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1話 春と黄色

 音が止まった。

空白だった。ただ視線の先に、何かいた。

「…なんだ?あいつ…。」

高校入学直後の校外研修。俺の視線の先には、周りとは明らかに違う雰囲気を放っている一人の女子がいた。

「なんであいつ、ジャージじゃねえんだ?」

明らかに一人だけ、学校指定のジャージ以外を着ている。いやいくら動きやすい服を着てこいと言われたといえ、そんなまっ黄色の服を着てくる人間が果たしていたのか。

俺は驚きのあまり、目を丸くしてしばらくそっちを眺めていた。

すると不意に、その女子と目があってしまった。慌てて目をそらす。変な奴に絡まれちゃたまったもんじゃない。

ちょっと荒れた中学時代を経て、何とか滑り込んだ高校だ。無駄に目立って処分されるのはごめんだ。

やれやれ、と心の中で呟きながら、俺は動き出した列についていった。

研修は楽しいものだった。皆で山に登って景色を見渡したり、バーベキューをしたりもした。

運動が得意な俺は、ほかのやつの荷物を持ってやったりもした。別に媚びを売りたいわけではない。ただあまりに疲れていてかわいそうだったからだ。


家に帰って振り返りの紙を出した。そしてこ

の二日間にあったことを思い出す。山の景色、頂上からの絶景、宿での馬鹿話、そして…

黄色い服のやつ。




 研修翌日。普通に学校が始まった。俺は学校に向かうため、地元を走るローカル線に乗車した。

数年前までは古くガタガタ言いながら走る気動車が走っていたはずだが、いつしか黒くメタリックな新型車両に代わっている。真新しい定期券を握りしめながら列車に乗り込む。

「おー新入生の子かい?通学に間に合うのはこの列車が最後だからなあ。遅れないように気をつけてな。」

運転士のおじさんが話しかけてくる。適当に相槌をうちながら、車内のシートに腰掛けた。

周りには同じ学校の生徒が見える。ただ俺は混ざる気にはなれなかった。

絶対に平穏な三年間を過ごしたい。変な奴に絡まれてたまるか。

列車が発車する直前、向こうから走ってくる人影が見えた。

雪をまき散らしながら駅に向けて走ってくる。

「おーい。発車しちまうから急げー。」

運転手のおじさんがそう言ってドアをもう一度開ける。

「ほんとすいません。ちょっと寝坊しちゃって…。」

駆け込んできた奴が運転士に話しかける。

「まあ次から気を付けてね。今日のところはしょうがないよ。」

「はい!ありがとうございます!」

俺は話している奴の横顔をちらりと見た。そしてすぐ顔を伏せた。

あいつだ。あの目立ってたあいつだ。ここはひとつ、知らないふりをしておこう。

あいつはそのまま車内に入り、向こうの座席に腰掛けた。


列車は今度こそドアを閉め、そのまま発車した。車窓が流れていく。

一面雪景色の中、パッと開ける場所がある。そこが俺の通っている高校だ。

目の前にある駅で降りて皆通学する。俺も例外なく降りて学校へと歩く。

四月になってかなり雪は融けてきた方だが、それでもまだ膝の高さぐらいまで積もっている。

「あーさむ。」「ねーまじでね」

横からほかの生徒の話し声が聞こえてくる。がもちろん俺に話しかけてくるやつはいない。仕方がない。

何しろ上の学年の先輩方だから。まだ部活も何も決まっていなくて、ようやく今日仮入部が開始される状況だ。

俺のことなど知っているはずもなかろうか。

そんなことを考えているうちに教室に着いた。

おはよーございまーす、と野球部仕込みの挨拶をかます。

何人かはそれにこたえてはいざいまーすぐらいは言ってくれた。

ああ悲しいかな、挨拶をしても返事が返ってこないのは野球部員として残念に思う。

ただ仕方がない。切り替えて、自分の座席に座った。

苗字が東雲なので一八番目の、ど真ん中の席だ。

鞄を置いてホッと一息、吐き出した息は白く消えた。流石は北海道、たとえ春でも寒いときは寒い。ずっとストーブの周りにいたい。

しかし授業の準備をしなくては。立ち上がってロッカーへ荷物を取りに向かおう。


しかし残念、前方不注意だった。

向こうから歩いてきた人とぶつかってしまったようだ。

「わっ」

「きゃっ」

ぶつかった反動で俺はよろけ、向こうは後ろに転んでしまった。

「あ、すいません。大丈夫ですか…。」

とここまで言って、俺はぶつかった相手が例の目立っていた人物だと気づいた。

なんてこった。関わるつもりはなかったのに。

「あ私?私は大丈夫だよ。そっちこそ大丈夫?」

…思ったよりも普通な人だ。

もう少しめんどくさいやつだと思い込んでいたのに。

「…ああ自分ですか?大丈夫です。すいません、前ちゃんと見てなくて。」

一通り謝罪し、俺はロッカーへ向かった。


戻って席に着くと、横にはあのぶつかった人がいた。

そうだった。俺が東雲で、通路挟んで向こうに座るあの人は月川。出席番号二四。

何とも気まずい。話すこともないし。

右横のやつは欠席だそうで入学してから一度もあったことがない。

まあそういうものなのか。

「起立、気を付け。礼!」

日直の号令で挨拶をする。

座って先生の話を聞く。

ようやく普通の学校生活が始まった。入学式の翌日は新入生オリエンテーション。

その翌日から突然研修。右も左もわからないまま四日を過ごし、金曜日の今日ようやくまともな日が来た。

ここから三年間、ただの野球馬鹿として平穏に何もなく過ごそう。そう固く誓った。


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