決着
「やろっか」
「クロヒメ様、今度こそ本気で……って」
目の前のクロヒメの行動を見て思わず、口を開けて数秒間フリーズした。
理由?理由ですか?ほら、見てください。
クーが、指を指した先でクロヒメは準備体操をしていた。
いや、準備体操も大切ですが、もう少しあの魔物に対しての敬意とこれからの戦闘に向けての緊張感をだな…、おっと。
口調を変わるところでした。
「もう少し、緊張感を持ってください」
「はいよー」
「だから、それが緊張感を持ってない」
「うわ、シャドまで何言って……。あ、はい、分かりました」
反論しようとしたクロヒメだが、シャドのオーラと言外の言葉を読み取り、折れた。
「じゃ、じゃあ、ふぁいやーぼーる、えあかったー」
クロヒメは火の玉を左手に風の刃を右手に構えた。
「こ、これで良いですか?く、クーさん」
「何だか、棒読みでしたが、どうぞ続けてください。…何見ているんですか?ほら、魔物も迫ってきましたよ」
まったく…クロヒメ様に何を言っても適当であることは変わりませんね。
「もうちょっと、何か言ってくれると思っていた」
そう言って、前を向いたクロヒメは魔物の接近におおぅ↑と反応し、躊躇いもなく、魔法を投げた。
◇ ◇ ◇
「やば、外した」
クロヒメの言葉通り、魔法は魔物に命中せず、大きく横に反れた。
クロヒメの言葉を読み取った様な魔物は、にやりと口元を歪めた。
「だけど、残念。その魔法は君に絶対当たるんだ」
「がァ!?」
魔物に知性はあるのか、クロヒメの言葉を読み取り、思わず、横に反れた魔法を見た。
それらはギュルルルルと音を発しそうなほど勢い良く回転を始めた。
そして、地面に着弾し回転を利用して魔物に向けて再発射した。
魔物に迫る間も赤く燃える炎と風を従える刃は空気を纏い更に威力と魔力量を上げた。魔力量では軽く、レベル10差の相手に届くほど。
「グル」
一つ唸り、ノーモーションで右斜め上へ跳躍し、大木の上に着地した。
「む…、そうきたか。……だけど、それもまた手段としては失敗だったね。だって、」
クロヒメの見つめる先で、またしても魔法は変化を見せた。魔物が元いた場所へ、着弾し…なかった。
次は物理的に、ではなく、何やら不規則なカーブを描き、魔物がいる大木へと向かった。そして、
「グルルルァ!!」
苦しそうな呻き声。遂にクロヒメの放った魔法は命中した。
だが、今の攻防でようやく何かを確信した、魔物はクロヒメの方へと身体を向けた。
「あぁぁ、やっぱり気づいちゃったかー。私が今の攻防戦で行っていたこと」
「えっと、それは何でしょうか?」
「私、分かるよ」
「ククも何となくですが、解が見えました」
クーを除き、他の2人はクロヒメが何をしていたのか分かったようだ。
「はい、なにをしていたでしょう、か」
「「魔法操作かな (でしょう)」」
二人同時に答えた。
クロヒメはにやりといたずらに成功した子どものように口元を歪めた。
「そう、私がしたのは、魔法操作だよ。まぁ、簡単に言えば、魔法を操ることが出来る。……え?仕組み?うーん、どう言えばいいかなー」
そこで、クロヒメは魔物を前にして、顎に指を添えて、よくある探偵のように考え始めた。
それを制しする一つの声が飛んだ。
「て、今は考え事をしないでください!先程も言いましたが、今は目の前の戦闘に集中してください」
「「ジトーーーー」」
「そして、二人は、何睨んでいるんですか?もしかしてクロヒメ様に説明させようとしていたんですか?戦闘中なのに?」
「い、いえ、そんなことは一つも」
「み、右に同じ…です」
二人は、クーの眼光に耐えることが出来なかったのか、若干どもりながら、何とか返事を返した。
そんな、二人を見てクロヒメは、クーは絶対に怒らせてはいけないと、心の中で誓った。
「グルァァァァ!!」
魔物は何もしていないが、クロヒメ達の戦闘の放棄に、イラッときて、無視をするなァという感じで吼えた。
そして、それを読み取ったクロヒメは、何か申し訳ない気持ちになり、ここからは集中しようと思った。
「さて、行くよ、みんな。一気に畳み掛けるよ!」
「がうあうあー」
クロヒメが魔法を放とうとすると、そこに、もりりんがスキルを合わせてきた。
光魔法のライトブレスだ。
『アビリティ、連鎖を獲得しました』
『アビリティ、二重魔法を取得しました』
連鎖:スキルを重ねることで、威力を上げる。
取得条件:初めて、スキルを重ねる (重ねてもらう)
二重魔法:特定の魔法or同じ属性、対立属性を連鎖させることで発生する。
取得条件:初めて、特定魔法を連鎖。
「へー、ほー、ふーん」
なんか、新しいアビリティを取得したぞ。
連鎖と二重魔法ね、まぁ、いいや、今はとにかく撃っちゃおう。
「想いを軌跡に乗せ、我が敵を浄化せよ。虹の軌跡」
「がうあー」
クロヒメともりりんは同時に魔法を撃った。
クロヒメの魔法は七色のレーザー、もりりんの魔法は金色のブレス。
それらは、重なり混じり合い、徐々に溶け、そして、一つの魔法になった。
「二重魔法 光輝の虹!!」
「ガアゥゥゥ」
「グルルゥ」
魔法の先で、魔物は逃げずに静かに待った。
彼には分かってしまったことがあるのだ。
───彼女からは絶対に逃げることは絶対に出来ない、と。
「グル……」
最後は、静かに終わろうと心掛け、黙って眩い光を受けることにした。
「え!?ちょ!」
クロヒメも、急に戦意が無くなった目の前の敵に戸惑った。
「まぁ…いいのかな?このまま、いっけー」
「……………ガ…ァ…」
二重魔法は魔物を、悲鳴をも包んだ。そして、光が消える頃には、魔物の禍々しい魔力も、その姿も消失していた。




