彼女
実行犯3人が連行されていく。ザネリは目を閉じながら。カムパネルラは最後まで話の流れが理解できていない様子だった。
そして当のジョバンニは、なんだか痩せこけたように見える。究助に連れられ、パトカーに押し込まれた。
「照井明良、奴は……ゆすり屋だった……」
まるで酩酊状態のように前後不覚になったジョバンニが、動機を溢した。
「僕たちのことを……嗅ぎつけ……脅した……奴のために盗みをしろと……」
「なんじゃそら……被害者もワルだったってオチかよ……」
「あの日も、盗みの打ち合わせのために呼び出されて……」
共感は欠片もできないが、すっかりボロボロになったジョバンニを見ていると、不憫に思う。
「やっぱり、そういうことでしたか」
「お前、そこまで推理してたのかよ」
「あ、いえ、動機に関しては推理というより、推測でした。当たっていて良かったです」
「……お……おのれ……八見、綴……!」
綴の前に、山犬が立ちはだかる。さっき頭から倒れた拍子にぶつけたのか、メガネにヒビが入っていた。
「この屈辱、忘れませんよ……!」
「よく言うぜ」究助がせせら笑う。「身から出た錆って奴だ」
「なっ……! あ、あなた、警部補に向かって……」
「息巻いてた割に究極的に雑な捜査、しかも見苦しくグダグダ言いやがって! んな奴、敬えっていう方が無理だろ!」
「なあぁ……っ!?」
やはり、強く出られると弱いらしい。すっかり青ざめてしまった。
「……山犬さん。あなたの異能力は確かに、警察としては非常に優れています。あなたの《嗅覚》で、他殺の可能性に思い至り、捜査を続けたのは流石だと思います。
が……紫雲さんみたいな監察医や、鑑識の方。そして、究助さんみたいな猪突猛進するタイプの刑事。彼らがいたからこそ、この事件は解決できたんです」
「おい、俺のこと猪みたいって言ってるか?」
「異能力犯罪は、決して特能の力だけでは解決できません。考えを改めてくださると、嬉しいです……」
山犬は唇を噛み、震えていた。
「お……おのれぇ……!」
山犬の横を通り抜け、工場の外に出た。
工場にいる間に、夜になっていた。ここは周りに家がないためか、星々がいくつか見えた。人が亡くなり、隠された真実を暴いた。ここまで息苦しい数日だったが、こうして空を眺めていると、いくぶんか清々しい気持ちになるのだった。
「ま……まだです!」
そんな気分を打ち消すように、背後から山犬が吠えた。
「山犬さん……まだなにか……?」
「まだ、私は負けていません! つ、次こそは……」
「いや……負けとか勝ちとか、そういう話じゃ……」
「そしてあなたに訊ねたい……! ど、どうしてあれについて知っている?」
あれについて? 綴は首を傾げる。
「被害者はサザンクロスの最初の事件を記事に書いた、という情報です! あれは特能が最初に突き止めた情報! 一介の探偵が得られる情報じゃない。どこで手に入れた!?」
「ど、どこでって……」
そんなに重要な情報だとは思っていなかった。どこで手に入れたか、と思い出すためにメモ帳をめくる。それはあの日、カフェで……。
「山犬一紀警部補」
夜の暗がりの中から、凜とした女性の声が発せられた。
「な……」
「報告は聞きました。あれだけ自信満々だった割に、手柄を取られたそうですね」
やがて、その姿は明瞭となる。
「……え?」
綴は、彼女を見て愕然とした。
何故、あなたが、ここに?
「し……白金巡査……なぜ、あなたが……」山犬も目を白黒させている。
「──警部からの伝言です。あなたの処分を言い渡しに来ました」
彼女の胸元には異能力者のバッジと、三日月のバッジ。つまり特能であることを示す証が輝いている。
「そんな……どうして……」
「ハチミツくん」
「椿さん……!」
「──特殊異能力犯罪対策班、白金椿。黙っていてごめんなさい」
彼女の悪戯な笑みが、今は悪魔のように見えた。
2章終了となります。お疲れ様でした。
簡単な人物まとめを投稿しました。よければご確認ください。




