3賢者の戦い
私は傷ついたリガンを抱え、戦いの場から離れた場所に来た。
とは言っても、さほど離れてはいない。
目視でみんなの戦いが見える程の距離だ。
敵はみんなジークやマオさん、3賢者の卵達に目がいっているので、この位置でも安全だろう。
万が一、数人こっちに来たとしても、今の私ならなんとか出来るはずだ。
少し自信を取り戻せていた。
しかしその自信も、ジーク達の戦いを見ていると一瞬にして打ち崩される。
ジークが剣を一閃するたび、敵が3人、4人とまとめて吹き飛んでゆく。
マオさんの放つ黒い光が夜を裂き、その軌跡に沿って敵の隊列が崩れていく。
やはりこの2人の強さは圧倒的だった。
それにパルさん、プルさん、ポルさんも、強力な魔法を主軸に、それぞれの武器を使って上手く戦っている。
パルさんが杖を高く掲げた。
火、氷、雷、風。敵の動きに合わせて次々と属性を切り替え、遠距離から魔法を叩き込んでゆく。
敵が距離を詰めてくれば、杖に魔力を込めて殴りつけ、すぐさま間合いを取り直した。
その横で、プルさんが魔法壁を展開する。
パルさんとポルさんに迫る敵の剣が、淡く光る壁に弾かれた。
壁の内側から、プルさんの小型の銃が火を噴く。
魔力を弾にしているのか、弾切れを起こす気配はない。傷ついた仲間には回復魔法を飛ばし、攻めと守りの両方を支えている。
そしてポルさんは、最前線を駆けていた。
短めの剣を両手に握り、刃に炎と雷をまとわせる。
炎が敵の剣を焼き、雷が体を痺れさせ、動きが止まった瞬間に二本の刃が交差して斬り裂く。
典型的な魔法戦士の戦いぶりだった。
この3人のコンビネーションは絶妙だった。
トワイザランの騎士達が全く歯が立たなかったゼノドラグスの手下達を、どんどん倒してゆく。
あの3人がこれ程までに強かったとは。
私はつくづく井の中の蛙であったことを思い知らされる。
あっという間に、残る敵はこの群れを束ねていたリーダーの女だけとなっていた。
敵の女リーダーは、細身で身長160センチほど。パーマがかったボブカットの女性だ。
身動きが取りやすいようにか、ノースリーブでヘソ出しのウェアとショートパンツ姿をしている。
よく見ると、肘から先と膝から下は、リガンたち獣人族のように茶色い毛で包まれていた。
武器は両刃の巨大な戦斧。
刃は深い紫色で、天使の羽のような形をしている。
「あとはあいつだけだな」
とジークが言うと、
「ここまで手伝っていただいて申し訳ありませんが、これは私達ルクス族の問題です。私達に決着をつけさせてください」
とパルさんが言った。
その言葉を聞いて、ジークとマオさんはやれやれという表情で、その場を退き、私達の所へやってきた。
パルさん達3人が、並んで女リーダーと向き合う。
「ゼノドラグスはどこ??」
パルさんが敵のリーダーを睨みつけて言った。
「あの方々はもう別の地へ行った。
ルクス族の主要な戦士達は既に殲滅していたからな。残りのカスなど、あたし達だけで十分だと思っていたが、まだこれ程の奴らが残っていたとは」
「ゼノドラグスの居場所を教えろ。さもないと、ただではおかない」
ポルさんがそう言い、両手に持った短剣の片方を突きつけた。
「きさまら勘違いしてないかい?もう勝ったと?
きさまらの始末など、あたしだけいれば充分なんだよ!」
女はそう言うと、持っていた巨大な斧を振り回した。
ブォン、ブォンと、風を切る重い音が響く。
華奢な体つきなのに、あの巨大な斧が、まるで木の枝のように軽々と回っていた。
パルさんが一歩前に出て、杖を構える。
「――はぁっ!」
中距離から放たれた炎の魔法が、夜を赤く染めた。
巨大な業火は敵に近づくにつれ、周囲の大気を飲み込み、さらに大きくなってゆく。
離れた私達の所まで、肌を焼くような熱気が届いた。
辺り一帯の気温が上がっているのが分かる。
それ程の業火を放つとは。ルクス族はやはり凄い。
しかし、女は避けようともしなかった。
「ふんっ!」
斧が一閃する。
紫の刃が炎に触れた瞬間、業火は真っ二つに裂け、火の粉となって闇に散った。
「なっ……!」
パルさんの顔が強張る。
女が地面を蹴った。
一歩で数メートルの距離を詰め、斧を振りかぶってパルさんに突進する。
「させないっ!」
プルさんがパルさんの前に飛び込み、魔法壁を展開した。
幾重にも重ねた光の壁が、斧の前に立ちはだかる。
ガシャァァン!
ガラスが砕けるような音と共に、壁は粉々に砕け散った。
斧の勢いは、まるで衰えない。
パルさんは咄嗟に杖で斧を受け止めた。
が、受けきれない。
杖がミシリと悲鳴を上げ、パルさんの体は宙を舞って、遠くの地面に叩きつけられた。
「パルさん!」
リガンが叫ぶ。
その一瞬の隙を、ポルさんは見逃さなかった。
気配を殺して女の背後に回り込み、魔法を付与した剣で斬りかかる。
炎をまとった右の剣、雷をまとった左の剣。
「はぁぁっ!」
右、左、右、左。
目で追いきれないほどの連撃に、火花が散り、雷光が走る。
しかし女は、背中に目がついているかのように反応した。
斧の柄と刃を巧みに使い、二刀流の斬撃を全て受け止め、いなしてゆく。
そして――
ブォンッ!!
強烈な一撃がポルさんの腹を捉え、体ごと弾き飛ばした。
ポルさんは地面を転がり、土煙の中に消える。
あの巨大な斧で、ポルさんの二刀流のスピードすら凌ぐなんて……。
今までの雑魚とは比べものにならないぐらい強い。
トワイザランを襲ってきた、ハヨネイ達なんかよりも遥かに。
「まずいな」
マオさんが呟いた。
「あぁ、あの3人には一番苦手なタイプだ」
ジークが答える。
「一体どういうことですか??」
リガンが質問した。
「あの女、どうやってるかはわからないが、魔法を全て無効化している。
しかも力とスピードのゴリ押しで戦う接近戦タイプ。
魔法メインで戦うあの3人には一番やりにくい相手だよ」
マオさんが説明した。
吹き飛ばされたパルさんとポルさんが、プルさんの元に集まった。
3人とも肩で息をしている。
「やはりルクス族なんて魔法に頼るばかりで、魔法が使えなくなれば大したことないね!
あたし達のように素直にゼノドラグスの配下になっていれば、このようなことにはならずに済んだのにな」
女は斧を肩に担ぎ、笑った。
「それだけの力があるのに、ゼノドラグスのいいなりか」
ポルさんが、口元の血を拭いながら言った。
「ふん。あんた達に何がわかる?
あたし達アーブルグ族は古来より、自分達で魔法を使うことはできぬが、神に与えられし力によって、武器に込めた一撃で魔法自体を攻撃し、無効化することができた。それ故に我らは、神に仕えし戦士族として名を馳せてきた」
女は斧の刃を、愛おしそうに指でなぞった。
「ゼノドラグスがあたし達に配下に入らないかと選択を迫った時も、あたし達は最初は断って戦闘になったのさ。
あたし達は神以外を信仰するつもりはないとな。
だが、その戦闘の中で、あたし達はどうやってもゼノドラグスの魔法を掻き消すことができず、一族の屈強な戦士達は次々と殺された。
あたし達の力を遥かに超えているが故なのか、何か特別な魔法なのかはわからないがな」
そこで女は、ぎらりと目を見開いた。
「その時に我らは思ったのだ。
神に与えられし力を打ち破る、この方々こそ本当の神なのだと!
神に仕えし戦士族として、この方々にお仕えすることが、我らの使命なのだと。
だからあたしは、アーブルグ族の族長として、喜んでこの身をゼノドラグスに捧げたのだ」
「こんな惨劇を各地で起こすような者が、神であってたまるか」
普段は大人しいパルさんが、険しい表情で怒鳴った。
「神も神話では、愚かな行いをした者を粛清してきたではないか。
時には洪水を巻き起こし、時には隕石を衝突させ。
あの方々は神に代わり、この世の浄化をしているにすぎない。
あの方々は言いました。
ルクスは不要の種族だと。
だから…ここで大人しく滅びなさい」
女は再び襲い掛かった。
パルさんが攻撃魔法を撃ち込み、プルさんが幾重にも防御壁を張る。
ポルさんも、雷をまとわせた剣を握り直して駆けた。
だが、女の斧は全てを無に帰した。
炎も、雷も、光の壁も、紫の刃に触れた端から霧散してゆく。
距離がどんどん詰まっていく。
「くっ……!」
後ずさるプルさんの足がもつれ、尻もちをついた。
女が斧を高々と振りかぶる。
3人まとめて薙ぎ払うつもりだ。
「消えなぁっ!!」
斧が風を裂いて振り下ろされる。
3人が思わず身をすくめた、その時――
ガキィィィィン!!
耳をつんざくような金属音が、夜の村に響き渡った。
斧は、3人の頭上すれすれで、ぴたりと止まっていた。
3人の前に立ち、剣で斧の一撃を受け止めていたのは――
ジークだった。




