知らない。
そして自称魔王ガッデムだけが、知らないまま魔王の座に座っていた。
いつか自分が、本物の魔王と対面することになるとも知らずに。
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この世界には、勇者がいる。
少なくとも、村人たちはそう思っている。
駆け出しの冒険者、でぃん。まだ名の知れた冒険者でもなく、日々の依頼をこなしながら地道に腕を磨いていた。
ある日森での魔物討伐を終えた帰り道、彼女は魔物の群れと、それに追い詰められている村人らしき人物を見つけた。どうやら薬草採取の途中に襲われたらしい。見て見ぬふりはできない。
でぃんは剣を抜き、魔物の群れへ駆け込んだ。
「(この姿は、あの髪の色は…!伝説の……)」
白い三つ編みをなびかせ、魔物の前に立ちはだかる勇敢な戦士の姿。その後ろ姿を視界に焼き付け、村人の意識は遠のいていった。
でぃんは必死に戦った。しかし、多勢に無勢。全滅させるのは無理だと判断すると、煙玉を投げ視界が塞がった隙に村人を背負って戦線を離脱した。
どうにか森を抜け、気絶した村人を教会へ送り届ける。
「……今日も疲れた」
今日はもう帰って寝ようと決めた。
翌日。
村人の容態が気になったでぃんは、教会で話を聞き、村の場所を教えてもらう。そして、無事を確かめるため村へ向かった。
そこで待っていたのは、昨日助けた村人と大勢の村人たちだった。
「あ!伝説の勇者様だ!」
「勇者様に違いない!」
「白髪に三つ編み!間違いない!」
なぜか、村中が大騒ぎになった。
「いや、私はただの新人冒険者で──」
謙遜するな、と誰も聞いてくれない。
気付けば酒が並び、料理が運ばれ、村人たちは勇者の誕生を祝っていた。
本人の知らないところで勇者は誕生した。
「私、まだ新人冒険者なんですけどー!」
その声は、祝宴の喧騒にかき消された。
「これからどうしよう……」
こうして勇者でぃんは、望んでもいない勇者の道を歩み始めることになった。




