第三十四話 最高に、痛快な結末
先週三回更新して居ますので
未読の方は其方からどうぞ
前半はほぼ説明です
其からの事は当事者ながらほぼ蚊帳の外だった。
まあ、仕方無いよね。入院患者だしね。
白波瀬萩沙を待ち構えて居たらしい敵さんは、喜んでわたしの申し出を受け入れたそうだ。
直ぐにでも、と言う相手の要求を抑え込んで、退院の三日後と日にちを決めたと語る春田さんを、初めて交渉役として尊敬した。
否だって、髪も伸びっぱなし、服もゆるゆる、部屋も其のまんまなんだよ?
其で失踪とか、虐めか。虐めかっ!
退院迄の時間は各種手続きや遺書作成、下着や服の注文や、散髪等々、入院患者とは思えない多忙さで過ごす事になった。
馴染みの美容師さんに、病院迄来て貰っちゃったよ。忙しいのに申し訳無かった。わたしの痩せ具合やら怪我具合やら見られて、驚かせてしまったしね。でも、綺麗に整えて貰って、気分が上がった。
タナカさんには伝言で元気だと言う事とお礼を伝えて貰い、犠の事は隠した。
何れは伝わる事だとしても、今じゃなくて良いだろう。
親類縁者や友人達に関しても、右に同じだ。飽くまでやってみなければわからない事で、ぬか喜びから絶望に叩き落とすのはよろしくない。成功してから、伝われば良いんだ。
家族や知り合いでも赤の他人と同じ扱いで情報秘匿される事を、後々非情だと責められるかも知れないけれど、其の時既にわたしは亡きひとなのだから、良いのだ。
遺書は遺すし状況は地球防衛軍から説明が在るだろうから、遺書無しの突発自殺よりマシだと思って欲しい。遺骨すら無い死亡は、家族として遣る瀬無いかもだけど。
許しを得て母親宛の遺書に、切った髪を一束入れた。髪の毛入りの手紙なんてホラーだけれど、遺骨代わりに遺髪位と言う、サクラさんの助言だ。
サクラさんと言えば、後藤さんだが、どんな交渉の下か護衛に復帰した。
端から見ると完璧自殺未遂をした挙げ句、ちょっとアレな伝言をしてしまった手前最初は顔を合わせ辛かったが、ナイスミドルな仕事人はナイスミドルな仕事人の儘で居てくれて、無性にほっとした。
以来何事も無かった様に、後藤さんは護衛を続けてくれて居る。
泣き疲れて眠る迄泣くと言う失態を犯して以来、夏川晴史とは会って居ない。
夏川晴史はわたしを探して居るらしいが、高度治療室には一般人の立ち入りが許されて居ない為に、見付かるには至って居ない。タナカさんと鉢合わせして夏川晴史からわたしの事が伝わるんじゃないかと冷や冷やして居たら、後藤さんがサクラさんの共謀して何やら手を打ってくれたらしい。…怖い姉弟だよ。
まさかのオーダーメイドの服も下着も、何を言って脅したのか退院迄に完成し、後は部屋を片付けるばかりと言う状況でわたしは退院した。
何の気遣いか退院後の三日間、わたしは自宅のマンションに戻る事を許された。護衛も、部屋に立ち入らないそうだ。外には控えてるけど。
自殺でもしたら如何する気だ、と思ったが、そんなつもりはもう無い事は、既にばれて居るのだろう。
わたしは気遣いを有難く享受して、徹底的に部屋を片付ける事にした。
「…うぅ、入院生活で奪われた体力が憎い…」
「そう言って護衛を手足に数えちゃう所、イイ性格してると思いますよ」
ものが消えたリビングのフローリングにへたり込むわたしを、軍手を外しながら後藤さんが見下ろした。
今頃八郎さんと佐原さんが、家具家電と服を纏めてリサイクルショップに売っ払ってくれて居る頃だ。
部屋の外に居た護衛さん達を呼び寄せて力仕事の助っ人役をやらせた挙げ句、家具引き取り業者扱いした事を、反省はして居ない。使えるものは、何でも使え。白波瀬家家訓だ。格言で在る。
書籍やゲーム、AV関連商品も、皆古本屋の出張買い取りに預けたので、値段が付くものは売れるはずだ。残りは廃棄だろうけど。
仰向け(俯せに寝る許可はまだ下りて居ない)の儘部屋を見渡して、苦笑する。
「やー…ものが消えると見違えますね、住み慣れた部屋でも」
「ベッド迄手放して、良いんですか?今日何処で寝るんです?」
「寝袋で」
流石に怪我人の身で直床寝はサクラさんの怒り顔が脳裏をちらついたので、学生時代にお世話になった寝袋だけ残したのだ。エアコンと照明は備え付けなので、此で一晩位は夜を越せるはずである。
…仮にも救世主の最後の一夜が其で良いのかとか、突っ込んだら負けだ。ほら、勇者様だって宿が無ければ野宿じゃないか。其と一緒さ。
「…幻滅しました?」
後藤さんから何か言いたげな気配を感じて、訊ねる。
「え?白波瀬さんの女子力にはもう期待してませんでしたけど?」
「否、え、何の話!?」
「寝袋で寝るとか女子として何か棄ててるだろうと言う話じゃないんですか?」
何だソレ。と言うか、後藤さんの評価がさり気なく酷い!!
「違いますよ!!大体、寝袋先生は大いなる先駆者の偉大な発明じゃないですか」
研究の追い込みで終電を逃し、研究室に泊まり込みになった時にそっと寄り添ってくれる寝袋。何度助けられたかわからない。
って、そうじゃなくて。
「わたしの女子力はもう諦めてますから良いんです。そうじゃなくて、だから、」
結局折れて犠になる事で、がっかりせたんじゃないかって。
目を合わせられなくなったわたしを抱き起こし、後藤さんは自分の肩にわたしの顔を引き寄せた。
泣いてない時に此の体勢取らされて、こうすると後藤さんの顔も見えないのだと言う事に初めて気付く。
「本当に、白波瀬さんって、良いひとですよね…」
「どこが」
反射的に問い掛けた言葉を、後藤さんは笑った様だった。
体温と共に身体に伝わる振動に、わたしも不思議と笑ってしまう。
後藤さんの側は、気楽だ。ありの儘のわたしで居られて、ほっとする。
此のひとを好きになって居たら、幸せだったのかも知れない。
何方にしろ幸せな人生なんて、望めない状況には陥って居るけれど。
後藤さんは笑みと、少しの悲しみが混ざった声で、言った。
「自分がどん詰まった状況なのに、他人が気に掛かっちゃう所」
「我が身が可愛い、だけですよ」
好意を持つひとに嫌われるのは怖い。其だけの話だ。
否定の言葉に反論はせず、後藤さんがそっと呟く。
「あなたらしいと、思いましたよ?」
「…なにが?」
「世界の為じゃなく、自分の為に世界を救おうとしちゃう所が」
後藤さんはくすくすと笑って居るのに、何故か泣いて居る気がした。
自分よりずっと頼もしげな背中を抱いて、撫でる。
「わたしが自分勝手な事なんて、最初からわかってたじゃないですか」
「ええ。わかってました」
こんな時でも後藤さんは後藤さんで、強く抱きしめても夏川晴史に抱かれた時みたいに怪我に障る事が無い。
男の腕の中で他の男を思い出す、そんな自分の女らしさを自覚して、自嘲した。
互いに抱き合って互いの肩に顔を埋めながらも、わたし達は強がって笑って居た。
分かたれたのだと、自分勝手に悲しく思う自分すら、おかしかった。
「わかってたから、幻滅なんてしませんよ。白波瀬さんは白波瀬さんとして、白波瀬さんらしく生きた。最高に、痛快な結末じゃないですか」
「そーですか」
お互いに笑って居るのに、お互いを慰める様に撫でる。
ぽんぽんと背中を叩く手は、泣きたい位温かかった。
「そーですよ」
「うん。そうですね。…有難うございました、後藤さん」
あなたの事も、好きでした。
言わずに付け足した言葉は、でもきっと後藤さんだからばれて居る。
「如何致しまして、…萩沙」
不意打ちに体温と脈拍を上げたわたしを思いっきり笑って、身体を離した後藤さんはもう仕事人の顔をして居た。
だからわたしも、ふてぶてしい護衛対象の顔を造る。
「明日も、ぼくは護衛に付いてますから」
「なら、安心ですね。しっかり最後迄守って下さいね」
笑ったわたしに笑顔を返して、頼れる護衛の後藤さんは頷いた。
「勿論。其がぼくの、仕事ですから」
後藤さんが護衛に付いて居る以上、何か問題が起こる事も無く。
遂に、其の日は、やって来た。
拙いお話をお読み頂き有難うございます
エピローグっぽいサブタイですがまだ終わりません
今週中に完結予定です
最後迄お付き合い頂けると嬉しいです




