異世界から来た二人
はぁ。。。
クリストファーは深いため息をついた。
トワイザラン王国
この地において最大かつ、もっとも歴史のある王国。
このトワイザラン王国騎士団1200年の歴史の中で最も若くして騎士団長に登りつめた私は誰もが羨む超エリートだ。
騎士団長は毎日、部下の鍛錬、躾をし、更には常に王族の護衛に気を使い、心身共に疲弊をする仕事だ。
それでも私はこの仕事に誇りを持っているし、この仕事は好きだ。
だがここ最近はモンスターなどの襲撃や、アイツらの復活のせいでろくに休みも取れていなかった。
そして今日は本来であれば久々に1日ゆっくりと休めるはずの日だった。
昼までゆっくり寝て、買い物して、カフェで本を読み、夜は騎士団学校の同級生達と飲みに行く。
そんなありふれているが、なによりもかけがえのない時間を送るはずだった。
それなのに…
昨日の晩に王宮の『祈りの間』に突如として2人の不審者が現れた。
1人は男で黒い短髪。身長は170センチ程度、見た目は20歳前後。
もう1人は女で薄紫の肌と変わった肌の色をしているが、同じく20歳前後の絶世の美女らしい。どちらも全身に怪我を負っていて、祈りの間に現れた時には気を失っていた。
怪我人を放っておくことは出来ないと、王宮の医務室で救護をしているが、もしこの2人がどこかの国からのスパイであったり、暗殺者である可能性も捨てきれないということで、私は王の護衛を言い渡されたのだ。
重い足を引きずり、王宮へ到着した。
まずは大臣に話を聞こうと、ムー大臣の部屋へ入った。
1人の老人が机に向かっていた。
机の上には書類が山積みとなっていて、大臣の鼻から上しか見えない程だ。
「おはようございます」
そう挨拶をすると、ムー大臣は腰を上げ、本に隠れて見えなかった真っ白に蓄えた口髭も姿を現した。
ムー大臣は私の方に近づいてきた。
「おぉ、クリストファーくん。せっかくの休みだったのにすまないね」
ムー大臣はニカリと笑顔をみせ、軽く肩をぽんぽんと叩いた。
この人の笑顔には人を和ませる力がある。
この世界で最大の王国の実質ナンバー2とも言える権力者とは思えないほど和やかな空気の持ち主だ。
さっきまで非番で億劫だった気持ちもムー大臣の笑顔を見たら一瞬で吹き飛んだ。
「いえ。大丈夫です。王宮と王族をお守りすることが騎士団長としての私の務めでございます」
「さすがはクリストファーくん。騎士団の鑑だね。若くして王国内3大騎士団の1つを任されているだけのことはある」
この国には騎士団は3つある。
火の騎士団、氷の騎士団、土の騎士団の3つだ。
私はそのうちの氷の騎士団の騎士団長である。
「ありがとうございます。して、本題ですが、その2人は今?」
「うむ。土の騎士団のレビン騎士団長がさっきまで看ておってな。男の方だけ目を覚ましたらしい。何やら自身の故郷のことなどを聞いてきたのだが、この地にその男が言うような場所や土地名は存在せん。おそらくは異世界から迷い込んできたのだろうと王宮魔道士達は言っておったのぅ」
「異世界から…ですか?」
異世界。
そんなものが本当に存在するのだろうか?
そう思ったが、今はそんなことを議論している場合ではない。
「信じられんようじゃが、祈りの間への現れ方などをみても、その可能性はあるだろうと王も納得されておった。今の所はスパイや暗殺の疑いはないが、万が一ということも考えられる。しばらくはお主ら3大騎士団に交代制で面倒をみてもらいたいのじゃ」
「わかりました。大臣。しかし何故突如現れた不審者を外へ出さずに王宮で救護したのでしょうか?いくら大きな負傷をしていて、手当が必要だとしても王に手の届かない城下町の医者などでも良かったのでは?」
「それはの。祈りの間に現れたからじゃ」
「祈りの間…。それがどうしたのですか?」
「王は昨日の夜に祈りの間で祈っておったのじゃ。この地を救ってくれる救世主が現れないか…と。そこに突如として現れた2人じゃ。王はあの2人を救世主と信じて疑っておらぬ。2人の機嫌を損なわぬよう丁重にもてなせとの命じゃ」
私達3大騎士団がいるというのに、王はそんなことをお祈りしていたのか。
大臣にそう言いたかったが、王のされたことを否定するような発言は騎士として出来ない。
ぐっと歯を食いしばり、喉まで出掛けた言葉を飲み込んだ。
「クリストファーくん。とりあえずその2人に会ってきてくれないかね。まだ救護室にいるはずじゃ」
「わかりました」
ムー大臣の部屋を出て、救護室に向かった。
王は祈りの間で救世主の出現を願っていた。私ではダメなのか。
私は17歳という史上最年少で騎士団長に上り詰めたのだぞ。
実力ではまだ炎の騎士団のサランさんや、土の騎士団のレビンには及ばないかもしれないが、まだまだ伸び代がある。
あと数年もすれば、私は誰にも負けないぐらい強くなるはずなんだ。
妙な苛立ちを胸に抱え、救護室に入った。
入り口を開けるとすぐに2人の姿が見えた。
女性は依然としてベッドで寝ている。遠目でも整った顔立ちをしているのがわかる。
その横の椅子に座っている男がもう1人の異世界から来たという者か。
異世界からやってきた男の後ろにはレビン騎士団長がニヤニヤと笑みを浮かべて立っている。
正直私はレビンが嫌いだ。
サランさん程ではないが、恐ろしいほどに腕はたつ。
しかしレビンの騎士団長にあるまじき、礼節のなさにいつも気を乱される。
レビンのことは置いておいて
とりあえず挨拶だけでもせねば。
「初めまして。私はこのトワイザラン王国3大騎士団、氷の騎士団団長のクリストファー・オストレインと申します」
私が先に挨拶をすると男は腰をあげた。
「初めまして。私はトリザリーという国から来ました、ジーク・アストロイと申します」
黒く長い髪は無造作に背中へ流れ、やや鋭さを帯びた緑の瞳がこちらを真っ直ぐに見据えている。
着ているのは動きやすさを重視した革装備に簡素なマント。決して豪奢ではないが、無駄のない実戦向きの装いだった。
その立ち姿には、場数を踏んだ者特有の落ち着きと、どこか張り詰めた緊張感が漂っていた。
ジークと名乗った男は頭をペコリと下げた。
「なぁなぁ、クリス!聞いてくれよ!ジークの話おもしれぇーんだぜ!」
下卑た声が救護室に響く。
この喋り方、品のない態度。
腕が立つとはいえ、何故このような男が騎士団長に…。
「聞くところによるとなぁ、この2人は敵同士で闘ってたところここに飛ばされたらしいぜ!激しい痴話喧嘩ってやつかねぇ」
レビンはケタケタと笑っている。
「ジークさん。良かったらジークさんのことと、ここに飛ばされる前のお話を聞かせてもらえませんか?王宮に突如現れたのでこのままだと、不審者としてあなたを捕らえなくてはならなくなってしまいます」
そんな指令は出ていないが、話を聞き出すために、私は少しばかりの嘘をついた。
するとジークは自身のことと、ここに飛ばされる直前の話をしてくれた。
ジークは19歳。ジークの世界には魔族という知力と身体能力、魔力に優れているが、凶暴な種族がいて、世界征服を企てていた。
その王である魔王を倒すために仲間と旅をしていて、魔王と闘い、最後の1撃を決めようとした瞬間に黒い球体に飲み込まれこの地にきたというらしい。
ということは、この美しい女性がその凶暴な魔族の王である魔王ということか?
にわかには信じられない。
視線を女性に移したその時
「ん……ん…」
女性の目に力が入り、眉間に一度皺を寄せたあと、ゆっくりと瞼があいていく。
目が覚めたのか。
女性は新緑のような鮮やかな緑の瞳をしている。
「ここは…?」
女性はあたりをキョロキョロと見回している。
「ここはトワイザラン王国というところです。初めまして。トワイザラン王国3大騎士団、氷の騎士団団長のクリストファー・オストレインと申します」
私はそのまま続けて、今の彼女の置かれている状況を説明した。




