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番外編:公国の話1


>>Side:大公 アルド=バリエ


さる一報を受けて開かれた会議は喧騒を生みつつも遅々として進まなかった。

それもそのはずである。

誰もこんな事態は想定していないのだから。


「結局アルカの町はどうなっているのだ!?」

「魔王の姿を確認したものはいないのか!?」

「騎士を派遣したのではないのか!?」


魔王に襲撃を受けたというアルカに我がバリエ公国の誇る騎士団から第3騎士隊を派遣した。

しかし、帰ってきたのは町の中に入らなかった拠点待機組だけである。

アルカの町に突入した騎士たちは誰も帰ってこなかった。

それは第3騎士隊を率いていたヴァレリ=カンデイユ隊長も同じだった。

その事を殊更に取り上げて騎士団を非難する声が上がる。


「なぜ騎士隊派遣したにも拘わらずアルカの町が解放できていないのか!?」

「騎士団長!!これは責任問題ですよ!!」

「しっかりとした説明を希望します!!」


その言葉を受けても騎士団長ミハイル=ヴィアリは腕を組んだまま沈黙を貫いていた。

彼は第3騎士隊を派遣したことが間違いだったと思っていないのだろう。

いや、ここにいる誰もがそう思っていないと信じたい。

それでも力不足だったことに変わりはない。

現にアルカの町は解放できていないばかりか、その情報を持ち去ることさえできていないのだから。


「早々に次の騎士を派遣すべきでは!?」

「いや、魔物の相手は冒険者に任せるべきではないだろうか!?至急、冒険者ギルドに依頼すべきだ。」

「魔物を同行すより魔王をどうにかするほうが先決だ!!」


私は内心でため息を吐く。

会議に参加している諸侯は皆が皆好き好きに意見を出し合うばかりで話がちっとも進まない。

私は宰相に視線を送る。

宰相は頷き、徐に立ち上がり口を開いた。


「皆言いたいことはあると思うが落ち着いてくれ。」


その言葉を受けて諸侯は一応の落ち着きを取り戻した。

それを確認して私は口を開く。


「まず初めに第3騎士隊の多くが帰らなかったこと残念に思う。彼らの冥福をここに祈ろう。」


会議に参加している皆の視線が私に向く。

これに臆しているようでは大公など務まらない。

私は続けて言葉を口にした。


「そして、第3騎士隊が情報を持ち帰れずに死したこと。私はこれを失策だとは思わないことをここに宣言しておこう。」


私のその言葉にざわざわと会議室が騒ぎ出した。

皆が思うところがあるのはわかっている。

しかし、それを慮っていては話が進まないのだ。

何よりここで騎士団のミスだと言って騎士団長を処断するわけにもいかない。

今は何より戦力が必要なのだから。


宰相が騒がしくなった会議室で一言「静かに。」と一喝した。

皆が静かになったことを確認して私は再び口を開いた。


「とは言っても情報を持ち帰れなかったのは事実。そうであるな騎士団長?」


「はい。帰還した第3騎士隊の騎士から聞いた話は町の外の情報ばかり。町の中に関しましては全く情報がありません。」


騎士団長の言葉を聞いて声を上げようとする参加者がいたが宰相が視線を送り黙らせる。

私はそちらを無視してなおも皆に語り掛ける。


「うむ。ならば最悪の事態を想定して対処方法を議論してもらいたい。再び済まぬな騎士団長、この場合の最悪の事態とは何が想定できる。」


「はい。逃げ延びたアルカの住人が確認していた男は魔王であると断定。そのうえでレッサードラゴンクラス以上の魔物が町にいることが考えられます。」


「なぜ、レッサードラゴン以上の魔物なのだ?」


「はい。亜竜クラスの魔物であれば第3騎士隊で問題なく対処可能だからです。」


「なるほど。第3騎士隊が対処できないレベルがレッサードラゴンクラス以上と言うわけじゃな。皆聞いての通りだこの事態において我々が次にどう出るべきか検討をしてくれ。」


私はそう言って口を閉じた。

これで少しは有意義な会議となることを願うばかりである。

そんな中この会議の場において冷静な1人の貴族が口を開いた。


「陛下。議論に入る前に騎士団長に質問したいことがあるのですが構わないでしょうか?」


私は騎士団長の顔を見る。

彼は頷いてそれを了承した。


「よい。申してみろ。」


「では、騎士団長。先ほどの話では第3騎士隊が返ってこなかった理由を魔物が原因であると断定していましたがその根拠はあるのでしょうか?」


「うむ。質問に質問で返すようで悪いが、その質問の真意はなんだ?」


「はい。魔物以外にも第3騎士隊が返ってこない要因があると考えました。罠の可能性、毒や病気などの可能性。それらを考えずに魔物のせいとしたのは何故でしょうか?」


なかなかに鋭い質問だった。

確かに魔物以外の原因は考えていなかった。

しかし、その辺を騎士団長が考えていないとは思えない。

私は期待の籠った目で騎士団長を見た。


「それらに関しては私も考えた。しかし、その中で一番最悪のケースが魔物によるものだと判断したのだ。先ほど陛下は最悪の場合を想定した議論を臨むと仰られていた。だからこそ魔物による死亡のケースをお話しした次第だ。回答としてはこれでいいかな?」


「なるほど、わかりました。お手間を取らせてしまい申し訳ありません。」


そう言ってその貴族は口を閉じた。

私はそれを確認して宰相に視線を投げた。

宰相はそれを受けて頷き、口を開く。


「それでは議論を始めてくれ。」


そして再び会議室に喧騒が訪れた。

次は先ほどよりも実のある会話が行われるようになった。


「まずは魔王の対応と魔物の対応を分けて考えるべきだと思う。」

「と言うと?」

「一緒に対応していては兵がいくらいても足りないからだ。戦略を持って両者を分断したうえで対処するべきだろう。」

「しかし、そのためには詳細な情報が必要となるぞ。」


会議の内容は実のあるものとなってきたがどうしても結論を出せずにいる。

皆が手探りに会議を進めているのが見て取れた。

それでもどうにか光明を見つけようと必死であった。

会議は魔王についての話に波及した。


「魔王に対応するためにはどれだけの兵力が必要だ?」

「過去の資料を当たらせよう。」

「いや、過去の魔王と今回の魔王を同一視するのは危険ではないか?」

「なら何を参考に戦力分析する?」


魔王の戦力分析は確かに困難だ。

過去に魔王を討伐した記録はいくつか残っているがどれ1つとっても同じ魔王は存在しなかった。

だからこそ魔王のことを知るためには実際にその魔王を目で見るしかないのだ。

しかし、今回の場合は男であるということと魔物を操っていたということしか情報が無い。

それでは魔王のことを知っているとは言えないだろう。

だからこそ魔王のことは一度持ち帰って検討することにし目下の驚異である魔物について話すことになった。


「騎士団長。レッサードラゴンクラスの魔物を倒すための戦力は今の公国にあるのか?」

「いや、現時点ではそれほどの戦力が無いのが実情だ。」

「では、そもそも魔王どころではないではないか!」

「その通りだ。まずはレッサードラゴンクラスの魔物を倒すことを考えるべきでは?」


現状、騎士団であろうと冒険者であろうと対処できるのは亜竜クラスがやっとだ。

レッサードラゴンクラスの魔物を倒せるようなものは個人でも集団でもいなかった。

それは今に限ったことではない。

過去を見てみてもそれだけの力を持つものは数えるほどしかいなかった。

そう言ったものはその時代で最強と呼ばれる類の人たちだった。

それを知っているものは先ほどの騎士団長のレッサードラゴンクラスの魔物がいると聞いて顔を青くしている。

内心ではアルカの解放を不可能だと思っているのだろう。

私自身立場が無ければ声高にそう叫びたい。

しかし、それは許されないのだ。

私たちはバリエ公国の民たちを守る立場にいる。

だからこそ守るためにできないことでもしなければならないのだ。


「あの異世界人たちならどうだろうか?」


会議が紛糾する中そんな声が上がった。

皆がその発言をした貴族の方を向いた。


「あの異世界人たちなら私たち以上の力を有しているのだろう?ならば彼らにアルカの解放を命ずればいい。」


まるで名案であるかのようにその貴族はそう口にした。

その目は期待で満ちていた。

いや、彼だけでは無かった。

周りにいる多くの貴族たちも名案だと認めるように頷き晴れやかな表情をしていた。

私は騎士団長に視線を送る。

騎士団長はそれに気づき、ゆっくりと口を開いた。


「確かに彼ら異世界人は驚異的な力を持っています。しかし、レッサードラゴンクラスはおろか亜竜クラスの討伐経験もありません。」


騎士団長の口から出た言葉は暗に彼らでは難しいのではないかと意見するものだった。

その言葉を聞いて私は落胆する。

しかし、多くの帰属にとってはそうではなかったようだ。


「経験が無いのは機会が無かっただけでは?この機会に経験させてやればいい。」

「そうだ。力があるのならば問題ないはずだ。」

「何より彼らの目的は魔王を討伐することだろう?ならばこの件に大いに関わりがあるではないか。」


皆口々に彼ら異世界人に任せようと言ってくる。

しかし、それで本当に良いのだろうか?

我々の国の問題を本来部外者である彼らに任せてもいいのだろうか?


「確か彼らの中には剣帝のクラスに就いているものもいただろう?」

「剣帝だと!?それはすごい!!」

「ああ、それだけの者がいるのならばアルカの解放も目ではないな。」

「それどころか魔王だって討伐してくれることでしょう。」


色々と迷うところはあるがそれは私個人的な感情に過ぎない。

実際のところ貴族たちが言っているように異世界人の彼らに任せるしかないのかもしれない。

私は結論が出せぬまま騎士団長に意見を聞くことにした。


「異世界人たちの訓練は騎士団長に一任していたな?彼らならアルカを解放できるか?」


「はい。断言はできませんが可能性はあるかと思います。しかし、今すぐには無理でしょう。」


「と言うと?」


「はい。彼らは戦いの初心者です。未だ訓練は1年しか積んでいません。できれば後2年。少なくとも1年は頂かないとただ死ぬだけかと思います。」


確かにその報告は受けていた。

異世界人を最初受け入れたときに彼らの戦闘技術を騎士団長自らに確認してもらっていた。

その際に彼らが素人であること、戦場で使えるようにするには3年程の訓練が必要であると進言を受けていたのだ。

私はここでそれを思い出す。

ここで彼らを送り出すのは無駄に戦力を削るだけか………。

しかし、それを知らない貴族が騎士団長を非難する。


「この緊急事態に訓練などと悠長にもほどがある!」

「そうだ!それも2年だと!?冗談も休み休み言え!」

「陛下!今すぐにでも異世界人をアルカに向かわせるべきです!」


私は彼らの言葉を聞き流しながら考える。


「騎士団長。後1年あれば彼らに任せてもいいのだな?」


「はい。十分にとは言えませんが戦場で戦える程度にはできるかと思います。」


「そうか。」


騎士団長のその言葉を聞いて私は決断した。


「アルカの解放作戦は1年後、異世界人の訓練完了とともに行うこととする。本作戦の詳細は別途検討会を行う。騎士団長、異世界人の訓練並びに1年間のアルカの監視を命ずる。」


「は!」


「諸侯に関しては騎士団の要請に従い、諸々の物資、人の融通をすることを命ずる。」


「「「「は!」」」」


「うむ。皆思うところはあると思うが本決定に従ってくれ。」


私はそう言うと宰相の方に視線を送った。

宰相は立ち上がり、口を開いた。


「これにて本会議を終了する。」


未だ悩むことはあれど1つ対応が決まったことで肩の荷が下りた気がした。

しかし、まだ問題は解決していない。

私は気を引き締めて今後の対応に頭を悩ませるのだった。


>>Side:大公 アルド=バリエ End


>>Side:剣帝 原田誠也


バリエ公国に流れ着いた俺は公国の騎士団主導のもと毎日剣の訓練に明け暮れていた。

正直こんなことしていないでさっさと魔物をぶっ殺したほうが身になると思うのだけれどそこは先人に従うことにする。

何より俺たちの生活を保障してくれる公国がそうしろって言うからな。


「誠也。」


俺が剣を振るっていると俺と同じく異世界人の牧野由奈が声をかけてきた。

俺は素振りを止めてそちらに目をやる。


「なんだ?」


「アルカって町のこと聞いた?」


彼女の話のネタは今公国で話題のあれだった。


「ああ、聞いたぜ。なんでも魔王が襲撃してきたって言うんだろ?」


「そうそう。」


魔王。

俺たち異世界人に課せられたミッションはその魔王を倒すことだ。

これはラッキーだ。

他でもない俺の手の届くところに魔王自らやってきたのだから。

そんな風に思い自然と笑みがこぼれる。


「魔王が来たって言うのに笑ってる。変なの。」


そう言う由奈の顔にも笑みが浮かんでいた。

彼女だって運がいいと思っていることだろう。

魔王と言えば、北か東にいると聞いていた。

そこから離れた公国に来てしまった俺たちには魔王討伐の出番がないかもしれないと残念に思っていたところだ。

それがここにきてすぐそばに魔王が現れてくれた。

喜ばない方が嘘になる。


「ねぇねぇ。私たちに出番くるかな?」


「くるだろうよ。いや、きてもらわないと困るね。」


そう言って俺は再び剣を振るう。

いつもよりも訓練に身が入る。


>>Side:剣帝 原田誠也 End


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