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雨の日を好きな理由

「天気悪いー」

「梅雨なんだからしょうがないだろ」


窓から見える空は、雲で覆い隠されていて、濃い灰色をしていた。雨の雫が、地面に叩きつけられている音が、絶え間なく響いていて、屋内に居ても聞こえてきた。そんな、雨天特有の音をBGMにして本を読んでいると、唐突にその本を奪われた。視線をあげると、こちらを睨む一対の瞳。


「…何しやがる」

「人が話しかけてるのに、こっちを見ない上に適当に答えるって失礼じゃない?」

「そんなこと言われてもなァ…」


 ぼやきながら、本を取ろうと腕を伸ばすと、本を遠ざけられた。椅子に座っている状態だと、どれだけ腕を伸ばしても届かない距離だ。


「返せ。まだ途中だ」

「かまってくれたら返すよ」


 そんなことを言っているのを聞いて、はあ、と溜息を吐いた。


「かまえって言ってもな…出かけられないんだから、部屋にいるしかないし。じゃあ部屋で何かするかって言っても何もないだろ」

「ゲームとか」

「対戦ゲームないぞ。基本RPG」


 一応ゲームハードは一通り揃っているが、二人で遊ぶためのゲームなんて持っていない。


「やること本読むくらいしかないと思うんだが」

「いいからかまって」

「だからな…」


 言いかけてやめる。なんだか堂々巡りになりそうだった。


「…とりあえず本返せ」

「かまってくれる?」

「わかったわかったから」


 そう言うと、案外あっさりと本を返してくれた。一瞬読書に戻ろうかとも思ったが、そんなことしようものなら部屋が惨状になりそうだったのでやめておく。読んでいたページにしおりを挟んで、机の上に置いた。


「…で何すんだ」

「なにか話そうよ。あ、お菓子とってきていい?」

「却下だ。菓子取った手で部屋中触られたくないし」

「えー」


 不満気に頬を膨らませているが、元々そんなに食べたいわけでもなかったらしく、すぐに頬が戻っていた。


「…雨嫌い」

「なんで」


 ぼそりと呟かれた言葉を拾って、そう尋ねた。

 窓から外を見ながら、言葉を続けた。


「外には出れないし。止んだとしても、外に出たら水の匂いすごいし。寝る時とかに降ってきたら、うるさくて眠れないし」

「まあ、同意する。濡れるしな」

「でしょ?外に出てる最中に降り出したりしたら最悪。もうずぶ濡れ」

「まあなぁ…」


 外を見る。雨足はまったく変わっていない。むしろ、激しくなっている気がする。


「梅雨なんて早く終わればいいのに」

「どうしてだ?」

「だって、梅雨の次は夏じゃない」

「…ああ」


 確かに、梅雨が終わると、急に暑くなる。夏の訪れを感じるには、充分な暑さだ。


「夏な。俺も好きだよ」

「だよねー、からっと晴れててさ」

「雨降る時は降るけどな」

「水差さないで」


 じと、っとした目で睨まれた。そっと視線を逸らす。


「…まあ、なんだかんだ言ったが、俺は雨嫌いじゃないぞ」

「え、何で?」


 さっきとは違って。きょとん、とした瞳でこちらを見ている。

 その姿に微笑が浮かぶ。


「晴れの日は、外に出て、友達と馬鹿やれるし」

「うん。それに気分も良くなるよね、晴れてると」

「確かにな」

「じゃあ、どうして雨が好きなの?」

「…、それはな」


 一瞬間を開ける。


「お前とこうやって、二人きりで過ごせるから」


 そう言うと、見ているこっちが面白いくらいに顔を赤くしていた。


「なんつー顔してんだよ」

「…うるさい、馬鹿」


 赤くなった顔を隠すように、身体ごとそっぽを向かれてしまった。子供のようなその姿に、ぷっ、と吹き出して、外を見た。

 雨はまだ、止みそうにない。



              【了】



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