夏の夜の夢05 それにしても、虧けてゆく月の歩みの、いかに遅いことか!
ラル編完結です
飲めや歌えのどんちゃん騒ぎからやっと抜け出して、クーと2人きりになった。
俺はうれしくてうれしくてずっとくっついている。
クーは仕方ないなぁと言ってそのまま片付けしたり、お風呂やなんかの準備をしたりしてた。
「ラル…」
もう2度と来れないかもしれないと思われたクーのベッドに2人で座り、後は寝るだけの段になって名前を呼ばれて顔を上げる。
「プロポーズ、うれしかった。すごくロマンチックでビックリした。」
俺はよかったという安堵と酔いでテンションが天井知らずになり、全部全部説明した。
ウエディングベールに似た花の形にしたことあたりを話した時には、クーは目を潤ませ、うれしそうにしてくれていた。
でも中々うまくまとまらなくて困ったが、2人のキッカケになったスライムを繋ぎに使ったらうまくいったことを話すと無表情になってしまった。
なのでスライムの良さについて語りに語った。
本来は燃費が良く数ヶ月何も食べなくてもいいこと、だが食べ物の好みを付加すると設定した分までそれを食べ続けられること(エロスライムにはこの特性を利用した)、魔法に馴染みが良いこと、再利用もできること…… もはや万能物!
語っても語っても、怒ってないけどなんか微妙な表情だった。
「ラル、私妊娠してから眠くて眠くて…」
そう言われたので慌てて寝た。
翌日アランに話すと、
「一生に一度のプロポーズって言ってんのに『再利用もできる』ってなんだよ…誰に使うつもりだよ…」
と言われ、真っ青になって誤解を解きに行った。
走りながら想いを馳せる。
今回のことについて、思い込みからとんでもないすれ違いをしていたので、ものすごい基本的オブ基本的なことでも言葉にしようと約束したのだ。
幼馴染でどんなに一緒にいたからって、男と女の間には深くて暗い川が流れている。
だってあんなに好きだって言ったのに全く信じられてなかったってどういうことだよ⁈確かに俺は何もかも足りなかったんだが、クーが俺をそんなとんでもないクズ野郎だと思っていたと知って凹んだ。
ただアラン曰く、恋人って思っててもデートすらしなかったんだろ?
「俺それ知ってる〜。『私のカラダだけが目当てだったのね!』と『ベッドでの睦言は信じるな』ってヤツだ。合わせ技一本!」
とのことだった。
慌ててデートに誘ったけど、もうそんなこと思ってないから大丈夫だし、悪阻で体調悪いからまた今度ってことになった。
あ、あと、我慢が爆発する前に話そうとも決めた。
クーの家に着く。
「そんな誤解してないよ。それに再利用いいじゃない。結婚式でもあれができたら素敵だと思うし。
ただスライムだと教会には持ち込めないかなぁ。」
なんたってエロスライムだし。
「あのスライムはエロには使ってない!」
と、その誤解も解いておいた。
アランまたその事を話すと
「あっれ〜〜〜〜⁇」
と言って頭を抱えていたので、今回すんごくお世話になっのは事実だし感謝もしてるけど、今後は頼りにしすぎないようにしようと思った。
帰ってきたおじさんとおばさんには怒られたけど、なんとか許してもらえた。
父さんには、君ね〜…と深いため息をつかれ、「もう子供じゃないんだから、ホウレンソウはしっかりしなさい。」と言われた。
後からクーにその事を言うと「おじさんもだいぶ…」とどこか遠くを見るような目をしていた。
意味がわからなかったから説明を求めたが、「いや、そこはいいから」と言われた。
なんだか解せない。
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結婚式当日の朝、感動よりもむしろここまでこれた安堵感の方が大きかった。
これでもうクーに「やっぱりムリ」とか「子供に悪影響だから」とか言われることに怯える日々もひとまず終わりだろう。
借金を完済したような気分だ。
いざ式が始まるとやっと『結婚』というものに現実感が湧いてきた。
クーが結婚式でも使えたらと言っていたので神父さんに聞いてみたけど、「教会の中、っていうよりも屋内で花火みたいなのはやめなさい」と叱られたので式では使えなかった。
扉が開いてクーが教会の中に入ってくる。
オルガンで演奏されるのは結婚行進曲で、曲の進みとクーの歩みにドキドキが昂まってくる。
ウエディングベールはクーの部屋に掛けてあったあのベールだ。
ベールを被ったクーはなんだかすごく、そう、神秘的なキレイさで、身体の奥からじんわりとした涙が出てきた。
エンパイアライン?と言っていたシンプルな形のドレスは胸の下から裾に向かってプロポーズに使ったスライム花が所々付いていて、ベールとよく合っていて、まるで神話に出てくる花の女神みたいだった。
でも式が終わって後ろ姿を見たとき、背中にウスバカゲロウのような透き通った羽と、泉からわき出る水のようにその羽にそってスライム花が咲いていて、妖精だったのか!と例えを間違ったと思った。
クーと恋人になってから、まるで夢のような日々だと思ったけれど、夢なんかじゃない。
確かな現実で、クーを傷つけてしまったことも含めてしっかりと現実で、だからこそ今この時がもっとすごく奇跡的で素晴らしいんだ。
これから先、病める時も健やかなる時も3人で、もしかしたら4人とか5人とかで生きていく。
なんにしても2人以上は絶対だ。
結婚行進曲はゼクシ◯のパパパーンの曲ですが、元々はシェイクスピアの喜劇「夏の夜の夢」のラストの結婚式シーンに流れる曲だそうです。
今回の副題は夏の夜の夢のセリフから。
5話目のは冒頭のセリフで、「次の新月に結婚式をするのが、待ち遠しいよ。月が欠けていくのが遅く感じる」の一部です。
ラルは普段は少々ポンコツ気味の普通の人なので、割とストレートな思考と言動です。
が、何かにハマっている時はラルとしての意識が停止しているような状態なので、ラル視点ではブーム中の事は書いていません。
ですが他から見るとブームの時間は存在しているので、やっぱりクーは苦労すると思います。
アランは、クーの悩みには「女性は時にナーバスになるもの。そんな時に逆らってはいけない。両思いなんだから(←ここ疑ってない)ポンコツを叩けば拗れた仲も直るだろう」くらいの考えです。今回はその細かな女性心理を理解できないところが絶妙な具合に2人の仲を取りもちました(笑)
ここまでお読みいただきありがとうございました。




