紫陽花
ザーザーと、雨が降っている。
雨の中を、傘を差しながら歩きながら、ふと視線を道端に向けると、紫陽花が咲いていた。個人的に、雨に一番似合う花は、紫陽花だと思う。
「何見てるの?」
隣を歩いていた少女が、俺が見ていた方向を見る。
「あ、紫陽花?」
「他に何かあるか?」
愛想のない口調でそう言った。
彼女は、そんな俺の口調に苦笑しながら、言葉を続けた。
「あんたにぴったりよね、この花。贈ろうか?」
「…どういう意味だ?」
「花言葉よ」
…紫陽花の花言葉か。何だったかと考えて、すぐに答えに行きついた。
「…紫陽花は、その土壌の性質によって、花の色が変わる」
「うん。アルカリ性なら、赤。酸性なら、青になる」
「その花の色の変わりやすさから、紫陽花の花言葉は“移り気”。異性に贈る時は、相手の浮気を責める意味で使われるな」
「そうよ」
俺の言葉を肯定して、彼女は笑った。
「すぐに気分が変わる気分屋。これ以上にないほど、移り気という言葉が似合ってるわ」
「…まあ、気分屋なところは認めるが」
そこで一旦言葉を切った。
「浮気をしたことはないぞ。贈られる理由はない」
「…まあ、そこは信頼してるけど」
そう言うと、彼女は拗ねたような顔をしていた。
「俺が好きなのはお前だよ。浮気なんてしないさ」
「だから、信頼してるってば」
照れ隠しか、彼女は足を速めた。俺はふう、と息を吐いて、その後を追った。
紫陽花の花は、綺麗に咲いている。
【了】




