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これは『勇者』と『魔王』の物語  作者: 東の雲
ルクス村編

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極大魔法

 敵の女リーダーが放った渾身の一撃を、ジークは片手で持った剣で軽く受け止めている。


「パル、プル、ポル。悪いがあいつはお前達の手に負えない。ルクス族の今後を考えても、今お前たちを死なせるわけにはいかない。

残念ながら選手交代だ」


 ジークが言った。


 3賢者の卵達は反論したそうだったが、自分達の力では歯が立たないことを痛感したのか、ぐっと言葉を飲み込んだ。


「分かってくれたな。よし!マオちゃん!やっちまえ!」


「私!?あんたが出てったんだからあんたがやりなさいよ!」


「んー…。俺も流石に女性相手じゃ、気が引けてなぁ。

 女性の相手は女性のマオちゃんがするべきだよ」


「私が相手の時には全力で殺しに掛かってきたくせに…」


 マオさんが白けた眼をジークに向ける。


「まぁ、ケースバイケースってやつだ。任せたよ」


 またジークの怠け癖が出てきた。

 なんでもかんでも、面倒なことは他人に押し付ける悪い癖が…。


「しょうがない。私が相手してやる。掛かってきな」


 マオさんはジークと言い争っても無駄と思ったのか、すんなりと戦いを引き受けた。


「貴様ら。あたしを前にして、なんて緊張感のなさだ。

しかもどちらもあたしに勝てるような口ぶりが気に入らないね!」


 敵は猛スピードでマオさんに突進してくる。


「タンノノロークフレア」

 マオさんがそう唱えると、紫の炎が飛び出した。


 が、やはり敵の斧の一振りで掻き消された。


「ふーん。やっぱりダメなのね」


「ふん!あたしはアーブルグの族長。一族の誰よりも魔力無効の力は強く受け継いでいる!

あたしの前にはゼノドラグス以外の魔法なんて無力なんだよ!」


 そう叫びながら、敵が斧を振りかぶった。


 ブォン!


 横薙ぎの一撃。

 マオさんは半歩だけ下がり、剣の腹を斧の刃に添えた。


 ギィン!


 斧の軌道が、ふわりと逸れる。

 勢い余った刃が地面に突き刺さり、土埃が爆裂する。


「まだまだぁ!」


 敵は斧を引き抜く勢いのまま、下から斬り上げる。

 マオさんは上体をわずかに反らし、紙一重で躱す。


 その顔に、焦りは欠片もない。


 敵の連撃が、どんどん加速してゆく。

 一振りごとに風圧が走り、離れた私達の所まで土煙が吹きつけた。


「どうしたの?それで全力?」


 マオさんは片手で剣を握ったまま、もう片方の手を腰に添えている。

 その立ち姿は、まるで散歩でもしているかのようだ。


「その斧、見た目は立派だけど、当たらなかったらただの扇風機と同じだね」


「……っ!!ほざくなぁぁ!!」


 挑発に、敵の顔が紅潮した。

 斧を両手で握りしめ、全体重を乗せた渾身の振り下ろし。


 ズドォォン!!


 マオさんは、それを剣で真正面から受け止めた。

 彼女の足元の地面が、蜘蛛の巣状にひび割れる。


「ぐ……ぬ……!」


 敵が歯を食いしばり、さらに体重を押し込んでゆく。

 斧と剣が、ギリギリと火花を散らして軋み合う。


 それでも、マオさんは笑っていた。


「力は大したものだね。……でも、それだけだ」


 マオさんが剣をくるりと返す。

 力の向きが逸れ、敵が体勢を崩しす。


 しかし、マオさんは追撃をしなかった。

 一歩下がって、剣を構え直す。


「ほら。もう一回」


「おのれぇぇぇ!!」


 連撃、連撃、連撃。

 斧と剣がぶつかるたび、夜の村に火花と甲高い音が弾ける。


 私の目には、二人の腕が何本にも見えた。


 流石の身のこなしだ。

 敵は斧という巨大かつ重量の武器を使用している。


 その攻撃は一直線で読みやすいのは確かだが、パルさん達が躱せなかったのは、そのスピードがあまりにも凄まじかったからだ。


 私でもあのスピードの連撃は躱す自信はない。


 マオさんは、敵の攻撃を受けるので精一杯なのか、全く攻撃に転ずることが出来ていないのか?


 だが、その口元には常に笑みが浮かんでいる。


 息つく暇もないような怒涛の攻撃を、一撃も食らわずに剣でいなし、躱し続けているマオさんは、やはり凄い。


「思った以上にやるようだね!だがこれならどうだい!くらいな!

秘技、アクスエクレール!!」


 敵は斧を激しく地面に叩きつけると同時に、その反動を利用してマオさんとの距離を一瞬にして詰める。


 私の目には敵の姿そのものが消えたように見えた。


 敵の姿を見失い、次にその姿を確認するより先に、斧が激しい轟音を響かせながら地面を砕いていた。


 地面はすり鉢状に激しく凹んでいた。

 なんて威力だ。

 こんな一撃を喰らったら、いくらマオさんでもひとたまりもないだろう。


 が、そこにマオさんの姿はなかった。


 一体どこに!?

 よく見てみると、いつの間にかマオさんは敵の背後に立っていた。


「遅すぎるね。どれ程の戦闘力があるのかとわざと攻撃を全て受けてみたけど、期待外れだったわ」


 マオさんがそう言って剣を鞘に納めた瞬間、敵の全身に無数の切り傷が現れ、鮮血を吹き出し、膝をついた。


 なんて強さだ。

 敵のアクスエクレールという技ですら見切れなかったのに、マオさんはそれを更に上回るスピードで攻撃をしていた。


 次元が違う。


 私はマオさんのあまりの強さを再実感し、心底震え上がった。


「ぐっ。馬鹿な。

あたしの秘技アクスエクレールのスピードを凌ぐとは…」


「本当はいまので終わらせられたけど、それじゃあ納得できないことがあってね」


 そう言うとマオさんは敵から離れ、距離を取った。


「あんたは魔法で倒さないと気が済まないのよ!」


 そう言って、両手に魔力を集中させていく。


 マオさんの前に黒い球体ができ、その周りには炎、氷、雷、風などの様々な魔法が出現しては、その黒い球体に飲み込まれていく。


 魔法のことはよくわからないが、凄まじい魔力が放たれていることはわかる。


「ジークさん、アレは一体なんですか!?」


「あれは闇の極大魔法だ」


「極大魔法??」


「そうだ。各属性の頂点にある魔法だ。闇の魔法は本来は全てを飲み込む力。

マオは全属性の魔法をあの球体に飲み込ませることで、闇の力を極限まで増幅させてるんだ」


「そうするとどうなるんですか?」


「この世から何でも消し去る程の威力を持った恐ろしい魔法ができあがる」


「なんでそんな凄い魔法があるなら、レヴィーアの時に使わなかったんですか?」


「使っても掻き消されただけだ。俺たちが全魔力を使って防いだレヴィーアの最初の攻撃も、光属性の極大魔法だったからな。

それに極大魔法は魔力の消費が激しすぎる。1発で仕留められなかったら後がキツイからな」


「そうだったんですか」


「もっとも本来の力と、うちら専用の武器をちゃんと持ってたら、あの極大魔法の威力もレヴィーアの一撃に勝るとも劣らないものになってたけどな」


 今のままですらこんなに強いのに。。。


 話の次元がぶっとびすぎてて、ただ普通に驚くことしかできない。

 この人達の本当の力ってどこまで凄いんだ。。


 そんな話をしている間に、マオさんの極大魔法が完成した。


「くらいな。ダークマター」

 マオさんが極大魔法を放った。


 黒いビームは周囲の物を全て飲み込みながら、敵へ向かってゆく。


「こんなもの。

 掻き消してくれるわー」


 敵は傷ついた体を起こし、全体重を乗せて斧を振るった!

 斧とダークマターが激しく衝突した。


「くっ。か…掻き消せない…!!?」


 斧と衝突をしてもダークマターは消える気配がない。


 しかし、何でも消し去るはずのダークマターに斧が消滅しないで堪えているのも、きっと彼女の魔力無効化の力が少しは作用しているのだろう。


 それでもダークマターが消えないのは、マオさんの力の方が遥かに勝っているからだろう。

 私の目からみても、彼女が力尽きるのは時間の問題に見えた。


「くっ……。これ以上はもう…」


 ぱきぃーん

 彼女の斧が粉々に砕け散る音が響くと同時に、ダークマターは敵の体ごと全てを飲み込んでいった。


 ダークマターは敵を飲み込んだ後も直進を続け、木々や地面、岩を飲み込んで行った。


 ダークマターの通った跡には何も残っていない。


 これが闇の極大魔法……

 私はその威力を目の当たりにし、ゴクリと唾を飲み込んだ。

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