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16/23

16.とてもハードな月曜日

サブタイトルめっちゃ悩みました……(― ―;)

あと、今回、ちょっと短いです。

「あ、副校長先生」


 昇降口で児相の人たちが帰るのを見送り、職員室へ戻ろうとする副校長へ、私は慌てて声をかけた。


「あの、別件なんですけど、ちょっとご相談、よろしいでしょうか?」


「うん? なにかな?」


「あ、もしかして長谷川さんの件?」


 森先生の問いにうなずく。


「あれ、森先生も噛んでるの?」


「噛んでるというか、巻き込まれたというか、巻き込まれに行ったというか……」


「何だそりゃ」


「え、ええとですね………ちょっとここでは。校長室使ってもよろしいですか?」


「ああ、まだ校長も戻ってこないし、大丈夫だろう」


 結局、森先生と副校長、私の3人で、校長室へ戻る。

 そこで事の次第を副校長に説明した。


「うーん。確かに無視するには共通点の多い話だね」


「はい。ですので、とりあえず先方に、『長谷川誠』という人に心当たりがあるかどうかだけ聞いていただくべきかと思ったのですが」


「そうだね……。ちょっと向こうの副校長と相談してみるよ」


「よろしくお願いします」


「………ところで、森先生、佐々木さん」


「「はい」」


「もしかして二人は付き合ってるの?」


「………はい!?」


 思わず大声をあげてしまった。


「え、あ、あの、なんで」


「ちがうの? 巻き込まれに行った、なんていうからそうかなと思ったけど」


「あ………」


 何て言おうか。

 そう思った矢先、森先生が口を開いた。


「いえ、俺が口説いてる最中です」


 はい~~~~!?


 いや、そうだけど!?


 言っちゃう!?

 ここでそういうこと、言っちゃう!?


「ああ、なるほど」


 副校長もなんか納得してるし!


「そうか、頑張れよ、和也」


 ってなんかいきなり親し気ですね、副校長!?


「言われるまでもねえよ」


「最近、嫌な話ばっかりだからな。たまには明るい話題提供してくれ」


「別に話題提供のために頑張ってるわけじゃねえって」


「そりゃそーだ。で、佐々木さん」


「は、はい!?」


「こいつのこと気に入らなかったら、遠慮なく振っていいからな」


「余計なこと言ってんじゃねえよ! くそ叔父貴!」


「へ!?」


 叔父さん!?


「あ、姉貴の息子なんだよ」


「あ~、お袋の弟なんだ」


 互いに互いを指さして関係を説明してくれました。


 そうだったんですか。

 苗字が違うので全く分かりませんでしたよ。


 世の中って本当、狭いですね………。






「あ、佐々木さん、まだいたんだ」


 ほとんどの先生が帰った時間。


 昼間の騒動で片付けられなかった仕事を片付けていたら、森先生が事務室に入っていた。


「はい。森先生は勇太君のところですか?」


「うん、行ってきた」


 どさりと隣の席に座り込むと、森先生は、はぁっと大きなため息をついた。


「お祖母さんだけど、何となく気づいていたらしい」


「……アルコール依存症ってことに?」


「じゃないかって、思っていたらしい。でも、結局何もしなかった。そのせいで勇太を傷つけてしまったって、後悔してた」


「………そうですか」


「その場でご主人に電話して、今週いっぱいはこっちにいてくれることになったよ」


「え、ほんと?」


「自分たちが勇太君を引き取ることも考えるって」


「………それが良いかもしれませんね」


 児相の一時保護よりは。


「問題は……お父さんの方だな」


 まずは検査、だけど……。

 本人にその気がなければ難しい。


「今日、会えたんですか?」


「いや。会えなかった。勇太によると、いつも夜中すぎらしい。時には明け方。いつになるかわからないと言っていた。」


「仕事……じゃない可能性もありますね」


「十中八、九、飲んでるんだろうな」


 大人のやることだ。

 本来なら、勝手にどうぞというところ。


 でも、その影響が子供にくるなら話は別。


「どうにか素面の時に連絡とって、面談の日時を約束するしかないだろうね。お祖母さんも協力すると言ってくれているし」


 うーん。どちらかというと、協力しているのはこっちじゃないだろうか。

 向こうの家の問題解決に。


 ま、いっか。勇太君の状況が改善するならどっちでも。


「あと、一応、家の中の酒は全部処分すると言っていた」


「でも、本人が買ってきたり飲んできたりすれば同じですよね……」


「そうなんだよな………」


 ふうっと息を吐いて、森先生が机に突っ伏す。ほんと、月曜日からハードだなあ……。


 私は書類を片付けると、パソコンを落として立ちあがった。


「あ、終わり?」


「今日のところは」


「そっか。じゃ、一緒に帰ろう」


「え………」


 ………ええと。

 どうしよう。


「ほら、もう暗いしさ………」


 確かにそうなんだけど。


「………ダメか?」


 先週なら。

 笑って、いいですよって言えたのに。


「……ごめん、ダメだよな」


「ッ! 待って!」


 立ちあがりかけた森先生をあわてて止める。


「あの、ダメじゃ、ないです、から………」


 あ。

 この体勢、ヤバイ。


 どうなっているかというと。


 立ち上がりかけた森先生の肩に、私が手をかけたので、先生は再度椅子に腰を下ろした。


 そこまでは、いい。


 問題は、体重をかけたせいで、私が先生の方に身体を傾けているということ。


 ついでに先生が私の方を振り返っているということ。


 え~端的に言うとですね。


 先生の顔の目の前に私の胸があります……。


「ご、ごめんなさ」


 あわてて離れようとした私の腕を、ぎゅっと先生がつかみました。


「あ、あの………」


「勇太が」


「え?」


「勇太が言ってた」


「………何を?」


「『綾先生って、意外と胸が大きいんだよ』」


「……………ッ!!」


 そういえば、抱きしめましたっけね!

 泣き叫んだ時に!


 頭がちょうど胸の位置でしたね!

 あんのエロガキ!


「……なんか、悔しい」


「はあ?」


「……………」


 ってちょっと!


 二の腕掴まれてじっと胸を見られても困るんですけど!


「……名前で呼ばせてるし」


「え、だって、苗字が同じだから」


「わかってるけど………」


「~~~~~~~ッ! ああ、もう!」


 後から思えば何でこんなことをしたのかよくわからない。


 なんか色々パニくってたのは確かだけど。


 だって、自分の気持ちを自覚して。

 どう接しようか、ずっと悩んでて。


 なのに当の本人は小学生相手に焼きもち妬いてて。


 もう、知らん! どうにでもなれッ! と、自棄になった私は、そのまま森先生の頭を抱え込んだ。


「ぶッ!」


 勢いあまって鼻の頭ぶつけたっぽいけど無視!


「………これで同じでしょ!」


「え………」


「小学生相手に対抗意識燃やさないでよ!」


「う……」


「名前、呼びたかったら呼べばいいじゃないですか! っていうか、呼んでたくせに!」


「………」


 ピタリと。

 先生の動きが止まった。


「………いいのか?」


 ややあって、胸の間からくぐもった声が聞こえた。


「………勤務外なら」


 急に恥ずかしくなって。

 私はそっと抱え込んでいた腕をほどいた。


 解放された先生の顔は真っ赤になっていた。

 私の顔も同じ位、真っ赤だと思う。


「綾……」


「まだ勤務中です」


「………佐々木さん」


「……はい」


「その…………」


「……………」


「か、帰ろう、か………」


「………はい。片付けるので、ちょっと待っててください」


「あ、ああ。俺も、ちょっと職員室片付けてくるから」


 微妙に視線を外しながら、森先生は事務室を出て行った。


「~~~~~~ッ!」


 私は。

 急に恥ずかしくなって、思わずその場にしゃがみ込んでしまった。


「なにやってるんだろう、私…………」


 顔が熱い。

 心臓がドキドキしてる。


 落ち着け私。

 こういうときは深呼吸、深呼吸。


 後で知ったことだけど。

 この時、森先生も、廊下の隅にしゃがみ込んで、必死に深呼吸していたらしい。


 ………ほんと、何やってるんだろう………






「佐々木さ………綾」


 校門を出た途端、名前呼びですかそうですか。


「はい、和也さん?」


 お返しとばかりに名前を呼ぶと、森先生の動きが止まった。


「えっと………」


 いや、そんなに動揺されても困るんですけど。

 呼んだ私が恥ずかしくなっちゃうじゃないですか。


「綾………」


 意を決したように、先生が数歩近づいてきた。


「つまりその……。これが答えだと思っていいの?」


「………さあ、どうでしょう?」


「おい」


「とにかく帰りましょう。学校の近くだと誰に会うかもわかりませんよ?」


「あ……。ああ、そうだな」


 二人並んで、駅へ向かう。


 付かず離れず。


 時々、先生の手が私の方に伸びては戻って。


 多分手をつなぎたいんだろうなあ。


 でも、まだこの辺は学区域だし。


 辺りは暗いけど、誰かに見られるかもしれないし。


 そんな葛藤が見て取れた。






 結局、駅まで無言だった。


 電車は、座れない程度に混んでいた。


 二人並んでつり革を掴む。


「……あ~。メシ、どうする?」


 2駅くらい過ぎたところで、森先生がようやく口を開いた。


「そうですね……」


「行くか? 月曜日だけど」


「そうですね……」


 ああ、芸のない答えだなあ。

 さっきから同じことしか言ってない。


 ふいに。

 ガタン、と電車が揺れた。


 たたらを踏む私を先生が左手で抱きかかえてくれた。


「あ、ありがとうございます……」


「……いや」


 電車の揺れが正常に戻った後も、先生の左手はそのままだった。


 私も振りほどきはしなかったけど。


 横目でチラリと先生の方を見る。


 でも、先生はじっと宙を睨んでいる。


 博物館の帰りの時みたいに。


 何を見ているのだろうと同じ方へ目をやって、一気に頬が熱くなった。


 森先生の視線の先には。


 窓ガラスに映った私がいた――

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