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番外編:勇者の話1


>>Side:聖女アンナ


フィロン神聖国が誇る大神殿。

リシエ神信仰の総本山で私は祈りを捧げていた。

他でもない我らが主神リシエ様に。


両手を握りしめ、膝をつき、目を瞑り、頭を下げ。

私は祈りを捧げていた。


それを見届けるものはいない。

この大聖堂には私1人しかいなかった。

普段からこうと言うわけではない。


普段ならばもっと人であふれていただろう。

それが何故今は人がいないかと言うとそれは私のせいだ。


不遜にも私は聖女と呼ばれている。

そう呼ばれるに相応しい信仰心と治癒魔法の腕は持っていると自負しているがそれでもそう呼ばれるのはこそばゆかった。

そんな私がここで祈りをささげる時、皆気を利かせてこの場を空けてくれるのだ。

だからこそ今はこの場に私しかいなかった。


それは日課だった。

毎日と同じ時間、同じしぐさで行われる日課だったのだ。

ただ1点を除いて。


『………。』


その声にハッとなる。

それは優し気な女性のような、あるいは威厳ある男性のようなそんなどちらともつかないような声であった。

しかし、今確かに聞こえたのだ。

耳でではない心で聞き取ることができた。

あれは神の言葉だ。

あれこそがリシエ様の言葉なのだと直感できた。


『………………。』


なおも続く神の言葉に私は歓喜に打ち震えていた。

瞳から涙が流れるのを感じる。

肩が震え、姿勢を保つことができない。

それでも神の言葉は続いた。


『………………………。』


私はその言葉を裏切ることは無い。

何故なら私は聖女なのだから。

私はリシエ様に使える信徒の1人なのだから。

そんな誇りを胸にしながら神の言葉を聞き入れた。


「分かりました。リシエ様。」


私の声が大聖堂に響く。

そこには私しかいなかった。


--


「メルセデス枢機卿!」


大聖堂を飛び出した私はすぐ目についた彼に声をかけた。

メルセデス枢機卿は驚いたような顔をして私を見つめる。


「どうしましたか?そんなに慌てて。」


「すぐに他の枢機卿を集めてください。教皇様にもお取次ぎお願いします。」


「本当にどうしたのですか?普段のあなたらしくありませんよ。」


内容もなしにまくしたてる私にメルセデス枢機卿は驚きつつも優し気な声色で落ち着くように言ってきた。

私は深呼吸をして落ち着く。

大丈夫、落ち着いて話せる。

そう言い聞かせて再び口を開いた。


「神から。リシエ様から神託がありました。それをお伝えするためすぐに枢機卿の皆さまを集めてください。」


私のその言葉を聞いてメルセデス枢機卿は一瞬キョトンとした表情をしたもののすぐさま驚き慌てだした。


「か、神からの神託ですか?本当に?そ、それは急がなくては!」


メルセデス枢機卿はそれだけ言うと挨拶もそこそこに走り去ってしまった。

しかし、彼のその様子を笑うものはいない。

リシエ神からの神託。

これはそれほどまでの大事件なのだ。

過去、幾度かお与えになられた神託はどれもが国のしいては世界の大事に関わることだったのだ。

それを考えればこうして慌てるのも頷ける。


その空気はすぐさま伝播した。

私と枢機卿との会話を聞いていた教会関係者がこぞって声を上げる。

それがまた知らない人に伝わり、神からの神託と言う大事件は瞬く間に大神殿中に広まった。

私もそれを止めようとはしなかった。

今回の神託は枢機卿をはじめ教会の上層部だけで閉じれる話ではないからだ。

ならば、今の内から心構えをしていてもらおうと思ってのことだ。


さて、メルセデス枢機卿がすぐに他の枢機卿の方々を連れてきてくれることだろう。

私も準備を整えなくては。


--


そこは大神殿内の一室。

大きな円卓が設置された部屋であった。

ここは普段枢機卿クラスの教会上位陣の会議のために使用される。

私はその部屋へと招かれた。


そこにはリシエ教の枢機卿8人の内6人と教皇陛下がいらっしゃった。

生憎と残り2人の枢機卿は外に出ていたため招集には来られなかったが先ほど急遽決まった集まりにしてはその出席率は驚くほど高かった。

それほどまでに大事であるのだ。


7人の瞳が私の方に向いた。

その威圧感に私は体が硬くなるのを感じた。

両肩に重しをのせられたような重圧をはねのけ私は声を上げた。


「本日はお集まりいただきありがとうございます。我らが主神、リシエ様より神託を賜りました。それをここで開示させていただきます。」


私は深呼吸をして息を整える。

落ち着いて言葉を選び、口を開いた。


「世界に新たな魔王が誕生しました。」


魔王。

魔物の王。

あらゆる種族の敵対者。

絶対悪。

これほどまでに世界の驚異となる存在はいないだろう。

そんな存在が新たに生まれたというのだ。


「な!?魔王だと!?」


驚きの声が上がる。

当然だった。

神は確かに新たな魔王と言った。


この世界にはすでに2体の魔王が確認されている。

それに加えて新たな魔王が誕生した。

世界を滅ぼす可能性がある存在が3体いるというのだ。


「はい。神は確かに新たな魔王とおっしゃっていました。」


枢機卿らの驚きを肯定するように再び私は言葉を発した。

驚きは喧騒を呼び、会議室は混とんとしてきた。

そんな時だった………。


「静かに。」


ただ一言。

教皇陛下が声を発しただけで会議室を静寂が包んだ。

皆、教皇陛下の次の言葉を待つ。


「して、リシエ様は魔王の誕生のみをお伝えくださったのか?」


教皇陛下の瞳が私を捉える。

遅れて他6人の枢機卿の瞳も私の方を向いた。

私は意を決して次の言葉を発する。


「いいえ。神は此度の困難に当たり人を遣わしてくださるとのことです。」


その言葉に会議室は再び沸き立つ。


「それはつまり勇者を遣わしてくださるとのことですか?」


メルセデス枢機卿が皆を代表するようにその疑問を口にした。


「はい。勇者を含む200人以上の英雄をこの世界にお呼びするとのことです。」


その言葉を聞いて会議室に集まる皆の瞳に希望が宿る。

私だって同じだった。

神からこの話を聞いたときはじめは魔王の出現で落ち込みをしたものの続く勇者の召喚をお約束頂いたことでその絶望は吹き飛んでしまった。

200人。

それだけの英雄がいれば新たな魔王は問題なく葬り去ることができるだろう。

それどころか未だ世界の驚異として君臨する2王に関しても改善の糸口がつかめるかもしれない。

その期待を前に喜ばずにはいられなかった。


「200人以上の英雄はこのフィロン神聖国にいらっしゃるのでしょうか?」


再びメルセデス枢機卿が私に質問する。


「いえ。全ての英雄はそれぞれがバラバラの場所に召喚されるとのことです。その中には当然このフィロン神聖国の大神殿も含まれます。」


「それはいつのことでしょう?」


「3日後です。3日後に太陽が最も高く昇った時間。その時英雄はこの世界に降り立ちます。」


私のその言葉を聞いて会議室は再度沸き立った。

皆希望を胸に何をするべきかを話している。

英雄をお迎えするために何ができるか。

魔王を討伐するために何をするべきか。

そんなないようん話を好き好きに話していた。


「静かに。」


見かねて教皇陛下が口を出した。


「して、このことは他国の教会関係者、および国の上層部は知っていることなのか?」


「いえ、この神託は私にしかお伝えいただけてないとのことです。そのため他国にはこちらから連絡を入れる必要があるかと思います。」


「ふむ。3日だと急がねばならぬな。メルセデス枢機卿。」


「はい。」


「本国の上層部および他国の上層部、そして教会関係者に本神託の内容を伝えるように。」


「分かりました。」


「うむ。すぐに動いて構わん。」


「はい。それでは失礼いたします。」


メルセデス枢機卿はそう言うと会議室を後にした。

今言われた通り彼はこれからこの神託を伝えるために奔走するのだろう。

そんなことを考えていると教皇陛下が再び口を開いた。


「残ったものは招かれる英雄殿の対応について検討してくれ。」


教皇陛下がそう言うと残った5人の枢機卿は再び議論を始めた。

その瞳は希望で燃えていた。


>>Side:聖女アンナ End


--


>>Side:愛原桜(あいはらさくら)


神様と名乗るものに連れられてきた真っ白い空間。

その空間を包み込むほどの眩い光に思わず目を閉じてしまった。

瞼の裏で光が収まったことをうかがい知ると私はゆっくりと目を開いた。


そこは荘厳な気配漂う巨大な建物の中だった。

壁や柱には精緻な彫刻が施されており、並べられた椅子や床に敷かれた絨毯には埃1つない。

豪奢なステンドグラスがキラキラと輝きを放ち、その前に置かれた石像はどことなく紙と名乗ったものに似ていた。


私たちはそんな空間に送り出されていた。

そう私たちだ。

その場には私以外にも10人ほどの日本人がいた。

そしてそれを取り囲むように外国人に見える外見を持った人たちがいた。

その人たちは皆一様にゆったりとした服に身を包んでいた。


「おおおおおおおおお!!」


日本人を見て皆が驚き声を上げていた。

いや、あれは驚きではないのだろう。

恐らくは歓喜。

彼らは歓喜に打ち震えているのだ。

その様子を見て私を含め日本人たちは戸惑いを隠せないのであった。

そんな私たちの戸惑いを察してか1人の老人が声をかけてきた。


「失礼。私はリシエ教にて枢機卿の地位についておりますメルセデスと申します。皆さまが神に導かれた英雄で間違いないでしょうか?」


そう聞かれて皆顔を見合わせる。

何を言っているかは分からなかった。

それは皆の共通認識のようだった。


「えっと、英雄かどうかはわかりませんが神様って言うのに導かれたって言うのは私たちで間違いないと思います。」


年長者のサラリーマン風の男性がそう答えた。

その答えを聞いて周りの人たちがいっそう沸き立つ。

私たちは何故そんなに沸き立っているのか分からずに眺めているのみであった。

そんな風に困惑していると再び老人………メルセデスさんがサラリーマン風の男性に向かって話しかけた。


「あなたは勇者様なのでしょうか?」


「え?ち、違います。」


勇者。

確かに彼はそう言った。

その言葉に心臓がびくりと飛び跳ねるような気がした。

私は小声で自分のステータスを表示する。



====================

愛原桜 / レベル1

 

種族 : 人間

クラス: 勇者


HP : 700/700

MP : 700/700


ステータス:

 攻撃力  : 70

 防御力  : 70

 魔法攻撃力: 70

 魔法防御力: 70

 器用度  : 70

 敏捷度  : 70


スキル:

・聖剣抜刀

・神聖剣術

・心眼

・勇気

・状態異常無効

・リシエ神の加護

====================



目の前に表示された私のステータスには「クラス:勇者」と書かれていた。

彼らが捜しているのは私なのだ。

それを知らずにメルセデスさんは次々と質問を繰り返していた。


隠すべきなのか?

それとも言ってもいいものだろうか?


私一人でこの世界で生きていくことはできない。

それはここにいる日本人の力を合わせても同じことだろう。

ならこの世界の人の協力が必要だ。

協力してもらうならこちらも彼らへメリットとなることを示さなくてはならない。

勇者であると喋ることがメリットとなるかは分からない。

しかし、情報を隠すよりは正直に話したほうが印象はいいだろう。

私は意を決して口を開いた。


「私です。」


皆の注目が私に向いた。

その視線を受けて緊張から体が硬くなる。

その重圧を破って私は再び口を開く。


「私が勇者です。」


そう発現した時この空間を静寂が包んだ。

1秒、2秒と時間が進む。

何か喋った方がいいだろうか?

そんな疑問が胸中に生まれるも何も言葉が思い浮かばずただ時間だけが過ぎていった。

しかし、そんな時だった。


「おおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


建物中に響き渡るような大歓声が私たちを包み込んだ。

その勢いに気圧されて後ずさってしまう。

選択を間違っただろうか?

そんな考えが頭をよぎる。


そんな歓声の中1人冷静なメルセデスさんが手で周りの人たちを諫める。

そしてゆっくりとした所作で私の目の前まで来ると口を開いた。


「もう1度聞かせてください。あなたが勇者ですか?」


「はい。私が勇者です。ステータスにはそう表示されていました。」


私のその言葉を聞いて再び歓声が上がった。

間違うはずがない。

彼らの歓声は歓迎なのだと実感させられた。

それは私の目の前にいるメルセデスさんの表情からも明らかであった。

そんな歓声に包まれながらも私はこれからの生活に不安を抱くのであった。


--


私たちがこの世界に来た場所。

あそこは大神殿と呼ばれているらしい。

そこから場所を移して今の状況と私たちのこれからについて説明を受けていた。

説明をしてくれるのは相も変わらずメルセデスさんだ。


「この世界には魔王と呼ばれる存在がいます。魔王は強力な力を有しており個人で世界を滅ぼすことが可能です。そのため魔王はあらゆる種族にとっての敵ともいえる存在です。元々この世界に魔王は2人いました。いずれも強力な力を持ち人間社会を脅かす存在として君臨していました。」


メルセデスさんは顔をしかめてそう言った。

その瞳からは単に嫌悪しているというより絶望していると言った雰囲気を感じ取れた。


魔王。

確か私たちに課せられた使命はその魔王を倒すことだ。

それほどまでに強大な相手とは思ってもいなかった。

私たちは本当に10年以内に魔王を倒すことができるのだろうか?


私がそんな思いを抱いているとメルセデスさんが言葉を続けた。


「しかし、新たに3人目の魔王が生まれたと神から啓示を受けました。今まで2人の魔王だけでも対応に苦心していたというのに、ここに新たな脅威が生まれてしまったのです。」


新たな魔王?

私たちの相手はその魔王なのだろうか?

それとも3人の内誰かを倒せばいいのだろうか?

神と名乗るものの真意が読めなかった。


「しかし、我々の神リシエ様はここに魔王に対抗するだけの戦力を遣わしてくださったのです。そうです皆さまです。」


一転してメルセデスさんの表情が明るくなった。

なるほど、それで先ほどの歓声か。

彼らにしてみれば私たちは救世主と言うわけだ。


「我々は神よりこうお聞きしています。曰く、勇者を含む200人以上の英雄を遣わすと。勇者と名乗り上げていただた愛原様はもちろん他の皆さまも十二分に戦力として期待しております。」


私たち自身魔王を討伐する理由はある。

だからこそ彼らと協力するのは間違いではないだろう。

それは他の10人も同じ思いだと信じたい。


「質問いいですか?」


私と同じ女子高生くらいの少女が口を開いた。


「魔王の討伐。それは私たち全員が参加しなくてはなりませんか?」


私の信頼は脆くも崩れ去った。

その質問の意図はどうとらえても「私は参加したくない。」と言っているからだ。

そんな私の思いはよそに彼女は言葉を続けた。


「例えばそこの勇者の彼女が参加すれば十分ではないですか?」


よりにもよって私をスケープゴートにするつもりのようだ。

その言葉に私は絶望するのであった。

しかし、その考えは彼女だけの考えでは無かったようだ。

周りから彼女に追従するように声を上げる人たちが出た。


一方でそれを窘める声も上がる。

その言葉に私は救われるような思いをするのであった。

皆が好き好きに騒ぎ立てる。

見かねてメルセデスさんが口を開いた。


「ご静粛にお願いします。」


それを聞いてなおも言い足りないのかその少女は口を開こうとするも隣の男性に止められて一応の落ち着きを取り戻した。

皆が黙ったのを確認してメルセデスさんが再び口を開いた。


「先ほどのご質問に対する答えですが、愛原様以外の方に関しましては魔王討伐に参加していただかなくても結構です。」


その答えに私は再び崖に突き落とされるような思いをするのであった。

そんな私の思いなど無視してメルセデスさんが話を続ける。


「しかし、その場合はこちらとしても生活の支援を一切行いませんことをご承知ください。」


その答えにまたも女子高生が文句を言おうと立ち上がった。

しかし、メルセデスさんはそれを手で制した。


「そして次に愛原様に関しましてはこちらも魔王討伐は自由意志に任せます。」


「え?」


私はメルセデスさんのその言葉を一瞬理解できなかった。


え?

それじゃあ、他の人たちと同じってことじゃないの?

じゃあなんで私とそれ以外で分けたの?


私の疑問はよそにメルセデスさんの言葉は続く。


「そして愛原様につきましては魔王討伐を断ったとしても生活をこちらで保障いたします。」


違った。

私に対してのみ他の人以上の対応を約束してくれたのだ。

彼らはそれほどまでに私を評価してくれている。

その気持ちが今は嬉しかった。


しかし、そんな依怙贔屓のような対応は我慢ならない人が声を上げる。

他ならないあの女子高生だ。


「ふざけないでよ!何で私はだめでそこの女は良いわけ?それって贔屓でしょ?そんなことしていいの?」


醜く顔を歪ませてそう叫ぶ女子高生にメルセデスさんは努めて冷静に答えを返す。


「神が遣わした英雄と言うのは過去にもいました。彼らは皆強力な力を有していました。しかし、人格がその力に適していたかは疑問が残ります。彼らの多くは力に溺れ社会を混乱させていたのです。そんな人たちを私たちが支援すると思いますか?」


「そんな過去の人なんて知らないよ!!私関係ないじゃない!?」


「関係ないではすみません。それほどのことを過去の人たちは行ってきたのです。そしてそうなった理由も理解できました。他ならぬあなたの行いを見て。」


「っつ!!」


メルセデスさんのその言葉に女子高生は二の句が継げずに黙り込む。

しかし、それでも必死に頭を動かして何とか言い返してやろうとしているのが見て取れた。


「で、でも!!それならその女も同じじゃなきゃおかしいでしょ!?何でその女だけ特別待遇なのよ!?」


その言葉になおもメルセデスさんは落ち着いた様子で答える。


「勇者と言うのがそれだけ特別と言うことです。過去の魔王討伐の例を見ても勇者無しでは成しえなかったことでしょう。だからこそ彼女には是非魔王討伐に参加してほしいと考えています。」


そこまで口にしてメルセデスさんは一度話を区切った。

一息ついて「しかし、………。」と言葉を続けた。


「だからと言って、強制するような真似して事がうまくいくとは思っていません。魔王討伐は本人の意志のもと成してほしいのです。一度断っていただいてもこの世界で生活するうちに魔王討伐をしたいと思っていただければ十分なのです。だからこそのこの対応です。」


「それなら私だって同じ対応でいいじゃない!?私だってそのうち魔王討伐を決意するかもしれないでしょ!?」


女子高生が懲りずに食って掛かる。

いい加減に話を終わらせないと先に進めない気がするのだが。

今の私にはすでにこのことに関する不安は無くなっていた。

それはメルセデスさんの丁寧な説明のおかげだったのだろう。

その点だけは女子高生に感謝していた。


「話が堂々巡りになっていますね。あなた方、愛原様以外の対応は過去の経緯からです。愛原様を特別扱いしているのではありません。他の方々を特別扱いしているのです。そしてこれはここでいくら訴えていても変わることはありません。」


「ふざけないでよ!」


女子高生の剣幕を見てやれやれと首を振るメルセデスさん。

彼は隣に立っていた女性に何やら耳打ちをすると再び私たちに向き直り口を開いた。


「これでは話を進めることができません。続きはまた後日お話いたします。本日はこちらの建物でお休みください。今部屋を用意させています。最後に明日、魔王討伐に参加されるかどうかをお聞きします。残念ながら参加されない方はその場をもって本神殿施設よりご退去いただきますのでご承知ください。」


メルセデスさんはそこまで話すと「失礼します。」と言って部屋を後にした。

その場には日本人だけが残された。


しかし、すぐさま女子高生が立ち上がると胸中の怒りを隠さずに部屋を出ていった。

その後を追うようにして女子高生に賛同していた6人が部屋を出ていった。

部屋には私を含めて4人が残る形となった。


私は周りを見回した。

皆黙っており、その静寂が居心地の悪さを生み出していた。

そんな時だった………。


「あんまり気にしないようにね。」


そう口にしたのは落ち着いた雰囲気のサラリーマン風の男性だった。


「彼女だってこんなことがあって不安に思っていただけさ。だからきっと君に敵意を持ってあんなことを言っているんじゃないと思うよ。」


「え、えっと………。」


私がどう返していいか分からずに言いよどんでいると男性が口を開いた。


「ああ、ごめんね。私は高山和久。しがないサラリーマンさ。大丈夫、僕は魔王討伐と言うやつに参加するから。もしも君が参加することを決意していたとしても1人にはならないよ。」


彼のその言葉に私は気分が楽になるのを感じた。

そうだ私は私1人で魔王を討伐することになるんじゃないかと不安に思っていたんだ。

それがいつの間にか待遇の話で忘れてしまっていた。

そんな私の気持ちはよそに高山さんが他の2人………成人してそうな男性と中学生くらいの女性に話しかけた。


「君たちも同じかな?」


「ん?ああ、俺も魔王討伐には参加するよ。他人に任せるのってなんか苦手だから。」


「同じく。」


彼らも同じ考えのようだった。

それを聞いて私はますます安心するのであった。


「ならここで自己紹介でもしようか?私はいいよね。じゃあ、勇者の君は?」


高山さんがそう言って私の方に向き直る。

他の2人も同じように私の顔を見る。

私は3人の視線を受けながら口を開いた。


「私は愛原桜です。えっと、高校生です。」


「うんうん。じゃあ、次は君。」


高山さんは機嫌よさそうに頷きながら成人男性に声をかけた。


「俺は倉野正弘。大学生だ。」


「倉野君ね。最後は君だ。」


同じように笑顔浮かべながら高山さんは残った女性に声をかけた。


「白神響。中学生。」


彼女は口数少なくそう答えた。

そんな彼女の対応を見ても高山さんは笑顔を崩さなかった。


「なるほど。愛原さん、倉野君、白神さんね。うん、覚えた。」


高山さん、倉野さん、白神さん。

彼らはもうすでに魔王討伐の意志を決めていた。

それを軽率だと考える人もいるだろうが私は彼らの決断力に驚きを隠せないのであった。

そしてそれを羨ましくも思う。

何が彼らをそうまでさせるのだろうか?

そんな私の疑問をよそに高山さんが再び口を開いた。


「最後に愛原さん聞かせてくれ。」


「何でしょうか?」


「君は魔王討伐に参加するのかい?」


そう言う高山さんの目には期待と不安が入り混じっていた。

ああ、きっと彼らだって絶対の自信を持って魔王討伐を決意したわけでは無いんだ。

不安を抱えながらもそれでも一歩前に出たんだ。

私はその勇気が素晴らしいもののように感じた。

だからだろうか。

その答えは自然と口から出た。


「はい。私も魔王討伐に参加します。」


こうして私………愛原桜は魔王討伐を決意するのであった。


>>Side:愛原桜 End


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