17. 信頼と安心をくれる人
今回、ちょっと短めです。
あと、編集前に間違って投稿してしまったので、
もしかしたら編集前に読んだ方がいらっしゃるかもしれません。
読みにくかったですよね、すみません。m(_ _)m
「あれ、珍しいね」
店のドアを開けると、オーナーが少しびっくりした顔で声をかけてきた。
「金曜日じゃないのに」
「うん、ちょっとね。腹減ってるからすぐできるもの適当によろしく」
「はいはい、お任せね。空いてるとこ適当に座って。アルコールどうする?」
「やめとく。明日も仕事だし」
「りょーかい。じゃ、ウーロン茶ね」
「ああ」
オーナーと森先生……じゃなくて森さん……じゃなくて………ええと……和也さん……の会話を聞きながら、私は店内を見回した。
7割くらいの席が埋まっている。
「………奥にしましょうか?」
「そうだな」
この店の奥の方は、あまり店員の目が行き届かないので、オーダーするとき、少し苦労する。それを知っている常連は、奥の席はあまり使わないので、今もほとんどが空席になっている。
でも今日は食事だけだし、お任せだから問題ないでしょう。
話さなきゃいけないこともあるし……ね。
私は観葉植物で他の席から半分くらい隠れた形になっている席に腰を下ろした。
森さ……和也さんが目の前に腰掛ける。
「ええと………」
ヤダな。今頃緊張してきた。
「あの……和也さん」
思い切って顔をあげると、和也さんの顔もなんだか強張っている。
「……もしかして緊張してます?」
「してる。ものすごいしてる」
なにそれ。
「……この場合緊張するのは私の方だと思うんだけど」
「え、緊張してるの?」
「かなり」
「見えない」
「そうですか?」
「うん」
何この会話。
和也さんもそう思ったのか、二人顔を見合わせて、同時にぷっと吹き出した。
「あ~なんか力抜けた」
「ふふ……私もです」
「失礼しま~す。お冷やお持ちしました」
店員さんがお水を持ってきたので会話を一時中断する。
「ごゆっくりどうぞ~」
持ってきてくれたお水を一口飲む。
あ、美味しい。
かなり喉が渇いてたみたい。
和也さんも同じらしく、一気にコップを空にしていた。
「あの、和也さん」
「うん?」
「あの後………知り合いに電話して……相談に乗ってもらっているうちに、ようやく自分の気持ちが分かったんです」
「…………」
ごくりと、和也さんがつばを飲み込んだような気がした。
「私……好きになるって、もっと何かこう、インパクトのあるものだと思ってました」
「インパクト?」
あ、反応が美咲ちゃんと同じだ。
「もっとこう、一目で恋に落ちる、とか、全身に衝撃が、みたいな」
「ああ………」
「でも、違うんだって……気が付いたんです。いつの間にか……知らないうちに、なんてことも、あるんだって」
「………」
和也さんの視線が熱い。頬が火照る。ものすごく恥ずかしい。でも、言わなきゃ。
「義妹に言われて、気が付きました。私、和也さんのとなりに、知らない女の人がいたら嫌です。その人に、にこやかに笑いかけながら、私にしたようなことをしてたら、胸が痛いです」
「………ッ」
「私、和也さんの隣にいたいです。朝、おはようと言いあって、一緒にご飯食べて、一緒に出勤して、休みの日には一緒に出掛けて」
「……いいな、それ」
「今朝、久しぶりに一人で通勤して、なんだか味気なかったです。物足りないっていうか……。いつの間にか、和也さんが隣にいるのが当たり前になってたんだなって……」
俺もだ、と小さい声が聞こえた気がした。
「この気持ちに名前を付けるなら、やっぱり………『好き』しかないんだろうなって」
「綾」
ふいに。
向かいの席から手が伸びてきて。
気づくと、私の左手が和也さんの手の中にあった。
「佐々木、綾さん」
「はい」
「……あなたが好きです。結婚を前提にお付き合いしてもらえますか?」
「はい、喜んで。私も、あなたが好きです。……和也さん」
「ありがとう」
ほっとしたように笑うと、和也さんはそのまま、私の左手の指さきに口づけた。
「………ッ!」
頬が一気に熱くなった。
今までのは何っていうくらい。
「あ~そろそろいいかな」
突然かけられた声に2人一緒にビクッとして振り向く。
オーナーがニヤニヤ笑いながら料理を持って立っていた。
「もう少し見てたい気もするけどね。そろそろ俺の腕も限界だから置かせてもらっていいかな?」
「は、はい、スミマセン!」
あわてて左手を引き抜く。
和也さんが小さく舌打ちしたけど知らない!
「悪いね、ジャマしちゃって。これ置いたら呼ばれるまで来ないからごゆっくり」
オーナーは、ウィンクしながら手際よく料理を並べていった。
「今度ゆっくり出来る時においで。お祝いしたげるからさ」
「………そのうちな」
和也さんがため息とともに答えると、オーナーは嬉しそうに笑いながら、厨房へ帰って行った。
羞恥で下を向くと、美味しそうな料理が視界に入る。
途端にお腹の虫が鳴った。
「あ………」
恥ずかしさ2倍です………
「ふふ………食べようか」
「はい………」
私は頬を赤くしたまま、とりあえず羞恥の一つを解消するため、箸を手に取った。
食事を終えて揶揄いの混じった祝福を受けながら店を出たら、もう22時になっていた。
「遅くなっちゃいましたね」
「送るよ」
和也さんが手を伸ばしてくる。
「………ありがとう」
その手を素直に取ると、和也さんは嬉しそうに目を細めた。
恋人つなぎで歩き出す。
「綾の手、柔らかいな。柔らかくてちっちゃい」
「和也さんの手は、大きくてがっしりしてますね」
「気に入らない?」
「いいえ。何だか安心します」
「うーん、それは喜んでいいのかな」
「いいと思いますけど?」
「………そうかなあ」
「前に、アドバイザーさんに言われました。伴侶とは、信頼と安心をくれる人だって」
「………え?」
首を傾げる和也さんに、アドバイザーさんの言葉を伝える。
恋人は他人で夫婦は家族。
恋人は特別な娯楽。
結婚は日常生活。
恋人は、ときめきをくれる人。
伴侶とは、信頼と安心をくれる人。
「………オーナーも、同じようなこと言ってたな」
「え、そうなんですか?」
「ああ。安心されるって、男としてどうかって思ったけど」
「どうかって………」
「いや、何でもない」
うん。
何でもないことにしておこう。
「そう言えば」
ふと、思い出したことを聞いてみる。
「前に、好みは3歳年下って具体的なことを言ってましたけど………あれってもしかして、私のことですか?」
「もしかしなくても綾のこと。……気づけよ」
「気づきませんよ。………同級生紹介しろって意味かと思った」
「は!?」
「………もしかして、他にも私が気付いてないことあります?」
「……沢山ある」
「え………」
そう言って教えてくれた一つ一つに、確かに心あたりはあったけど、まるっきり気づいていませんでした。アハハ・・・・・・・。
そう言うと、和也さんは、はぁ……と、大きなため息をついた。
「綾さ、今までモテなかったんじゃなくて、アプローチに気が付かなかっただけじゃないのか?」
「そんなことありませんよ」
「今の俺の話聞いてもそう思う?」
「う………」
鈍感女子認定されてしまいました。
反論できないのが哀しい……
そうこうしているうちに、私のアパート前に到着した。
「ありがとうございます」
礼を言って手を離し、郵便受けの中身を確認する。
入ってるのはチラシだけか。
取り出して片手にまとめる。
「じゃあ、明日……」
「もう少し、いいか?」
「……え?」
「その、部屋の前まで」
「え………」
「もう少しだけ、一緒にいたい」
カッと頬が熱くなった。
今日何度目だろう………
「中まで入らないから」
「…………はい」
小さな声で答えると、和也さんは優しく笑って、再び私の手を取った。
私の部屋は3階だ。
いつもより昇るスピードがゆっくりなのは、疲れているせいだけじゃない………と、思う。多分。
階段の幅が狭いせいで、さっきより密着度が高い。
あっという間に部屋の前まで来てしまいました。
「………あの、和也さん………」
あがってお茶でもどうぞ、と言うべきだろうか。
でも、この前、無防備すぎるって言われたばかりで。
中には入らないって言ってたし。
でも、和也さんならいいかな、とか思ったりしなくもなくもない……。
「じゃあ、綾。ここで」
迷っていたら、スッと和也さんが手を離した。
「え、あ………」
「明日も仕事だし。お互い、早く休もう」
「え……ええ、そうですね」
やだ。
なに残念がってるんだろう、私……。
カバンからカギを取り出し、開錠する。
ノブを回そうとしたところで
「綾」
声をかけられて顔をあげると
「………ッ!」
至近距離に和也さんの顔が!
おまけに、唇に何か温かいものが………!
ほんの数瞬で離れたけど。
これってつまり
キ、キスされましたよね、今ッ!?
「綾、可愛い……」
クスリと笑った和也さんの唇が、今度は額に落とされた。
「あ、あの……」
ようやく口を開いた私に、和也さんが嬉しそうに笑いかける。
「お休み」
「お、お休み、なさい………」
ようやくそれだけ言うと、私は部屋の中へ駆けこんだ。
「落ち着け、落ち着け、落ち着け、私!」
部屋の中でうずくまって、バクバクいう心臓をなだめる。
「今時高校生だっていや、中学生だってキス位するって……」
触れるだけの、軽いキス。
それだけでこんなにドキドキしてる。
前言撤回。
和也さんがくれるのは、安心だけじゃないようです。




