008
>>Side:公国騎士団3番隊 隊長 ヴァレリ=カンデイユ
「隊長。アルカの町が見えてきました。」
我が3番隊の隊員の1人がそう口にした。
私………ヴァレリ=カンデイユも馬上から地平線の先に目をやる。
確かにアルカの町の外壁が見えた。
私たちがアルカの町を目指している理由。
それは魔王襲撃の報告を聞き事の真意を確かめるためだ。
先日、アルカにほど近い街に数人のアルカ住人が逃げ込んできた。
彼らの言い分を聞くと町の中に突然魔物が現れてそれによりアルカの町はめちゃくちゃになったらしい。
そして、それを起こしたのが1人の男であると。
魔物を操れるような存在は魔王以外に存在しない。
だからこそその男は魔王である可能性が高いと踏んでいた。
この世界に魔王は2体存在している。
それぞれ北と東に陣取っていて、そこから出てくる気配はない。
となるとこの魔王は新たに生まれた魔王と言うことになる。
ちょうど1年前。
フィロン神聖国から新たな魔王の誕生を知らせる連絡が来ていた。
しかし、1年たっても何も変化が無いことでそれは間違いだったのではないかと噂されていた。
そこに来ての魔王襲撃である。
私たちは確認しなければならないのだ。
この男が本当に魔王であるのか。
そしてこの男が新たに生まれた魔王であるのか。
そのために公国騎士団である私たちが派遣されているのだ。
そんなことを考えていると先に町の様子を見に行っていた斥候たちが戻ってきた。
「隊長。今戻りました。」
「うむ。それでアルカの町はどうだった?」
「はい。中は魔物だらけでした。しかし、中にいる魔物はアンデッドだけで、当初聞かされていた狼型の魔物や大きなスライムは確認できませんでした。」
「なるほど。魔王の姿は確認したか?」
「いいえ。」
私の質問に斥候はそう言いながら首を横に振り否定した。
私は斥候を下がらせて全体へ指示を出すため声を張り上げた。
「町の中は魔物が多い!当初の予定通り町の外に拠点を置く!副隊長、指揮を頼む。」
「分かりました。」
その後、私たちはアルカの町の目の前まで来ると拠点を作った。
そしてその日は見張りを残して野営をした。
町から魔物が出てくるのではないかと言う不安を抱えながらの野営ではあったがその思いは杞憂に終わった。
--
次の日、私たちは拠点に1班だけおいて町の中へと潜入した。
そこには確かに魔物が闊歩していた。
報告を受けていたがこの目で見るまで信じられなかった。
いや、この目で見ても未だ信じたくないという気持ちがある。
しかし、目の前にいるゾンビは確かに魔物なのだ。
その事から目を背けてはいけない。
「各班、戦闘を行いながら町の中を探索する!目標は魔王を確認すること。そして、生き残りがいた場合に保護することだ!各自動け!!」
私の号令とともに隊の皆は動き出した。
私も第1班を率いて町の中を探索する。
まずは目の前の魔物だ。
私は腰の剣を抜き放ち、目の前のゾンビ目掛けて切りかかった。
ゾンビの緩慢とした動きではその攻撃は避けられない。
私の振るった剣はゾンビの体に大きく傷をつけた。
それによりバランスを崩したゾンビは地面へと倒れ伏す。
私は足でゾンビの頭部を踏みつぶす。
それ以降ゾンビが動き出すことは無かった。
「行くぞ!!」
班員に声をかけてつつ私は次の魔物目掛けて駆けていく。
次の獲物はスケルトンだった。
剣を装備していることからスケルトン・セイバーだろうか?
私は剣を振るってスケルトンに切りかかる。
剣は易々と止められた。
強い!!
ただのスケルトンではない!!
その攻防はそう確信させるものであった。
しかし、私とて伊達に隊長をしていないのだよ!!
私は意地でもってスケルトンの剣をはじく。
大きく姿勢を崩したスケルトンの横腹から剣を振るう。
硬い!!
本来では脆いはずのスケルトンの骨が砕けない。
多少傷をつけることはできたであろうがそれだけだ。
私が驚いている隙にスケルトンは剣を振り下ろした。
私はそれを後ろに飛んで避けた。
間一髪。
剣は地面を強く叩きつけた。
この力強さもただのスケルトンでは無かった。
私はここに至り理解した。
こいつはスケルトンの上位種なのだ。
班員の力を借りるか?
いや………。
周りを見回して他の班員の姿を確認すると皆魔物と戦闘中だった。
この難敵は私1人で倒さなければならない。
再び剣を構える。
その手に力が入る。
私は地を蹴りスケルトンとの間合いを詰めた。
それに合わせてスケルトンが剣を振るう。
私は剣の腹でスケルトンの剣を受けた。
そしてその剣を巻き込む様に剣を回し、弾き飛ばした。
上手くいった。
スケルトンの剣はその手を離れ空高く飛んだ。
私は上段に構えた剣を両手握り、スケルトンの脳天めがけて振り下ろした。
スケルトンがそれを避けようとするも間に合わない。
私の攻撃はスケルトンの右肩に当たった。
先ほどの攻撃と違い、目一杯に力を加えた攻撃はスケルトンの骨を砕いた。
右の鎖骨から右の肋骨まで深々と切り込んだ私の攻撃を前にスケルトンはバランスを崩す。
その隙に私は再び構えを取って次は頸椎目掛けてその剣を水平に振るった。
その攻撃を持って決着がついた。
スケルトンの頭は体と分かたれ何処かへ飛んでいった。
残された体は力なく倒れてしまい、それ以降動き出すことは無かった。
「はぁ、はぁ。」
攻防自体は一瞬であったが難敵に当たった緊張感から体中が疲れを訴えてくる。
私は肩で息をしながら周りの様子を確認した。
私と同じように何人かの班員が苦戦しているようだ。
私はすぐさまそちらに加勢しに行く。
程なくして近くの魔物は掃討できた。
私たちは少し休憩を挟んだのちに街の探索をするのだった。
--
しばらく戦闘を繰り返していた私たちは町の噴水広場まで来ていた。
ここまで町を見回して1つ気になることがあった。
その疑問を共有するために私は口を開く。
「おい、町の様子がおかしくはないか?」
「何がでしょうか?」
「魔物が襲撃をしたにしては綺麗すぎるのだ。」
そう、町の景観は少しも損なわれてはいなかった。
建物はきれいなまま残り、ここまで来た道は綺麗に整備されていた。
広場の噴水も変わらず水を流れさせている。
普通魔物に襲撃された町はそのこと如くを破壊されるのにこの町はそれが無かったのだ。
まるで魔物が住民だけを狙って攻撃したかのようであった。
いや、それだって町に被害が出ないということは無いだろう。
魔物の攻撃はもちろん、襲撃された人が慌てて物を壊すことだってある。
それさえも無いのは異常だった。
私のその考えに賛同するように近くにいた騎士が口を開いた。
「確かに綺麗すぎますね。まるで、壊した傍から直しているようです。」
壊した傍から直している。
騎士に言われ私は行動を起こした。
剣を抜き、近くの建物の壁目掛けて切りかかったのだ。
剣は木造の壁に深々と傷をつけた。
しかし、次の瞬間………。
「な!?」
「こ、これは!?」
その傷が巻き戻されるようにして消えていくのだ。
これがこの町を綺麗なまま保っている原因かと確信する。
しかし、どうやってこんなことをしているのか皆目見当もつかなかった。
「どうしてこんなことが起きている?」
私は他の騎士に原因に心当たりがないか聞く。
しかし、誰1人としてこの現象に心当たりはないようだ。
「状態保存の魔法をかけた場合はその魔法の強度に応じて傷がつきにくくなります。しかし、この現象はついた傷を直しています。なので魔法とも考えにくいです。もしも魔法なら新たな魔法と言うことになります。」
1人の魔法騎士が自分の知識に照らし合わせてそんなことを口にしていた。
「うむ。新しい魔法だとして町全体に魔法をかけられるものなのか?」
「難しいかと思います。しかし、不可能ではありません。例えば複数人で行う儀式魔法では町全体に効果を及ぼすような魔法も確認されています。他にも魔道具が使われている可能性があります。」
その魔法騎士の話をきいて私は考える。
もしも儀式魔法ならば町を襲撃した犯人は1人ではないということになる。
推定魔王とされている男以外にも仲間がいる。
仮にその男が魔王だとしたら1年の間にそれだけの仲間を増やしているということになる。
これは単純に魔物を操る以上に脅威なのではないか?
そんな風に思える。
そんな考えをしていると不意に1人の騎士が口を開いた。
「まるで、ダンジョンのようですね。」
瞬間皆の視線がその騎士に向いた。
その騎士はそんな注目を集めるとは思っていなかったのか驚き焦っている。
「今なんと言った?」
「は、あ、いえ………。」
「別に起こっているわけではない。落ち着け。」
「はい。まるでダンジョンのようだと思いました。」
ダンジョン。
その発生原因や原理はわかっていないが魔物が発生する場所として魔鏡と同じように危険な場所と認識されている。
確かにダンジョンは破壊することができず、傷をつけても数舜ののちに直ってしまう。
今起きているこの現象とまさしく同じであった。
「この町がダンジョンになっているというのか?」
「わ、わかりません。」
そうだ。
そんなことを人間がわかるはずが無かった。
それでも考えずにはいられない。
町を襲撃したという男は魔王と目されている。
魔王はダンジョンを生み出すことができるのだろうか?
いや、そんな話は聞いたことが無かった。
ならば魔王ではないのか?
しかし、魔物を従えることができるのは魔王だけだ。
ならばその男は魔王と考えるのが自然なのだろう。
「この件についてはもう少し調べてみよう。本来の目的とは外れるのかもしれないが重要な情報が眠っている気がする。」
私がそう言うと騎士たちは頷いた。
そして各々が周りに散って確認作業を始める。
私も再び剣を持って近くの壁に傷をつけた。
先ほどと同じように傷はすぐに塞がった。
同じように目についたものを片っ端から壊していく。
建物の壁や柱、道に敷かれた石畳、さらには建物内に押し入って中にある小物も壊していく。
しかし、どれもこれも同じように傷を直していく。
その現象は見れば見る程ダンジョンのそれに酷似していた。
しばらくして、各自調査を行った騎士たちが噴水広場に戻ってきた。
私は彼らに調査の結果を聞く。
「はい。この町にあるあらゆる物、それこそちょっとした小物に至るまですべてが同じ現象を引き起こしていました。」
「こちらは傷が直る現象以外に異常が見られないか確認いたしました。試しに小物を動かしてみると、しばらくすると元の場所に戻っていました。」
「こちらは魔法による損傷を確認いたしました。結果は剣で損傷を与えたときと一緒の反応が見られました。」
班員が口々にそう言っていた。
私は1つ1つを聞いていき結論を出す。
「報告ありがとう。以上のことからこの町がダンジョンになっていると推定されるがいかがか?」
「その認識で間違いないかと思います。」
私の質問に1人の騎士がそう同意の意を示した。
それは班全体に及んだ。
私はそれを確認して口を開いた。
「では、これより先はアルカの町をダンジョンだと断定する。」
そう言って再び私たちはアルカの町を探索するのだった。
--
アルカの町を探索する私たちは領主館へとやってきていた。
外から除いたその庭には町の中よりも多くの魔物が闊歩していた。
「敵の首魁はここにいるのか?」
「可能性は高いかと。」
今や町に侵入した騎士隊がここに揃っていた。
この戦力を持って首魁を叩く。
もしも討伐できなくとも情報を持ち帰る。
そのためには敵の姿を見るしかないのだ。
「行くぞ!」
私の号令と主に騎士たちが動き出す。
門を開き中へと押し入る。
領主館の庭にいた魔物たちが一斉にこちらに向かってきた。
数は向こうの方が上であるが我が騎士隊がこの程度の魔物に負けるはずがない。
私の自信を証明するかのように仲間たちが1匹また1匹と魔物たちを葬っていく。
庭の魔物が殲滅できたことを確認した私たちは館の中へと押し入った。
外での戦闘を聞きつけていたのか、入口近くのロビーには魔物が大量にいた。
そのもっとも奥に今まで姿を見ていなかった魔物がいた。
「リッチだ。」
騎士の1人がそう口にした。
骸骨姿でローブを纏い、手には杖を構えたその姿は一見してスケルトン・ウィザードに見えるが、放つ威圧感から違うと確信する。
そうそれは間違いなくリッチであったのだ。
騎士が全員館に入り込むと独でに扉が閉まった。
閉じ込められたと確信する。
しかし、それに慌てる我が騎士隊ではない。
皆剣を構え、目の前の魔物に集中する。
「ククク。」
そんな私たちの様子を見てリッチが笑った。
「何が可笑しい?」
言葉が通じるなどとは思わないがそれでも私はそう投げかけていた。
しかし、意外にもその言葉には返答があった。
「失礼。なに、皆さんが気丈に振舞うのが微笑ましく思いまして思わず笑みがこぼれてしまいました。」
「………それは、ずいぶんと上から目線な言葉だな。」
「はい。事実、私たちとあなたたちではそれだけの力の差がありますからね。」
リッチのその言葉を聞いて私は考える。
こいつはここまでの戦闘のことを知らないのか?
だからそんな言葉が出るのか?
それとも知ったうえでその言葉が出ているのか?
ならばその自信の拠り所はなんだ?
俺がそんな風に冷静に思考を巡らせていると年若い騎士から声が上がった。
「ふざけるなリッチ風情が!俺たちに勝てるつもりでいるのか!?」
経験不足が否めないその騎士は頭に血が上ってそんな言葉を投げかけていた。
この状況で激昂するのはまずいと思い手で制す。
俺のそのしぐさを見てその騎士は落ち着きを取り戻す。
しかし、そんなことは関係ないとリッチは先ほどの言葉へ返答するために口を開いた。
「あなた達を蹂躙することは容易ですよ。先ほどからそう言っているのです。そして、1つ間違いを訂正しておきましょう。私はリッチではありません。エルダーリッチです。」
その言葉を聞いて戦慄した。
エルダーリッチ。
それはドラゴンにも届きうる可能性があると言われるほどに強力なアンデッドだ。
目の前にいるあいつがそうだと言うのか?
だとすれば先ほどの自信に満ちた言葉も頷ける。
我が屈強なる騎士隊でもさすがにドラゴンの相手はできない。
それはきっと隊の共通認識何だろう。
エルダーリッチの言葉を聞いた隊員たちに動揺が現れる。
動揺したい気持ちは私も一緒だ。
しかし、今それはまずい。
「落ち着け!」
私は騎士たちの落ち着きを取り戻すために力強くそう言った。
敵地に合って冷静でいられなくなれば危険は免れない。
それがわかっている騎士たちはその言葉で落ち着きを取り戻した。
「ククク。」
そんな私たちの様子を見てまたもエルダーリッチが笑った。
やつにとっては滑稽に映ったことだろう。
それがわかっていながらも笑われることは我慢ならない。
私はエルダーリッチのことを強く睨みつけた。
「おやおや、そんなに睨まないでください。短い逢瀬なれど仲良くいきましょう。」
エルダーリッチはおどけながらそんなことを言った。
その言い分に腹が立ち私は口を開いた。
「ほざくな、魔物風情が。」
「魔物風情とはこれまた悲しい言葉です。悲しくて悲しくてついつい燃やしたくなります。」
エルダーリッチが悲しそうなしぐさをしながらそう言った瞬間………。
「ぎゃぁあああああああああ!!」
私の後ろにいた騎士の1人が燃え上がった。
その炎の勢いは強く、瞬く間に騎士の体を燃やし尽くす。
消し炭となって倒れ伏した騎士を見て周りの騎士の顔に恐怖の色が灯った。
まずい!!
そう思ったものの遅かった。
「あぁああああああああああああああああああ!!」
「嫌だあああああ!!」
「死ねぇえええええええええ!!」
数人の騎士が恐怖に駆られて周りの魔物に攻撃をし始めた。
その恐怖は他の騎士にも伝播する。
誰もが無秩序に攻撃をし始めて領主館のロビーは狂騒に包まれた。
私はそれを眺めながらもエルダーリッチから目を離せないでいた。
「ククク。」
エルダーリッチは狂乱を眺めながら笑っている。
それもそうだろう。
恐怖に狩り立たれて攻撃を始めた騎士が一方的に蹂躙されているんだ。
仲間の騎士が1人、また1人と死んでいく。
私はそれを眺めていることしかできなかった。
そんな私を見てエルダーリッチが口を開いた。
「あなたは来ないのですか?」
もうここに至っては連携など無意味だ。
それならば私も1匹でも多くの魔物を葬り去るために剣を振るうべきなのだろう。
「くそぉおおおおお!!」
私は意を決してエルダーリッチに向かって剣を振るった。
いや、振るおうとした。
剣を振り上げた私はその剣を振り下ろすことができずに意識を手放したのだった。
>>Side:公国騎士団3番隊 隊長 ヴァレリ=カンデイユ End
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俺が意識を取り戻したのはダンジョン第4階層の居住区画でだった。
俺は覚えていた。
町に魔物を解き放ち、町の住人を蹂躙したことを俺は覚えていたのだ。
俺では無くアディがやったことなのかもしれない。
それでも、その行動の指針は俺の思い。
全てを奪いつくしたいという欲望からくるものであったのは間違いなかった。
事実これにより俺の気持ちも少しは落ち着いた。
人の尊厳を、幸せを、命を奪いつくして俺は気持ちが晴れる思いをしていたのだ。
だからこそ今感じるのはただただ悲しいという思いだった。
今目の前にはリリの遺体が残されていた。
それはきれいなものだった。
ボロボロにされた衣服は修復し、体中につけられた傷も癒した。
しかし、それでもリリは動かない。
間違いなく死んでいるのだ。
それがどうしようもなく悲しかった。
どうしてこんなことになったのかと考えずにはいられなかった。
そんな悲観に暮れる俺にアディが話しかける。
『マスター、一応報告をいたします。』
「なんだ。」
俺は力なくそう口にする。
『アルカの町をダンジョン化し、第0階層に設定。これにより元のダンジョン入口は閉ざし、新たにアルカの町の中、領主館に入口を作成いたしました。これによりアルカの町と第1階層が繋がったことになります。』
事務的にそう告げるアディの言葉を聞き流す。
『また、魔物につきましては第3階層に配置していたアンデッドを一時的にそちらに配置しています。報告は以上となります。』
「そうか。」
俺は言葉短くそう答えた。
今は返事をする元気すらわかなかった。
ダンジョンを静寂が包んだ。
どれだけの時間そうしていたか分からない。
俺は後悔とともにずっとリリの遺体を眺め続けていた。
そんな時口を開いたのはまたしてもアディだった。
『マスター、差し出がましいかもしれませんが助言いたします。リリの体をそのまま残しておくのであれば状態保存の魔法をかけることを提案いたします。』
「状態保存?」
『はい。このままでは時期に腐り果ててしまうことでしょう。』
確かにその通りだ。
人間の肉体はその生命活動を負えれば朽ちるのが当たり前だ。
俺はリリのの体をそんなことにはしたくなかった。
しかし、このまま残してやるのも戸惑われた。
リリは死んだのだ。
死んだのならばちゃんと弔ってやるべきなのではないか?
それが死者に対する礼儀なのではないかと思えた。
元の世界風には火葬か土葬が一般的だ。
リリの体を燃やす。
その事を思い体が震えた。
俺がリリの体に火をつけると言うのか?
そんなことはしたくない。
絶対にしたくはなかった。
「なあ、アディ。」
『何でょしょう、マスター。』
「この世界では故人はどうやって弔うんだ?」
『はい。一般的には土葬や火葬となります。一部地域では獣に食わせる獣葬を取り入れているところもあります。』
獣葬。
確かに元の世界でも鳥葬と言うものがあった。
それみたいなものだろうか………。
俺はリリの体に再び目を向ける。
獣にリリを食わせる。
その事に忌避感が無いとは言わない。
それでも、リリの体がその血肉になるのならばリリが生きた証がこの世界に残るような気がした。
だからこそ俺は………。
俺は第4階層にスーを呼んだ。
そして………。
「スー、リリの体を食べてやってくれ。」
その言葉を聞いたスーは体を震わせていいのかと確認を取ってくる。
「いいんだ。」
俺はそれに答える。
するとスーはリリの体を包み込んだ。
ゆっくりとリリの体が解けていく。
俺は涙を流しながらその光景を眺めていた。
しばらくしてリリの体がすべて消化されるとスーは体を震わせた。
その瞬間………。
スーの体が眩い光に包まれた。
「な、何が起きたんだ!?」
『落ち着いてくださいマスター。おそらく種族進化です。』
光りはすぐさま落ち着いた。
そこにはリリが立っていた。
「え?」
何が起きているか分からなかった。
スーはどうした?
なんでリリが生き返った?
そんな疑問が頭の中に浮かぶもすぐに消える。
俺はリリを抱きしめた。
今はその事の方が重要だと言わんばかりに強く強く抱きしめた。
そんな俺にリリが声をかける。
「マスター、どうしたの?」
マスター。
そんな風にリリは言わない。
俺はとっさに冷静になった。
いや、冷静とは言わないのかもしれない。
それでも混乱する頭で必死に考えた。
そして1つの考えに思い至った。
「もしかして、スーなのか?」
「うん。」
スーはリリの姿で元気よくそう返事をした。
その笑顔を見て思わず涙がこぼれそうになる。
そんな俺にアディが声をかける。
『どうやら種族進化して、イミテーション・エンペラースライムになったようです。』
「イミテーション・エンペラースライム?」
『はい。その名の通り他生物を模倣することができるスライムです。』
模倣。
確かにこれはリリの姿を真似しているだけなのかもしれない。
それでも、リリが生きた証が確かにここに残ったことに俺は嬉しさを隠せなかった。
俺は再びスーを抱きしめた。
どれだけの時間そうしていたか分からない。
それでもスーもアディも止めずに見守ってくれていた。
しばらくして気が済んだ俺は晴れ晴れとした表情で口を開いた。
「アディ、アドバイスをくれ。次は何をすればいい?」
『はい。まずは第0階層の魔物を整えることから始めてはどうでしょうか?』
「そうだな、それから始めよう。」
こうして俺はリリの死から立ち直ることができた。
アルカの町への旅はこうして幕を閉じた。
失うばかりの旅ではあったが得たものもある。
俺はリリをこんなことにした世界を許せない。
必ず奪いつくす。
そう決意して俺はダンジョンの拡張に精を出すのであった。
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