空から落ちてきた光
それは、久しぶりに見た光だった。
青白い空から金色の光の雫が落ちたのだ。
大気圏で炎を纏った小さな船が、地獄と呼ばれるこの星に落ちてきたのである。
「すごい。久しぶりの来客ね。」
この星の金属を含んだ重たい空気は飛行機を押さえつけて飛ぶことを遮り、せっかく採取して集められたイングジラル鉱石の搬送をも拒んでいるという程だ。
しかし、年に二回、この星は磁気嵐によってかく乱される。
磁気によって金属成分が奪われるからか、その嵐の後の一日だけは重たい空気は消え去って清々しい生者のための世界となる。
その時こそイングジラル鉱石の採取船がフォルネウスに降りてくるのだ。
かって、その仕事はフォルネウス星を所有するオファニム星の専売特許だったが、オファニムが滅んだ後はイングジラル鉱石を望む他星の船が勝手にその仕事を請け負うようになった。
だが、そんな利権を奪い合う他星同士が争うことはあっても、どれかの勢力がこの星を攻撃したり侵略したりすることは無いのは、この星が全てを取り込んで離さない大気を持つからだ。
宇宙船はまともに着陸などが出来ず、この地に足を踏み入れた人間は、半年を待たずに重金属の中毒を起こして死ぬ。
まぁ、最近では体内から重金属を取り除く体内洗浄機を発明したらしく、星間戦争に疲れた人々やごろつきが住み着くようにもなっている。
寂しい世界でなくなったのは喜ばしい事でもあるが、イングジラル鉱石の利権争いで人間達が殺し合う世界ともなってしまった。
けれど、人間達よ、この星には恐ろしい原住民もいるのだ。
私のような。
何もしなくともこの星に生息する化け物に喰われる運命の方が大きいのに、なぜ、富を分け合うどころか少ない人数で殺し合おうとするのだろう。
「それが、人間だからかしら。」
私は自分を包む殻に言葉を掛けた。
この星は、肉体を変化させられた罪人を落とす前には、イングジラル鉱石採取のために遺伝子操作を施されて作られた生物が投下されていた。
それらは巨大イカのような姿をした軟体生物であるが、外殻を硬化させて節足動物のような形と金属の堅さを持つことも出来る。
本来は彼らに命令をしてイングジラル鉱石を採取させるつもりだったが、彼らは人に従うどころか人を喰らう生き物にしかならなかった。
人の意思を伝達できるナノマシンを植え付けるために、彼らの遺伝子に人間の遺伝子を組み込んでしまった事が原因であると言われている。
彼らは人に従順な奴隷となるどころか、自己増殖のために人の遺伝子をさらに取り込もうとする人喰いの化け物となったらしいのだ。
彼らは遺伝子を取り込む方法として、ただ飢えた様にして人を喰らう。
そのため、彼らの呼称は海の魔物のクラーケンとなった。
しかし、私の殻となっているこの子はガーディアンだ。
人を乗せたクラーケンは魔物ではなく、人を守るということでガーディアンと呼称されるようになる。
ナノマシンを植え付けられてフォルネウスに落とされた罪人は、命があれば体内のナノマシンをクラーケンと繋ぐことによってそれと同化し、イングジラル鉱石を採取する奴隷となって生きるしか道が無い。
私は生き残り、生まれたてのこの子を自分のガーディアンとし、そして数えきれないほどの年月をこの子と一緒に歩いてきた。
あるいは、私は完全に化け物に生まれ変わっただけなのかもしれないが。
そして、今の私は、いつものようにガーディアンの中から世界をのぞき、煌く光、落とされてしまった人達の船を眺めていた。
私はとても興味を惹かれていたのである。
「どうして、あの船は人の住む場所を避けて落ちていくのかしら。」
疑問があれば調べれば良い。
長い年月を生きて来た私の唯一の慰めだ。




