第12話 映真と友人
〈登場人物〉
・祖開 奏瑛・・・観己の同級生の陽キャ。『カナ』と呼ばれている。
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「サンキュー、助かったよ。まさかあんなに人に囲まれるとは思わなかったからさ」
人通りの少ない屋上行きの階段にて、映真は腰を下ろす。
俺も映真の隣に座った。
「どうだ?転校生として学校に来てみて」
映真は少し考えた後、答えた。
「いやぁ……俺ちょっと目立ち過ぎてる気がする。やっぱり緑の髪ってのが良くないんだよ。でも、かといって染めたり切ったりするのも怖いしな……」
『転校生』『観己のいとこ』『緑の髪』……様々な要素が重なってしまったせいで、現在は、必要以上に映真が目立ってしまっている状況になっているのだ。
だが、映真が目立つというのは別に想定内のことだし、そもそもそれは未然に防げるようなものでもなかった。
今は、周囲からの注目に耐えなければならない時期だ。
映真は頭を抱える。
「大変だよこれは。大量の質問に対して、違和感や矛盾のない返答をしないといけないし。まあ注目されること自体には慣れてるから、問題は無いんだけど……あ、でもそうそう、男子の視線だけはなんとかしたい」
「男子の視線?」
俺が聞くと、映真は思い出したかのように身震いをした。
「何かたまに感じるんだよ……思春期男子の下心丸出しの視線が……! 柳井とか、さっきチラチラって俺の胸見てたし!」
俺は呆れた。
大げさな映真の態度と、変態柳井の両方に対してだ。
「まあ高校生男子なんだからそれくらい許してやれ。……ていうか、映真だって中身は男子じゃん。それに映真に関しては、女子と近距離で話し放題だし、合法的に女子のこと見れるし、むしろ嬉しいプラス要素しかないだろ」
映真は頬を赤らめながら俺を睨む。
「お前な……俺の中身が『片鳥 観己』だってことをちゃんと考えながら発言しろよ。後で恥ずかしくなるのそっちの方だぞ」
「あはは、確かに……」
そうしていると、外の方から騒がしい声が聞こえてきた。
続々と生徒が下校しているのだ。
だがその一方で、まだ学校に残っている生徒も多くいる。
いくつかの部活道は、始業式の日から活動が始まるからだ。
そして、俺が所属する陸上部もその1つだった。
「映真はもう入部届け出したんだよな?」
俺が聞くと、映真は親指を立てた。
「もちろん、今朝 職員室に行った時に出してきたよ。これでやっと陸上の練習ができる」
「んじゃ、そろそろ弁当を食べに食堂に行くか。流石に、さっきの人だかりはもう無くなっているだろうし」
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俺たちは教室へ戻って弁当と荷物を回収し、食堂へ向かった。
周囲の生徒が、映真のことを目で追っている。
その生徒の中に、食堂の席に座って、弁当を用意している純と柳井を見つけた。
俺は思わず声をかける。
「あれ、まだ2人とも弁当食べてなかったの?」
純はいつもの落ち着いた表情で答える。
「当たり前だろ。同じ部活に行くんだから、一緒に食べようよ」
「……そうだな、ありがとう」
相変わらずの純の育ちの良さに感心しながら、俺は席に座った。
柳井も笑顔で映真を手招きし、自分の隣に座らせる。
「ほら、宝生さんもここ座って。俺、宝生さんとも話したいなと思ってたし」
『宝生さんと話したい』って、単に友達になりたいからか? それとも下心からか?
映真は不信感を抱きながら席に着き、口を開いた。
「君、さっき話しかけてきてくれた柳井くんだよね?」
無論、これは転校生感を演出するための映真の演技である。
だが映真に名前を覚えられていたことが嬉しかったのか、柳井の顔が一層明るくなった。
彼の純粋な瞳を見て、映真は少し安心する。
「そうそう、俺 柳井 珀磨! んで、この地味メガネが町嶋 純っていうの」
「『地味メガネ』……?」
妙なあだ名をつけられ、純は軽く柳井を睨む。
そして、すぐに映真の方を向いた。
「どうも、観己の友人の町嶋です。以後お見知りおきを。鏡高校への転入試験に合格するなんて、宝木さんは頭が良いんですね」
映真は作り笑いを浮かべる。
「あ、ありがとう。勉強した甲斐があったかな……」
「ちなみに……俺が首を突っ込むのもなんですけど、観己とは上手く生活できていますか?」
「…………」
映真は強い違和感を感じた。
その理由は、純に敬語を用いられたから。
だが、純にとって映真は初対面の相手。
純の性格上、彼が敬語を使うのも当然だ。
(そっか……また純との関係は一からやり直しか……)
映真は自分の立場を再認識し、どこか空虚な気持ちを抱いた。
が、すぐに切り替えて返事をする。
「観己とのことなら問題ないよ。観己はわざわざ私のために部屋を貸してくれてるんだから、私なんかが文句も何も言えないしね。あとそれに、私とはタメ口で話してもらって全然大丈夫だから!」
一瞬、純は何かを言いたそうな顔をしたが、すぐに元の表情に戻った。
「……そっか、ならそうせてもらうよ。宝生さんは観己と似てるし、俺としても、宝生さんとはフランクに話せた方が接しやすい」
「あ、じゃあ私、町嶋くんのこと『純』って呼んでいい?」
「もちろん」
どんどん映真と打ち解けていく純を見て焦ったのか、柳井も身を乗り出して話す。
「俺もタメ口 オーケーだからね!」
俺はすぐに指摘をする。
「お前はずっとタメ口だっただろ」
「柳井くんずっとタメ口だったじゃん……あ」
俺と映真は顔を見合わせた。
こういう時に、しょっちゅう映真とセリフが被るのが、地味に不便なところなんだよな……。
そんな俺たちの様子を、柳井は訝しげに見る。
「あの……ちょっと聞きたいことあるんだけどさ。片鳥と宝生さんって、もしかして……付き合ってたりする?」
((…………?!))
俺たちは驚愕のあまり言葉を失った。
その柳井の言葉は、俺の記憶にある限りで屈指の爆弾発言だったからだ。
少しして、柳井に言われたことをようやく理解し、俺たちら全力で否定にかかる。
「俺と映真が?!ないないない!ぜぇったいない!」
「そんなの天地がひっくり返ってもありえないから!」
柳井は、2人のあまりの勢いに気圧された。
「あ、いや……別に違うなら違うでいいんだけど……。なんかさっき教室で、「2人は付き合ってるんじゃないか」みたいな噂を聞いたからさ」
なんでそんな噂が? そういう話が出るにはあまりにも早過ぎないか?
俺は、柳井に真剣に懇願する。
「おい柳井。もしまたその話が出たら「本人が否定していた」って言っておいてくれ。絶対言ってくれ」
「お、おう……」
ちなみにだが、もし万が一にでも俺と映真の間に恋愛感情が生まれた場合、それはどうやって定義されるんだろう?
映真は俺の分身なわけだから……オートセクシャル?
……いや、ありえないな。俺はそのような性的指向は持ち合わせてないし。
映真も、映真と俺とのカップリングを想像してしまい、腕に鳥肌が立っている。
俺たちの尋常じゃない雰囲気を察したのか、純は話題を変えてくれた。
「……そういえば、弁当を持って来てるってことは、宝生さんも午後の部活やるんだよね? 宝生さんはどこの部活に入ったの?」
「私も、観己と同じ陸上部にしたよ。長距離やろうと思って」
映真の返答を聞いて、柳井は再び歓喜した。
「え!陸部?やった! 3年の先輩が引退しちゃって部員数減っちゃったところだったし、みんな喜ぶんじゃない? 飯食い終わったら早速着替えて部活行こうぜ!」
いきいきとする柳井に、純はすかさず水を差す。
「柳井。今日の部活はミーティングだけだから、着替える必要はないぞ」
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一階の女子トイレ前。
映真は辺りをキョロキョロ見渡しながら、ゆっくりとドアノブを掴む。
完全に、挙動が不審者のそれだ。
だが、映真は単に、部活のミーティングに向かう前にトイレに来ただけだった。
映真が女子トイレの中に入ると、洗面台の鏡の前でうろついている1人の女子と目が合った。
その彼女は、映真に気付くやいなや話しかける。
「緑の髪……あっ、キミもしかして今朝の転校生の子?! 確か名前は……宝生 映真ちゃんだよね!」
「う、うん……」
「やったーやっと話せた!映真ちゃんって観己っちのイトコなんでしょ~? ウチはカナ!よろしくね!」
映真はもちろん、この女子のことも知っている。
祖開 奏瑛……通称『カナ』。
陸上部に所属する、女子短距離のエース。
グイグイ話しかけてくるタイプの、陽キャ人間だ。
観己や純はいつも、カナのウザ絡みを回避するために奮闘している。
「よろしく、カナ…さん」
立場上、『カナ』と呼び捨てにするのもアレなので、映真は渋々『さん』を付けた。
だがそんな心配も、カナに対しては無用だった。
「あはは、全然呼び捨てでいいよ〜。ウチのことは『カナ』って呼んで〜」
相変わらず笑顔で愉快な奴だ。
(観己だろうが映真だろうが、カナのウザ絡みからは逃れられそうにないな……。さっさと避難しよう)
映真はさっさとトイレの個室に入ろうとしたが、鏡の前でうろついていたさっきのカナの様子が、少し気にかかった。
「……カナ、何か探してるの?」
図星だったのか、彼女はドキッとした。
「あっ、バレちゃった? そうそう、実はウチのクシがどっか行っちゃったっぽくてさ……スカートのポケットに入れてたはずだったんだけどなぁ……」
カナは辺りを見渡す。
(なるほど、落し物か。カナらしい)
面倒だが、このまま彼女を見捨てるわけにもいかないだろう。
そう思った映真は、彼女に手を差し伸べる。
「私も、カナの櫛探すの手伝うよ」
「えっ……ありがとう!」
カナは目を輝かせ、その手を取ろうとする。
しかし映真はすぐに手を引っ込めた。
「あっ、カナって手洗った?」
「あ……やばーっ、洗ってなかったごめんあぶなーっ!」
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2人は一旦トイレを出る。
映真は尋ねた。
「ちなみに、カナはどこに櫛があると思ってるの?」
カナは顎に手を当て、記憶を辿る。
「放課後すぐの時にはまだあったんだよね……。だから、失くしたのはこの数十分の間だと思う。教室か廊下か食堂か……」
「職員室は?」
映真にそう言われ、カナは困惑した。
「え、職員室? ウチはそこには行ってないよ」
「いやほら、職員室前に落とし物ボックスってあるでしょ? まずはそこを見に行ってからが良いと思うんだけど」
映真はごく当たり前の提案をする。
だが、カナにその考えはなかったらしい。
「うお映真ちゃん天才!いこいこ!」
カナに腕を引っ張られ、映真は落とし物ボックスを確認しに行く。
すると案の定、彼女の櫛は見つかった。
誰かが既に拾い、届けてくれていたわけだ。
結局、見つかるまで数分もかからなかったじゃないか。
(カナのこの調子じゃ、またいつか物を失くしそうだな……)
呆れる映真の内心などつゆ知らず、カナは彼女に感謝の言葉を述べた。
「さんきゅー映真ちゃん!助かった~!失くしてたらやばかったよ~。ほんと、映真ちゃんを彼氏にしたいくらい!」
「はは、どういたしまして」(別に俺、大して何もしてないんだけどな……)
よくこんな能天気な奴が鏡高校に受かったな、と映真は心底不思議に思う。
そしてそれと同時に、映真はあることに気づいた。
不本意ながら、記念すべき『映真としての女友達第一号』が、カナになったのではないか、と。




