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異能力探偵ハチミツ  作者: 春山ルイ
氷が溶けて残るもの
23/65

聴取その2

「平中並男先生ですね」


「ど……どうも」


 平中は白髪交じりの髪型に、頬骨が張った顔、使い込まれたスーツと、どことなく疲れた雰囲気の男だ。だが、はっきり言ってしまうと、あまり印象に残らないタイプ。


「あなたは千牙さんと一緒に喫煙所に向かった。途中で宮城リサさんと青森カナさんも同行した。それで間違いないですね?」


「ええ……」


 千牙の証言との矛盾はない。


「あ……でも、煙草吸ってる途中、ちょっとだけ千牙が抜けましたね。忘れ物って言って。でも、3分くらいで戻ってきました。ダッシュだったし」


「……さっき、彼はそんなこと言ってなかった」


「本当にちょっとだし、別に言うことじゃないと思ったんじゃないですか? 忘れ物もスマホだったし」


「……なるほど」


 矛盾というほどのものではないが、捨て置ける発言でもなかった。


 それからも質問を続けたが、その証言以外におかしな点はなかった。リサとカナ、千牙の証言の裏付けになる。


「……なあ、先生よ」


 究助が質問に割り込んできた。打ち合わせにない横入りに、綴は戸惑う。


「俺からも1ついいか? 沓木ってやつは10年前、いじめを行っていたらしいな」


「え、ええ……」


 平中は露骨に目を逸らす。


「沓木がいじめていた相手は誰だ?」


「……筆頭は、曳刷……曳刷琢也だったかな……」


 カラス公爵の店員をしていて、同窓会の場を用意した人物だ。そしてこの後に証言を聞く予定の相手でもある。


「でも……他にも、いろいろ……。沓木は粗暴で、気に入らない奴にはすぐ暴力を振るう生徒でした……」


「ほぉ……あんたは、沓木がいじめをしていたことも、いじめられていた相手のことも、きちんと認識していたわけだ」


 平中はぎくりと肩を震わす。


「見て見ぬ振りだったってわけか? 教師がよぉ、そいつはどうなんだ?」


「究助さん……」窘めるが、究助は止まりそうにない。


「いや……沓木だけじゃないんですよ。彼に煽動された生徒もいて……教師にも歯向かってくるんです。簡単に言わないでください……」


「簡単じゃねぇことをすんのが教師だろうが」


「う……」


「教師が子供守らねぇで、誰が守んだ? あぁ?」


「うぐぐ……」


「究助さん! 抑えてください……!」


 やっと究助の口は止まる。警官としての正義感が抑えきれなくなったのだろう。


「チッ……」


「私だって……止めようとはしていた……」平中はぶつぶつ言う。


「平中さん。僕からも質問があります。帆波静流という生徒を覚えていますか? 10年前に亡くなった生徒です」


「帆波……静流……覚えていますよ」


「事故死とのことですが、教師として一般生徒より情報を得ているのではないかと思います。当時、警察などからなにか教えてもらったことはありますか?」


「あの……何故、帆波の事故を? 今は沓木の事件でしょう?」


「いいから答えて貰えませんかねぇ」


 究助が圧をかけた。


「う……と、とは言っても、私もあまり……警察は情報を渡してくれませんでしたし、10年前のことなので……。愛掘高校の近くにある九木(ここのぎ)(がわ)という川で、12月、橋に引っかかっているところを通行人が発見、通報した……とのことだったと思います」


「九木川、確かですか?」


「そこは間違いないと思います。ただ、溺死だったか、凍死だったか……そこはどっちだったか……」


 川で溺れた結果、水が肺などに入って窒息したのか、寒さで心臓麻痺を起こしたのか、どちらかだ。


「九木川はどんな川ですか?」


「大きい川ではないです。小川ってほどでもないですが。雨が降ったときなんかは増水して、土手が沈むんですよ。普段からそれなりに流れも速いので、生徒には危ないと言って聞かせていました。なので、帆波が何故、川に行ったのか、さっぱりです。彼女は優等生で、私たちの注意を無視する生徒でもなかったし……」


「まさか、静流さんも沓木さんからのいじめを受けていた、なんてことはありますか?」


 ギャルコンビやメメの疑いどおり、ただの事故死でない、とすれば。いじめの末の殺人の可能性もある。


「……い、いえ、そんな様子は……」


「おい」案の定、究助が突っかかる。「本当だろうな? きちんと思い出せよ!」


「き……記憶では……はい。いじめなどは……むしろ、逆……」


「逆?」


「彼女はいじめを許さず……沓木のいじめを見つけたら、止めに入る勇気ある女生徒でした……」


 あなたとは違ってね、と言いたげなのが、究助の表情から読み取れる。


「すいません。これ以上はよく……」


「……はい。ありがとうございました」


 沓木の件について、大きな新情報はなかった。少し、気になる点はあったが。

 10年前の事件については、詳細を知ることができた。だが、核心的なものは不明。


 平中が離席した後、綴は究助に声をかける。


「究助さん、相当怒ってましたね」


「悪いな。ああいう奴、嫌いなんだよ。さっきも言ったけど、子供を守るのが教師の役目だ。町の中ならともかく、学校の中は、俺たちの目が届かない。教師らがしっかりしてくれないと、どうしようもない。究極的に」


「……ですよね」


「教師が忙しいってのは分かってる。だが、それでいじめを見過ごしてるんじゃ最悪だ」


「次に話を聞く人物は、そのいじめの被害者です」


 

 2人は、特に究助は気持ちを落ち着かせて、彼を呼んだ。



「曳刷琢也さんですね。この居酒屋で働いている。同窓会の会場にここを選んだのも曳刷さんだと聞いています」


「あ……はい」


 曳刷は顔色が悪く、肩に力が入っている。会場に選んだ自分の仕事場で、事件が起こった。気の毒だ。


「曳刷さんは事件が起こったとき、店内にいたんですよね?」


「は、はい」


 曳刷はどうやら、キッチンとホールをずっと行き来していただけのようだ。彼は同窓会より仕事優先でアルコールは飲んでない。他の人より証言ははっきりしていそうだ。


「で……でも……俺もあんまり……忙しくて見てないです……。沓木がいつ外に出たとか、し、知らないし……」


「うーん。そうですか……」


 話は本題に突き進んでいく。


「お答えしづらいことだと思いますが……曳刷さん。あなたは10年前、沓木さんにいじめの被害を受けていた……と聞きました。間違いないですか?」


「お……俺……」曳刷は喉を鳴らす。さらに気の毒だが、仕方ない。「俺……は、はい。沓木……背中を蹴られたり、カツアゲされたり……」


「辛いことを思い出させてしまってすみません。沓木さんを恨んでいたり……」


「恨んでますよもちろん!」


「わっ!」


 曳刷は机を叩いて怒鳴る。怨嗟の念が溢れたようだ。


「あ……で、でも、俺はあの人を殴ったりしてませんよ……!」


「そうですか……あれ、でも……」


「な……なんですか?」


「曳刷さんは外に出ていませんよね? 鼠谷さんが皆をここに留めていたわけですし……沓木さんが『殴られた』というのは誰から……」


「えっ!? いや、その」


 曳刷は目に見えて狼狽する。視線が右往左往していた。


「と、トイレですよ」


 曳刷が指差した先には、キッチンに隣接するトイレの入口がある。


「事件があったって知らされたとき、トイレの窓から下を見たんです。そしたら頭から血を流してるのが見えちゃって……だ、だから知ったんです」


「そうなんですね」


 後でトイレの窓を調べよう、とメモの隅に書き記した。


「あれ」究助が声を漏らす。「そういえばさっき、トイレは故障中で入れないって聞いたぜ」


「いっ……いえ、俺は店員なので……それに、トイレの窓からなら見えるよなって思ったから行っただけで、別に……俺、俺は……」


「お、落ち着いてください、曳刷さん。分かりましたから」


 誰が見ても、彼の言動は不審に映るだろう。場の雰囲気を変えるためにも話題を逸らす。


「帆波静流さんを覚えていますか? 10年前に亡くなった……」


「ああ、ほ、帆波さん……俺のこと、助けてくれた……」


「いじめを止めるタイプの女子生徒だった、と聞きました。実際にそうだったんですね」


「辛かったよ……事故死、でしたっけ。……どうせ、沓木じゃないのかって、思った」


「え、どうしてですか?」


「……別に、アイツなら、人殺しくらいやりそうじゃないですか。止めようとした相手なんて、気にくわないだろうし」


 根拠はない。だが、沓木と静流は敵対している、と考えると可能性はゼロではない。


「……沓木なんて、ど、どんな目に遭ったって、仕方ないですよ。因果応報って奴だ……」



 綴はここまでの聴取をまとめたメモを見直す。充分とは言えないが、沓木の事件における手がかりは入手できた。後は、それぞれの点と点を線で結ぶだけ。


 その「だけ」が難しいことは承知の上だ。

 



「あれ?」


 外がなにやら騒がしい。誰かが言い争っている声だ。外には特能がいる。丹巡査長が一課と揉めていたりするのだろうか。

 綴と究助は互いに顔を見合わせ、様子を見に行くことにした。


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