2話
僕達、犬族には絶対に人間に教えちゃいけない秘密があるんだ。
僕も、母さんに教えて貰った時に、絶対に人間には教えちゃダメだよ。って言われたんだ。
みんなにだけ、コッソリと教えてあげるね。
僕達、犬族は実は、人間の話してる事がちゃんと、分かっているんだ。
だけど、昔からの掟で、ほんの少しの簡単な言葉しか、分からないフリをしなきゃいけない。って決まってるんだよ。
人間といつまでもいつまでも友達で居る為に必要な事なんだって。
寒かった冬が終わって、お日様がポカポカしてた、あの日。
僕は、お日様の誘いに、負けちゃって、普段はほとんど、神社の縁の下から出ないのに、その日は、縁の下から出て、ポカポカのお日様の下で、お昼寝してたんだ。
そしたら、普段はめったに人間も来ない、山の麓の神社なのに、人間の子供が、3人もやって来たんだ。人間の子供も、ポカポカお日様に負けちゃったのかな?
人間の子供達は、大きな男の子が二人と小さな男の子が一人いたんだ。子供達は、僕がお昼寝をしているのを見つけて、近付いてきたんだ。僕は、ベスおじさんが言ってたように、僕と友達になって一緒に遊びたいんだな。
そう思ったんだ。だから、僕は、一生懸命にシッポをブンブン振って、一緒に遊ぼうよ。僕の友達になって。って人間の子供に伝えてみたんだ。
だけど……。
大きな男の子二人は、持っていた棒を振り上げて、僕の事を叩いてきたんだ。すごく痛くて、思わず泣きそうになっちゃった。
それからも、大きな男の子達は、僕に向かって、神社の境内の小石を投げつけて来たり、僕に意地悪をしてくるんだ。
僕は、一生懸命に、吠えて伝えたよ。
「何で僕を叩くの? 何で僕に石を投げるの? 犬の僕と、君達人間は、友達だろ? そんな意地悪しないで、一緒に遊ぼうよ」
だけど、大きな男の子達は、僕に小石を、ぶつけてくる。
僕は、足が1本無いから、上手く小石を避けられ無くて、小石が体に当たるんだ。
僕は、思わず、人間の男の子達に噛み付いてやろう。って思ってしまったんだ。人間は、すぐに忘れちゃうけど、僕達犬には、人間なんかすぐ怪我をさせられちゃう牙があるんだぞ。
本当に噛み付いてやろうって思った時に、ベスおじさんの言葉を思い出したんだ。
『人間は、犬達の一番の友達だよ、人間を噛んじゃダメだよ』
だから、僕は、我慢したよ。
小石をぶつけられても我慢したよ。
棒で叩かれても我慢したよ。
ベスおじさんとの約束だもんね。
どのぐらい我慢してたかな?
突然、見てるだけだった、小さな男の子が、僕の前に現れたんだ。そして……僕に当たるはずだった小石を、僕の代わりに体で受け止めてくれたんだ。
小さな男の子は、オデコから血を流してた。とってもとっても痛そうだ。だけど、その子は泣いたりしないで、ずっと僕を庇うように、僕の前に立ってたんだ。
僕は、死ぬまで忘れない。君とお話する事は僕には出来ないけれど、約束するよ。君が僕の為に、自分よりも体の大きな男の子達と戦ってくれた事を。僕を守る為に、言ってくれた事を。
君は、大きな男の子達に、こう言ってくれたね。
『やめろー! 犬を虐めるな! 犬はずっとずっと昔から、僕達人間と一番の友達なんだぞ!』
僕は、忘れないよ。そう言って僕を守ってくれた君の温もりを。
たくさん小石をぶつけられて、たくさん棒で叩かれて、痛くて痛くて動けなくなってた僕を、優しく抱き上げてくれた、君の手の温もりを。
だから僕は決めたんだよ。
君の事をいつまでも、いつまでも、ここで待っていると……。