第13話 1日の終わり
「じゃーん! ウチの彼氏の映真ちゃんでーす! 頼りになってカッコいいんだよ!」
カナと映真は、2人で陸上部のミーティングルーム(2年5組教室)に入ってきた。
カナに腕を組まれて、映真は窮屈そうにしている。
すると、何人かの部員がわらわらと集まってきた。
「一年の転校生の子じゃん?!」「陸部に来てくれたんだ!」「好きな席に座ってね」
「は、はい……」
映真は、既に教室の中にいた俺の前に座った。
俺はすぐに、映真に小声で話しかける。
「おい映真、この数分の間に何があった? 『彼氏』って……まさかもう正体バレたのか?」
映真はすぐに首を横に振った。
「んなわけないだろ。俺がさっきトイレに行った時に偶然カナに遭って、なんだかんだで懐かれただけだ。『彼氏』ってのは知らん。陽キャのノリじゃない? カナの距離感バグってて困るよな……あ、言っとくけど、腕組まれて嬉しいとかないからね」
「へ、へぇ……」
俺は呆れてカナの方を見る。
(映真も、とうとうカナに絡まれたか……)
すると彼女と目が合った。
「あっ、観己っちやっほー。ごめんね、アンタの彼女を盗るような真似しちゃって」
『彼女』? あー出た出た。またあの噂だ。
最初に広めた奴 出てこい。マジで誰だよ。
「あのねぇ、俺と映真は別に……」
俺がそう否定しようとすると、柳井が前に出て来る。
「付き合ってない。本人たちがそう言ってんだから、みんなも、もうそれ以上ウワサを広めるのはよしてくれない?」
柳井の真剣な顔つきを見て、カナは「あっ、そうだったんだ!ごめん!」と謝った。
高校入学から5ヶ月経つけど、柳井に感謝したいと思ったのは初めてのことかもしれん。
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「支部予選、再来週末だね〜」「残暑えぐいって。死んじゃうよこれじゃ」
ミーティングが終わり、部員が続々と学校から帰って行く。
俺と映真は帰る方向が違うので、純やカナには別れを告げた。
「じゃ、また明日ね」
道中で信号を待ちながら、映真は伸びをする。
「あーっ、やっと1日が終わった〜。転校生ってこんな忙しいもんだっけ?」
今日は日差しが暑い。
俺は手で首元を扇ぎながら答えた。
「そもそもの話、高校で転校ってのが珍しいからね。とにかく、誰も映真の正体に気づくようなことがなくて良かった。まあ分身なんて夢物語だし、そりゃ誰も気づかなくて当たり前だけど」
「そうだな。あとは周囲の環境に慣れるだけか……」
トイレ、着替え、部活……次々と懸念点が湧き出てきて、映真は気が滅入る。
それでも、女子として生きていくと決めた以上は、1つ1つ対応していかなくちゃならない。
映真はスマホを取り出し、とあるアプリを開いた。
「宝石の反応は……未だ無しか」
現在、家の物置内の、箱の中に仕舞っている例の宝石。
そして宝石と一緒に、そのアプリと連携をとっている光量センサも設置してある。
宝石が発光すれば、センサが反応してアプリに記録されるという手筈だ。
映真が学校に行くことで、宝石に何か動きがあると思ったのだが……どうやら、その期待は叶わなかったらしい。
信号が青に変わり、俺は歩き出す。
「前の生理の時みたいに、映真が直接触れなくても宝石が光ることがある、っていうのは分かってるんだけど……その原因も原理も、全くの不明だな」
1ヶ月近く、家族総出で宝石や分身について調べているが、手掛かりはゼロ。
それが見つかるまでは、引き続き映真を学校に通わせつつ、情報収集をするしか手段はない。
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「……宝生さんって、本当にただの観己のいとこ なのかな?」
帰りの電車の中で、ふと純はそう呟いた。
一緒に乗っていたカナと柳井は、首を傾げる。
「え、あの2人はカップルじゃないんでしょ?」
「そうだよ。今さら何言ってんだ町嶋」
「あ、いや……そういう話ではなくて……」
窓の外を見ながら、純は今日のことを思い出していた。
(俺の考え過ぎかもしれないけど……宝生さん、ところどころ、観己と同じ抑揚や口調で話していた気がする。
それに歩き方も似てたし、弁当で最後に玉子を食べるところも同じだった。
何より、2人は単に『久しぶりに会ったいとこ』の関係。にしては、お互いの意思疎通がかなり自然だったような……)
純はゆっくりと口を開いた。
「……なあ2人とも。もし観己が嘘を吐くとしたら、それはどんな時だと思う?」
彼の唐突な質問に、柳井は困惑する。
「『どんな時』ってそりゃあ……片鳥は『嘘も方便』を体現したような奴だし、必要な時に必要な嘘を吐くんじゃねぇの? てか、急に何の話だ?」
「観己っちが何か嘘ついてるってこと?」
カナはそう質問したが、純は答えをはぐらした。
「……いや、もしもの話をしただけだよ」
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「「2人とも、鏡高校 新学期の初日、お疲れ様ー!」」
俺と映真がアパートに着くと、姉妹2人が玄関前で待機していた。
俺たちは呆れる。
「「……暇なの?2人とも」」
まだ日が明るく、夕方とは言えない時間帯だというのに、わざわざ姉妹揃ってここまで足を運んでくるとは。
これが、俗に言うブラコンってやつか?
あ、でも映真がいるからシスコンの線もある。
「私だって大学あるんだし、暇なわけじゃないよ。今日は2人のこと心配して来たんだよ?」
「映真姉ちゃんのために、友達との約束断ってきた!」
姉妹に囲まれながら、俺は家の中に入る。
そして、ソファに座り込んだ。
「学校なら、とりあえずなんとかなったよ。立見校長も色々と手を焼いてくれたみたいだし。だから、2人にそんなに心配されるようなことはない」
俺はきっぱり断ったが、双葉は納得してくれない。
「でもやっぱ気になるよ〜! 映真姉ちゃんがぼっちになったらイヤ! 友達できたの?」
この妹、映真のことをなんだと思ってるんだ。
映真は苦笑いをする。
「ぼっちにはなんないよ。観己も純も柳井もいるんだから」
すると希美は口を挟む。
「違うよ!『女友達』のことだよ。女子としての生活に慣れるなら、女子といるのが一番なんだからさ」
「ほら、カナさんとかいいんじゃない?兄ちゃんと同じ部活の、あの可愛い子だよ」
双葉にカナの名を出され、映真はトイレでの一件を思い出した。
「いやー……アイツはダメだろ。一緒にいると悪影響を受けかねない。もっとまともな女子を探してだな……」
そんな映真の言い草に、双葉は思わず憤慨する。
「そ、そんなこと言うなんてひどいよ映真姉ちゃん! カナさんは、今を生きる現役JKだよ? きっとたくさんのことを学べるはず。食わず嫌いはよくないよ!」
「お前な……『食わず嫌い』て言葉を人に対して使うな。変な意味に聞こえるから」
ただ映真は、双葉の発言に納得はしていた。
単純な女子力という意味では、確かにカナはレベルが高い部類だ。
カナとの交流は、数日間 様子を見てから考えるとしよう。
……と映真は思ったが、いかんせん、相手はあのカナだ。
『カナとの交流を選択する余地』すら与えてくれる間も無く、アイツに付きまとわれる予感しかしないんだけど。




