↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/60

第12話 映真と友人

〈登場人物〉


・祖開(そかい) 奏瑛(かなえ)・・・観己の同級生の陽キャ。『カナ』と呼ばれている。



ーーーーーーーーーー



「サンキュー、助かったよ。まさかあんなに人に囲まれるとは思わなかったからさ」

人通りの少ない屋上行きの階段にて、映真は腰を下ろす。


俺も映真の隣に座った。

「どうだ?転校生として学校に来てみて」


映真は少し考えた後、答えた。

「いやぁ……俺ちょっと目立ち過ぎてる気がする。やっぱり緑の髪ってのが良くないんだよ。でも、かといって染めたり切ったりするのも怖いしな……」

『転校生』『観己のいとこ』『緑の髪』……様々な要素が重なってしまったせいで、現在は、必要以上に映真が目立ってしまっている状況になっているのだ。


だが、映真が目立つというのは別に想定内のことだし、そもそもそれは未然に防げるようなものでもなかった。

今は、周囲からの注目に耐えなければならない時期だ。


映真は頭を抱える。

「大変だよこれは。大量の質問に対して、違和感や矛盾のない返答をしないといけないし。まあ注目されること自体には慣れてるから、問題は無いんだけど……あ、でもそうそう、男子の視線だけはなんとかしたい」


「男子の視線?」


俺が聞くと、映真は思い出したかのように身震いをした。

「何かたまに感じるんだよ……思春期男子の下心丸出しの視線が……! 柳井とか、さっきチラチラって俺の胸見てたし!」


俺は呆れた。

大げさな映真の態度と、変態柳井の両方に対してだ。

「まあ高校生男子なんだからそれくらい許してやれ。……ていうか、映真だって中身は男子じゃん。それに映真に関しては、女子と近距離で話し放題だし、合法的に女子のこと見れるし、むしろ嬉しいプラス要素しかないだろ」


映真は頬を赤らめながら俺を睨む。

「お前な……俺の中身が『片鳥 観己』だってことをちゃんと考えながら発言しろよ。後で恥ずかしくなるのそっちの方だぞ」


「あはは、確かに……」


そうしていると、外の方から騒がしい声が聞こえてきた。

続々と生徒が下校しているのだ。


だがその一方で、まだ学校に残っている生徒も多くいる。

いくつかの部活道は、始業式の日から活動が始まるからだ。

そして、俺が所属する陸上部もその1つだった。

「映真はもう入部届け出したんだよな?」


俺が聞くと、映真は親指を立てた。

「もちろん、今朝 職員室に行った時に出してきたよ。これでやっと陸上の練習ができる」


「んじゃ、そろそろ弁当を食べに食堂に行くか。流石に、さっきの人だかりはもう無くなっているだろうし」



ーーーーーーーーーー



俺たちは教室へ戻って弁当と荷物を回収し、食堂へ向かった。

周囲の生徒が、映真のことを目で追っている。

その生徒の中に、食堂の席に座って、弁当を用意している純と柳井を見つけた。

俺は思わず声をかける。

「あれ、まだ2人とも弁当食べてなかったの?」


純はいつもの落ち着いた表情で答える。

「当たり前だろ。同じ部活に行くんだから、一緒に食べようよ」


「……そうだな、ありがとう」

相変わらずの純の育ちの良さに感心しながら、俺は席に座った。


柳井も笑顔で映真を手招きし、自分の隣に座らせる。

「ほら、宝生さんもここ座って。俺、宝生さんとも話したいなと思ってたし」


『宝生さんと話したい』って、単に友達になりたいからか? それとも下心からか?

映真は不信感を抱きながら席に着き、口を開いた。

「君、さっき話しかけてきてくれた柳井くんだよね?」

無論、これは転校生感を演出するための映真の演技である。


だが映真に名前を覚えられていたことが嬉しかったのか、柳井の顔が一層明るくなった。

彼の純粋な瞳を見て、映真は少し安心する。

「そうそう、俺 柳井 珀磨! んで、この地味メガネが町嶋 純っていうの」


「『地味メガネ』……?」

妙なあだ名をつけられ、純は軽く柳井を睨む。

そして、すぐに映真の方を向いた。

「どうも、観己の友人の町嶋です。以後お見知りおきを。鏡高校への転入試験に合格するなんて、宝木さんは頭が良いんですね」


映真は作り笑いを浮かべる。

「あ、ありがとう。勉強した甲斐があったかな……」


「ちなみに……俺が首を突っ込むのもなんですけど、観己とは上手く生活できていますか?」


「…………」

映真は強い違和感を感じた。

その理由は、純に敬語を用いられたから。

だが、純にとって映真は初対面の相手。

純の性格上、彼が敬語を使うのも当然だ。


(そっか……また純との関係は一(いち)からやり直しか……)

映真は自分の立場を再認識し、どこか空虚な気持ちを抱いた。


が、すぐに切り替えて返事をする。

「観己とのことなら問題ないよ。観己はわざわざ私のために部屋を貸してくれてるんだから、私なんかが文句も何も言えないしね。あとそれに、私とはタメ口で話してもらって全然大丈夫だから!」


一瞬、純は何かを言いたそうな顔をしたが、すぐに元の表情に戻った。

「……そっか、ならそうせてもらうよ。宝生さんは観己と似てるし、俺としても、宝生さんとはフランクに話せた方が接しやすい」


「あ、じゃあ私、町嶋くんのこと『純』って呼んでいい?」


「もちろん」


どんどん映真と打ち解けていく純を見て焦ったのか、柳井も身を乗り出して話す。

「俺もタメ口 オーケーだからね!」


俺はすぐに指摘をする。

「お前はずっとタメ口だっただろ」

「柳井くんずっとタメ口だったじゃん……あ」

俺と映真は顔を見合わせた。

こういう時に、しょっちゅう映真とセリフが被るのが、地味に不便なところなんだよな……。


そんな俺たちの様子を、柳井は訝しげに見る。

「あの……ちょっと聞きたいことあるんだけどさ。片鳥と宝生さんって、もしかして……付き合ってたりする?」


((…………?!))

俺たちは驚愕のあまり言葉を失った。

その柳井の言葉は、俺の記憶にある限りで屈指の爆弾発言だったからだ。


少しして、柳井に言われたことをようやく理解し、俺たちら全力で否定にかかる。

「俺と映真が?!ないないない!ぜぇったいない!」

「そんなの天地がひっくり返ってもありえないから!」


柳井は、2人のあまりの勢いに気圧(けお)された。

「あ、いや……別に違うなら違うでいいんだけど……。なんかさっき教室で、「2人は付き合ってるんじゃないか」みたいな噂を聞いたからさ」


なんでそんな噂が? そういう話が出るにはあまりにも早過ぎないか?


俺は、柳井に真剣に懇願する。

「おい柳井。もしまたその話が出たら「本人が否定していた」って言っておいてくれ。絶対言ってくれ」

「お、おう……」


ちなみにだが、もし万が一にでも俺と映真の間に恋愛感情が生まれた場合、それはどうやって定義されるんだろう?

映真は俺の分身なわけだから……オートセクシャル?

……いや、ありえないな。俺はそのような性的指向は持ち合わせてないし。


映真も、映真と俺とのカップリングを想像してしまい、腕に鳥肌が立っている。


俺たちの尋常じゃない雰囲気を察したのか、純は話題を変えてくれた。

「……そういえば、弁当を持って来てるってことは、宝生さんも午後の部活やるんだよね? 宝生さんはどこの部活に入ったの?」


「私も、観己と同じ陸上部にしたよ。長距離やろうと思って」


映真の返答を聞いて、柳井は再び歓喜した。

「え!陸部?やった! 3年の先輩が引退しちゃって部員数減っちゃったところだったし、みんな喜ぶんじゃない? 飯食い終わったら早速着替えて部活行こうぜ!」


いきいきとする柳井に、純はすかさず水を差す。

「柳井。今日の部活はミーティングだけだから、着替える必要はないぞ」



ーーーーーーーーーー



一階の女子トイレ前。

映真は辺りをキョロキョロ見渡しながら、ゆっくりとドアノブを掴む。

完全に、挙動が不審者のそれだ。

だが、映真は単に、部活のミーティングに向かう前にトイレに来ただけだった。


映真が女子トイレの中に入ると、洗面台の鏡の前でうろついている1人の女子と目が合った。

その彼女は、映真に気付くやいなや話しかける。

「緑の髪……あっ、キミもしかして今朝の転校生の子?! 確か名前は……宝生 映真ちゃんだよね!」


「う、うん……」


「やったーやっと話せた!映真ちゃんって観己っちのイトコなんでしょ~? ウチはカナ!よろしくね!」


映真はもちろん、この女子のことも知っている。


祖開(そかい) 奏瑛(かなえ)……通称『カナ』。

陸上部に所属する、女子短距離のエース。

グイグイ話しかけてくるタイプの、陽キャ人間だ。

観己や純はいつも、カナのウザ絡みを回避するために奮闘している。


「よろしく、カナ…さん」

立場上、『カナ』と呼び捨てにするのもアレなので、映真は渋々『さん』を付けた。


だがそんな心配も、カナに対しては無用だった。

「あはは、全然呼び捨てでいいよ〜。ウチのことは『カナ』って呼んで〜」

相変わらず笑顔で愉快な奴だ。


(観己だろうが映真だろうが、カナのウザ絡みからは逃れられそうにないな……。さっさと避難しよう)


映真はさっさとトイレの個室に入ろうとしたが、鏡の前でうろついていたさっきのカナの様子が、少し気にかかった。

「……カナ、何か探してるの?」


図星だったのか、彼女はドキッとした。

「あっ、バレちゃった? そうそう、実はウチのクシがどっか行っちゃったっぽくてさ……スカートのポケットに入れてたはずだったんだけどなぁ……」

カナは辺りを見渡す。


(なるほど、落し物か。カナらしい)

面倒だが、このまま彼女を見捨てるわけにもいかないだろう。

そう思った映真は、彼女に手を差し伸べる。

「私も、カナの櫛(くし)探すの手伝うよ」


「えっ……ありがとう!」

カナは目を輝かせ、その手を取ろうとする。

しかし映真はすぐに手を引っ込めた。

「あっ、カナって手洗った?」


「あ……やばーっ、洗ってなかったごめんあぶなーっ!」



ーーーーーーーーーー



2人は一旦トイレを出る。

映真は尋ねた。

「ちなみに、カナはどこに櫛があると思ってるの?」


カナは顎に手を当て、記憶を辿る。

「放課後すぐの時にはまだあったんだよね……。だから、失くしたのはこの数十分の間だと思う。教室か廊下か食堂か……」


「職員室は?」


映真にそう言われ、カナは困惑した。

「え、職員室? ウチはそこには行ってないよ」


「いやほら、職員室前に落とし物ボックスってあるでしょ? まずはそこを見に行ってからが良いと思うんだけど」

映真はごく当たり前の提案をする。


だが、カナにその考えはなかったらしい。

「うお映真ちゃん天才!いこいこ!」



カナに腕を引っ張られ、映真は落とし物ボックスを確認しに行く。

すると案の定、彼女の櫛は見つかった。

誰かが既に拾い、届けてくれていたわけだ。

結局、見つかるまで数分もかからなかったじゃないか。


(カナのこの調子じゃ、またいつか物を失くしそうだな……)

呆れる映真の内心などつゆ知らず、カナは彼女に感謝の言葉を述べた。

「さんきゅー映真ちゃん!助かった~!失くしてたらやばかったよ~。ほんと、映真ちゃんを彼氏にしたいくらい!」


「はは、どういたしまして」(別に俺、大して何もしてないんだけどな……)

よくこんな能天気な奴が鏡高校に受かったな、と映真は心底不思議に思う。


そしてそれと同時に、映真はあることに気づいた。

不本意ながら、記念すべき『映真としての女友達第一号』が、カナになったのではないか、と。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。