攻防
俺達は勇猛果敢どころかそろそろと船から這い出した。
蛸と蟹が合体した青白い巨大化け物は船をじっと見つめており、そいつが動かない間に間合いを出来るだけ取れる様にと、こそこそと最大限の注意を払って静かに移動をしていたのである。
キュイイイイイン。
誰だ!機動音をがなり立てた奴は!
がしゅっ!
一撃だった。
音を立てたバーガスは逃げることなど出来なかった。
正確に細くて長い金属のナイフのような足で貫かれ、その機械人生を終了させるしかなかったのである。
「〇六番機。ニーアム・ブラッドが撃破されました。」
「見ていたから知っているよ。全員一先ず機械を停止。音を立てるな。ブラッド、お前は無事か?」
「ぶ、無事です。でも、完全にモリ―が死にました。」
俺の部下は俺にあやかってなのか、全員が自分の機体に女性名をつけている。
イアン・マクベスという部下がランダル達女性兵士に「男の乗り物だから。」と軽口を叩き、とっても面倒になった事を俺は思い出し、ブラッドに再び声をかけていた。
「名前が悪いんだ。」
「俺の女房の名前ですよ!」
「お前は結婚していたのか?」
十代にも見える外見の男であるが、ブラッドの実年齢は俺よりも年上だ。
元は普通の会社員だった男だが、士官候補生の募集を受けて軍隊入りしたという現在曹長待遇の士官見習いという身分の下っ端である。
「離婚したので兵隊入りです。モリ―は男を作って俺を捨てた女なんですよ。」
「縁起が悪い名前をつけているからだ。簡単に初対面の相手に貫かれている。」
回線では部下達の卑猥な嘲笑が起こり、俺は彼らに黙って見ていろと通信を送るや自分だけ動いた。
荷重を四つの足のうち一本だけにかけ、その負荷でガラテアに金属音を鳴り響きさせたのだ。
想定通り、俺に目掛けてもう一本の足が俺を貫こうと振り下ろされたが、それは地面を刺し貫いただけだった。
俺はガラテアを転がしていたのである。
転がったガラテアは手に持つ銛を地面に差し込んだ。
そしてそれを今度は足代わりにし、俺はガラテアを蟹に向かって飛び込ませた。
化け物蟹は俺を払おうとしたが、俺はそれの脚を掴み、今度はそこに銛を打ち込んだ。
さらに、それを起点にして、さらにガラテアは蟹の懐へと飛んでいく。
ようやく俺の動きに捕食される側だったと気が付いた化け物はブラッドの機体から脚を抜くと、十本ある足のうち前側の五本すべてを俺を貫こうと前に構えた。
ドォオオオオオン。
ガラテアには砲台もついている。
俺は正面砲台から焼夷弾を敵に向けて発射したのだ。
ぎゅうおおおおおおおおん。
巨大な化け物は殺虫剤を掛けられた虫のように脚を内側に抱え込んで丸まり、俺はそこに追い打ちのようにしてガラテアの左腕が抱えている機械銃の弾を撃ち込んだ。
「全員全速前進!ブラッドはバーガスを捨てて指揮車に走れ!」
「あんたこそ全速で逃げてください!もう一体いる!」
「うそ!」
ワッツの言葉に呼応するかのように何もない空間が歪み、想定していなかった銀色に光る蟹足がそこに現れ、そして、俺の目の前の風景を切り裂いた。