そして、知る
「GO!!!」
クロヒメの合図で一斉に影から飛び出し、地面に着地した。
会議の通りに、皆はそれぞれの仕事を始める。
「速度上昇」
「飛翔」
「がうぅ!」
「影に入れるようにしとけばいいんだよねー」
それぞれが魔法を発動し始めた。
ククは目に見えて動きが速くなり、クーは羽が生えた。展開した?もりりんは、身体が金色に輝き始めた。これが、光属性の魔力光か。
「動き続ければいいんですよね」
「うん、撹乱して」
「了解しました。……!」
速度上昇されたククの体は一瞬でクロヒメの前から消えた。
◇ ◇ ◇
「さーて、こっちもこっちで仕事しますかぁ。──さぁ、出ておいでよ。……真犯人さん?」
一瞬、ガサっと、草が揺れた。
当たりか。
「で、そこにいるんだよね?私のククを貶めるような真似しておいて、逃げられると思って?」
「あ、気づいちゃったか」
「うん、隠蔽ていうか、隠密?のスキルレベル絶対低いよね。で、そのレベルが低い君が今回の事件の犯人?」
「うん、そう。だけど、勘違いしないで。ボクは手伝っただけ、実際に魔物に変化したのはあの子自身だよね?」
顔は草木に隠れよく見えないが、ガウを指して、にやりと笑っているのは安易に想像がつく。そして、その顔を思い浮かべ、隣にあった木を殴りつけた。
ジンジンと痛む手を押さえながら、そして、怒りを堪え、無理に笑顔を作りながら思考を巡らせる。
…間違ってはいない…が、手伝っただけというのは実際にはどこまで手伝ったのだろうか。
「君が考えている思考が読み取れるよ。手に取るようにね。アハ、教えてあげる。ボクが手伝ったのは全部ッ!!」
「全部?」
「アハハ、そうだよッ、全部。そこの魔物が獣だった頃から、ずっと」
獣の頃からというのはよく分からない。ベータの時から?それとも正式版が始まった時から?
そんなことはどうでもいい。何をしたらそこまで強力な魔物に変貌を遂げるのかだけでも、知っておかなければならない!
そんな、一つの欲求がクロヒメの思考の中で弾けた。
問題はどうやって聞き出すか。
「ねぇ、一つ聞きたい」
「んー?」
「君はどうやって、魔物を作り出すことが出来たの?」
「うわ、直球だね、だけど、それも悪くない。教えてあげる、ボクも君と同じような力を持っている」
「私と同じ?…いや、そんな力持ってないんだけど」
「いいや、持ってるね。全属性魔法適正なんて能力、全プレイヤーの中で君だけだよ。クロヒメ」
「なん…だと…」
私が、全属性魔法適正者?うーん、でも、それは信憑性高いな。今までに7つある属性のうち5属性は普通に使ってるし…。
ていうか、こちらの名前がバレてる!?
誰なんだ…。それとも私が知らない人間か。
「で、同じような力とは、一体どのような能力なんだ?」
「ボクの能力は」
「───モンスターの狂気化」
「な!?」
反射的に驚いてしまったが、外見と違って内心そんなには驚いてはいない。
その場のノリだ、そうしよう。だが、ほら、相手の方はこちらの驚きを見て、何となく上機嫌になったような気がする。
「ふふ、驚いた?驚いたよね、何か顔が引き攣ってるように見えるよ」
「う、うん」
「何か、クロヒメの驚き方を見て、ボク嬉しくなったよ。ついでだし、魔物の作り方教えあげる」
狡いなぁ。自分は相手の顔が見えないのに、相手は自分の顔が見えてるって、狡いよ。せめて、顔見せろ。礼儀になってない。
だが、魔物の作り方、教えてくれるらしいし許そう。
「まずは、モンスターを用意します。そして、ボク専用のスキルを使ってウイルスを魔物の体内に流し込みます。早ければ、3日、遅くても1週間でそこいらのモンスターは魔物になります。これで、みんなも魔物マスターだ!」
「おーけーおーけー。………………一発、私に殴られろ、餓鬼が!」
何だ、こいつ。ふざけてる。私も魔物作りたかったのに、作りたかったのに!
専用って何なんだ…。こんな理不尽が通用するのですか。おぉ…神よ。
「えぇ、なんで!?ボクは何もしてないよね。それより、君はこんなところで駄弁ってていいの?君のお仲間そろそろやられそうだよ。ボクの魔物に」
「違う。お前の魔物じゃない。ククの魔物だ。ふざけるな」
「そんなことより、早く行った方がいいよ。それにボクもそろそろおさらばするよ」
「そうか、一発殴りたかったけど残念だ。だけど、お前の声は覚えたからな。……………そんなに可愛い声してるのになんでこんなことしているんだ」
思わず、本音言ってしまった。聞こえてたか?
「うん?何か言った?」
聞こえてなかった!
「何でもない」
「そう、ではさようなら。またね」
一瞬、風は吹き荒れ、思わずを目を瞑ってしまった。
次に、目を開けた時には、木々の向こう側にいた人間の気配は無かった。
◇ ◇ ◇
「みんなー、お待たせー。…へぶ!?」
「遅いです」
ちょっと加勢に来てあげたのに殴られたよ?
「今までなに、駄弁っていたんですか?」
「いやー、駄弁っていたんじゃないよ、道草食ってたんだよ?」
「いや、もっと駄目ですよ。おかげで少し負けそうなんですが、それは」
「もっと、頑張れ。死ぬ気でやればなんとかなる。当たって砕けろ」
そうそう、私みたいに死ぬ気でスキルぶっぱなせば、あんな魔物くらい一人で……。
え?普通の人とお前を比べるな?やだなー、私は少し強いだけよ?少し、他の人より多くの属性使えるだけだからね。
「そういう問題ではないです。ていうか、砕けたら駄目でしょう。…この人、主でなければ、すぐにぼこぼこにしてあげたい」
「お、おう。私、主で良かった」
「主でなければ死んでいましたね。これに懲りたら、そろそろここから出ましょうか」
「おっけー、さっきからイライラしていたからね。私も本気を出そう」
「あー、本気を出すのは良いんですけどね、森…壊さないでくださいね」
「おっけ」
クロヒメは軽く返事をして、行ってくるということを手を振って伝えた。何も返事が無かったので、一瞬、後ろを見てみた。
クーは、少し顔を引きつらせて手を振っている。その顔には、実に軽い主です、と書いてあった。
クロヒメはジト目で数秒間、見つめていた。しかし、クーは悪びれた様子もなく、ずっと手を振っていた。
「はぁ…。だけど、これも仕方が無いかな。私が軽いのもいけないわけだし……」
「さて、やろっか」