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7話

 あれから何年経ったのか……。

神社の縁の下で寒さに震えて過ごす冬を10回は、迎えただろう。


 俺は、ヒロシと出会った頃の小さな仔犬から、すっかり大人の犬へと成長を遂げた。


 小さかった俺の面倒を何かと見てくれていた、ベスおじさんは、今はもう居ない。

ベスおじさんの飼い主の家には、今は、ベスおじさんに良く似た、まだまだ小さな仔犬が住んでる。


 ヒロシの母さんと毎日のように、やっていた、神社の神様へのお願いは、今はもう、行われていない……。


 ある日、ヒロシの母さんが、俺が仔犬だった頃にしてくれていたように、大きくなった俺を、縁側に座る自分の膝の上に乗せ、泣きながら話してくれた。


 『もう、ヒロシは帰って来ないのかも知れないね、毎日、毎日、神様にお祈りしても、ヒロシは帰って来なかったから』


 その日を最後に、ヒロシの母さんは、神社の神様にお願いをしなくなった。今でも時々、俺の大好物のドッグフードを持ってきてはくれるが。


 ヒロシの母さんは、神社の神様へのお祈りを止めてから、いつでもどこか悲しそうな顔ばかりしている。

俺には、ヒロシの母さんの側に居て、舐めてあげるぐらいしか出来ない。


 舐めてあげると、変わらず暖かな手で俺の背中を撫でてくれる。

ヒロシの母さん。ヒロシは、絶対に帰って来るよ。

俺には分かるんだ。そう言って、一生懸命にペロペロと舐めてあげるんだ。


 ヒロシの母さんと同じように、俺も神社の神様にお願いを今はもうしてない。あんなに長い間、毎日、毎日必死に、ヒロシの母さんと一緒にお願いしたのに、神様は、ヒロシを帰してくれなかったからだ。


 神様へのお願いを止めた代わりに俺は、1日に必ずヒロシが消えてしまった、あのイノシシと遭遇した場所に行くようになった。


 ヒロシが最後に立っていた場所の地面に鼻を近付けて、匂いを嗅いでみるが、もう、今はヒロシの匂いのカケラすら残っていない。

それでも、毎日、この場所に来て、ヒロシの匂いを探している。


 その年の寒さに震える冬が過ぎて、春の陽気が騒ぎ始めた、ある日。今日は、ヒロシの母さんは来るのかな?

そう思い、神社の縁の下から、顔だけを出していた。


 しばらく顔を出して、待っていたが、今日はどうやら来ないらしい。今日は大好きなドッグフードは、オアズケだな。

今日は、神社の裏の山に行き、野ネズミか虫の幼虫でも探してみるか。


 山に入っていく為の細い獣道に着いた時、俺の鼻に、どこかで嗅いだ事のある、懐かしい匂いがしてきた。



 暖かいポカポカしたお日様のような匂い……。

仔犬だった俺を、必死に守ってくれた、大好きな匂い……。


 「間違いない! ヒロシの匂いだ!」


 俺は、そう一声大きく吠えると、あの場所へと走り出した。

生まれたばかりの頃に、イタチに喰われて無くなった足。

3本の足で、ずっと生きてきた。

仔犬の頃と違い、ヒョコヒョコと走る事も無くなっていた。

俺は、あっと言う間に、ヒロシと最後に別れた場所に、辿り着いた。


 でも……。そこにヒロシは、居なかった……。


 気のせいだったのだろうか?

そう思い、諦めて、狩りに行こうとした瞬間に。

ヒロシが最後に立っていた、あの場所が光り出したんだ。


 まぶしくて、目を開けていられないぐらいの光りが、あの場所に。光が収まってから、目を開いてみたら、あの場所に、大人の人間の男が1人立っていた。


 その人間の男は、周りをキョロキョロと見回すと、俺の事に気付いたのか、じっと俺の事を見つめてくる。


 あぁ……この匂いだ!

忘れない! ずっと友達でいようと決めたから。


 人間の男は、すごく驚いた顔で……。


 『足が1本無い犬……ひょっとして……お前……ポチか?』


 確かにそう言ったんだ。そうだよ! ヒロシ! お前の一番の友達のポチだよ! お前が仔犬の頃に守ってくれた、お前が名前をポチと付けてくれた、ポチだよ!


 俺は、シッポが、千切れるぐらい大きく大きく左右に振って、ヒロシの元へと駆け寄った。

ヒロシも、腰を下ろして、両手を広げて差し出している。


 俺は、ヒロシの胸元に飛び込んで、ペロペロ、ペロペロとヒロシの顔を舐めた。


 『ポチ! ポチ! 待っていてくれたのか? この場所で、すっかり大きくなって、大人の犬になるぐらい長い間、会えなかったのに……』


 馬鹿だな、ヒロシは、約束したろ? あの日あの時、俺とヒロシは、ずっとずっとずっと友達でいよう。って、俺達犬は、人間の一番の友達なんだぞ! 春が10回来る間の時間ぐらい、待ってるに決まってるだろ!


 『ポチ……待っていてくれてありがとう、そして……待たせてしまってごめんな』


 いいんだよヒロシ。俺達犬は、人間の為になるのなら、自分達の命だって賭けられる、そう言う生き物なんだから、そんな俺達だからこそ、人間は俺達犬を一番の友達に選んでくれたんだろ?

ヒロシ、お前が今、俺に見せてくれてる、その涙と笑顔が見れただけで、俺は、それだけで、もう十分なんだから。


 『ポチ、母さんの元に帰らなきゃいけないんだ、付いて来てくれるかい?』


 「わん!」

 

これにて転生ルートの終わりです。


よろしければ、感想や評価をお願いします。


この作品の大まかなストーリーを思い付いた時。

今のストーリーと全く違うストーリーになる予定でした。

色々と考慮した結果、このようなストーリーを採用して投稿しました。

この7話で、変えたストーリーは完結になりますが、ひょっとしたら、本来のストーリーを、IF物語として、書くかも知れません。

だから、この作品は、完結済み。ではなく、連載中とさせていただきます。


直ぐにIFストーリーを書けるか分かりませんが、気長に待っていてくださると、助かります。


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