23話 天動説と地動説
「ごちそうさまでしたー!」
夕食を食べ終えた。
あーおいしかった。
向こうの港で取れたばっかの新鮮な魚の刺身だった。
道東に住んでいてもなかなかお目にかからない珍しい魚ばっかだ。
「よっしゃ野郎ども!屋上行くぞ!」
夕食時にみんなで会話していたら佐呂間さんが心を開いてくれたらしい。
俺たちの呼び方が「君たち」から「野郎ども」に変化している。
ただ体育会系からするとこっちの方が親近感があっていいや。
実際野郎たちだし。
「おっしゃ行きましょー!」
颯太もノリがいい。
それにしても、普段家から星空を見上げることなんてめったにないから楽しみだ。
一体どんな空が広がっているんだろう。
「おし、ついたぞー!」
後ろから押されるようにして屋上に駆け出す。
そして夜空を見上げる。
…これは何だろうか。
まるで黒のキャンバスに上からダイヤモンドをばらまいたような、それは美しい星空が広がっている。
しばらく言葉を失ってただ星空を見上げていた。
空を見ていると、自分がどれだけ小さな存在なのかをひしひしと感じる。
目いっぱいに広がる暗闇に吸い込まれるような錯覚を起こす。
そしてその中で瞬く星との距離を感じて、また正気に戻される。
昔は天動説が信じられていたらしいが、それも仕方ないかもしれない。
だってこんなに美しいものが、偶然と偶然の重なりによって発生しただなんて言われても、とてもじゃないけど信じられないだろうから。
これが神の作った模型じゃないならいったい、なんだというのだろう。
となる気持ちも今ならわかる気がする。
「あ、北極星だ。」
横で智也がつぶやいたらしい。
指の先を見ると、そこには北斗七星があった。
北極星。
そうだよな。
あそこに動かない天体があるから人間は、天動説というものを信じてきたのだろう。
そしてあの星を目印にして、未知なる海を航海してきたのだろう。
「北極星だ…。」
常に夜空の中心にあり続け、遥か昔から人間の羅針盤として人々を導いてきた。
決して月のように光輝くわけでもない。
太陽のように世界を強く照らすわけでもない。
でも確かに、中心の星として機能し続けてきた。
中心で光り輝く、か…。
一瞬淡い黄色が浮かんできた。
が、そのイメージを頭をはたいて振り払う。
大体なんだっていうんだ。
もう六ヶ月はゆうに超えてる。
その上なんの進展もないし、むしろ気まずいまであるじゃないか。
もうあきらめた方が身のためだろう。
精神安定上その方がいい。
いいに決まっている…。
「おお。雲が出てきちまったな。じゃ続きは明日にでもするか。」
佐呂間さんの声で現実に引き戻された。
いつの間にか西の空から雲が迫ってきていた。
雨でも降りそうな天気だ。
さっきまで快晴だったのに。
「ほな戻るか…。」
俺らは階段を下って、家の中に戻った。
ドアを閉める直前、首筋に水滴を感じた。
「振ってきたな…。」
だんだんと激しくなる雨音を背に、俺はドアをきっちり閉めた。
どうか、激しく降りませんように。
「野郎どもー!寝る時間だー!」
「はーい。」
佐呂間さん。
いや源じいの声で電気を消す。
寝室は二つに分かれていて、向こうの部屋には颯太と平井と岡野。
そしてこっちは智也と俺と牧野というメンバー分けだ。
まあいいんじゃないか。特に問題がある気もしない。
源じいは俺らが電気を消したのを確認すると、食卓の方へと歩き去っていった。
…残念だったな源じい。
俺ら高二男子がそう簡単に寝るとでも思ったか。
やっぱこうなったら修学旅行の華、恋バナをしない手はないだろう。
恋バナか…。
まあ、俺は気楽だしいっか…。
「おい牧野、そして智也。寝た?」
「いや起きてるよ。」
牧野が答えてきた。
智也も頷いているのが見える。
「よっしゃじゃ恋バナしようぜ。」
「ええよ。」
良かった。
乗り気のようだ。
やっぱこうじゃなくちゃな。
去年は颯太と山登りの時に恋バナをしたけど、あの時点じゃ何がなんだかわかっていなかったからな。
今は多少名前ぐらいわかるだろ。
「言い出しっぺの尚は好きな人いないの?」
牧野が突然ストレートに切り込んできた。
一瞬、頭をよぎる名前がある。
いやだめだ。
手を引くって決めただろ。
未練なんかない…。
「いや別に?そういう牧野こそいるだろ?例えば月川とか?」
言ってて胸がずんと重く沈む。
頼むから、うんと言ってくれるな。
いやでも、いっそうんと言ってくれ。
そうすれば断ち切れる。
「いや違うけど。智也は?」
…牧野の奴め。
当たり障りない無難な回答をしやがって。
ならいいだろう。
ここは残っている智也を…。
「おーい智也―?」
反応がない。
不思議に思って顔を覗き込んでみる。
「え、あ、まじか。」
寝てた…。




