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今は昔の夏の日  作者: 上木MOKA
12/18

今は昔の事故現場

宣言通り、オカちゃんのパパさんが車を出してついて来てくれた。


あの夏の日に通った「秘密の抜け道」の先にある

道を挟んだスーパーと平面駐車場・・・


その平面駐車場に車を置いて、私達は踏切へ向かう

駐車場からスーパーとは反対側にある人専用の出入り口へ・・・


念の為「秘密の抜け道」を避けて歩いた・・・のだが

どうやら、当たりを引いたらしい。


その道には、片手で数えきれないくらいの事故の痕跡と

嘗て、花が手向けられたらしき場所の・・・そうと判る痕跡が残っていた。


歩道を囲う柵に巻き付けられた紐には・・・

ヨレヨレになって原形を留めていない花束が置き去りにされていたり


舗装された場所に・・・それっぽいシミができていたり


花壇らしき場所では・・・そこに植えられていた筈の植物は枯れ

花を包んでいたであろうビニールや紙で土が荒れていた。


そんな感じの場所は幾つも存在し、私達の目に留まったが・・・

あの場所は・・・探さなくても簡単に見つける事ができた。


生ゴミ臭いだけでは済まされない・・・

し尿も混ざっているのではないか?と言う臭いが、ほんのり漂うその場所


踏切内で見た夢の中の映像と酷似した場所は、そこにしかなかった。


炎天下の中

道端に献花された花が・・・供えられた食べ物や飲み物が・・・

酷い惨状を作り上げていた


ヌイグルミが傷み・・・腐り、虫が湧き・・・

ネズミやゴキブリ・・・あと何か分からない虫やカラスに荒らされ

腐敗が広がった場所には

地面にも蛆が湧いて蠅や小さな虫が飛び交っていた


その場所の存在が恐ろしかった。


献花するだけして、供えるだけ供えて・・・

献花した者・供えた者は、さぞや自己満足を満喫した事であろう


献花した花束が・・・供えられた品物が・・・その後どうなるのか?

生ゴミに出すしかないそれを・・・

誰が片付けてくれる思っていたのだろうか?


私だけではない、一緒に来た者全員が嫌悪したのではなかろうか?


『夢の中よりも・・・酷い』

臭いも、その場所の状態も・・・想定外に酷い有様が存在していた。


「生きてる人間を恨んで、化けて出たくなる気持ちも理解できなくもない」

これは・・・全員共通の意見であった

それほどまでに・・・その場所は酷い状態になっていた。


『こんなになっても、誰も片付けようとは思わなかったんだね』

愕然的な現実にチハが溜息を吐いた。


ゴミは、その場に放置した者が片付けなくてはいけない

大きな事故やマスコミが騒がない限り

市町村や国が片付けてくれるなんて事は滅多にない・・・


私達は・・・それをここで初めて実感し知った。


地域住民も・・・普通のゴミなら

ゴミの日に一緒に出してくれる人もいたかもしれないが・・・


死者に供えられた物を捨てる気になれなかったのかもしれない。


私はまた、駄菓子屋の御婆さんの言葉を思い出す

『御供え物をする時

その場所を管理する人がいなきゃ御供えしちゃ駄目なのよ』

本当にその通りだった・・・この場所の光景を見て

私はどんな事があろうと、道端に献花しない事を心に決めた。


立っているだけで汗が噴き出す様な暑さの中、私達は片付けた・・・

素手で触ると鼠やら虫がいて危険なので火バサミを使い

ゴミ袋に供えられた物を詰めていく

土に返り掛けたゴミが時の流れを映し出した。


片付けを頑張ったけど・・・ゴミを纏めてからも絶望は待っていた


「ゴミの日までゴミを預かるなんて以ての外」、

「一時そこへゴミを置き、その地域でゴミを出す」

と言う事すらも禁じられたのだ


まるで片付ける事すら罪があるかのように私達は罵倒され

事情を話しても『今直ぐに、ゴミを自分達で持ち帰れ』と言われ・・・

『持ち帰らなければ、ゴミを放置した罪で訴える』とまで言われた。


私達が途方に暮れていると・・・

顔なじみの「なんでも屋さん」が声をかけてきた


犬の散歩は勿論、溝掃除から庭木の管理

没者の遺品整理までしてくれるオールマイティな業者さんだ


彼は1万円でゴミの処理を引き受け

乗っていた軽トラックにゴミを乗せて走り去った。


私達はその時、憔悴していたに違いない


ふと、遠くを見ると・・・

ゆるぅ~くカーブした道の先、線路と踏切が見える


アキラがポツリと呟いた。

『きっと辛過ぎて寂し過ぎて・・・

知り合いを道連れにしたくなったんだな』

私は何となくその言葉に納得できた。

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