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これは『勇者』と『魔王』の物語  作者: 東の雲
魔王の名

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女魔王の恐ろしさ

グランビートルはノソッノソッとゆっくりと1歩ずつ歩み寄ってくる。


リガンは相変わらず縮こまり震えていた。


「お…お前らはアイツの恐ろしさを知らないんだ!あいつらは見た目はの大きさに見合わず…」


リガンがそこまで話した次の瞬間、グランビートルが地面を抉るように蹴った。

その巨体が一直線に加速する。


「なに!?」


鈍く、重い衝撃音が空気を震わせる。


グランビートルの体当たりは“ぶつかった”などという生易しいものではなかった。

まるで鉄塊が撃ち出されたかのような一撃が、女魔王の体を真正面から捉えたのだ。


女魔王の体がくの字に折れ、そのまま地面を抉りながら後方へと弾き飛ばされる。


土が爆ぜ、石が弾ける。


止まらない。


勢いはそのまま、大木へ――


バギィィィィッ!!!


激突と同時に幹がひしゃげ、次の瞬間には耐えきれずにへし折れた。


大木は根元から傾き、轟音を立てて倒れ込む。


周囲に土煙と木片が舞い上がった。


――ただの体当たりで、この威力。


常識外れにも程があった。


「くっ…」


女魔王は立ち上がるが、明らかにダメージを受けている。


女魔王が攻撃を受けたのも、ダメージを受けているのも初めて見た。


さすがは3大モンスターといったところか。今までのモンスター達とは明らかに違う。


グランビートルは起き上がった女魔王に再度突進をかける。


「調子に乗ってんじゃないよ!これでも喰らいなさい!フレッチェオプスキュリテ!」


ハヨネイ兄弟を倒した、あの魔法だ。

女魔王の手の平の前に魔法陣が現れ、漆黒の矢が飛出し、グランビートルに命中した。


が、魔王の魔法はグランビートルの硬い外皮に弾かれた。


弾かれるとは想像もしていなかった女魔王は無防備の状態で再度体当たりを受けてしまった。


「ぐぁーー。」


女魔王が更に激しく弾き飛ばされた。

女魔王は岩に激突し、岩は粉塵を巻き上げながら崩れていく。


「だから逃げた方がいいって言ったんだーー!グランビートルの硬い外皮はいかなる攻撃も弾く。しかも見た目に似合わないスピードと戦略を組み立てる賢さもあるんだ」


リガンがパニックを起こしている。


「ジークさん!!このままでは魔王さんがやられてしまいます!!

力を合わせて奴を倒しましょう!!」


ジークにそう言葉をかけ、私は剣を抜いた。


「おいおいクリス。お前はあの魔王の力を少し舐めてないか?これぐらいの相手1匹ぐらいならアイツ1人で充分だ」


ジークは余裕の笑みを見せた。


「いたたたた。」


粉塵の中から女魔王が歩いて出てきた。

多少のダメージを受けてはいそうだが、立ち振る舞いは相変わらず凛としている。

大木や巨岩を砕く程の激しいタックルを2度も浴びて、この程度のダメージだなんて。

自分なら最初のタックルだけであの世逝きだっただろう。

この2人の強さを知れば知るほどにクリスは自分の弱さを痛感する。


「あんたなかなかやるじゃない。私達の世界にいたなら部下にしてあげたいぐらいだよ。」


グランビートルは三度女魔王に突進をかけた。


が、同じ攻撃は何度も通用せず、女魔王は大きなジャンプをして体当たりを躱した。


グランビートルは避けられた瞬間に急ブレーキを掛け、上空に飛んだ女魔王の方に振り返る。


するとグランビートルは背中の外皮を広げ、女魔王に向かって飛んだ。


流石に女魔王も空中では身動きが取れない……

と思ったが、女魔王は空中でひらりと身を躱し、そのまま宙に浮いている。


「えっ…!魔王さん、空も飛べるんですか…?」


ジークに問いかけた。


「浮遊魔法を使えば誰だって飛べるさ。まぁこの世界に来てからうちらは、何故か魔力が半減してて、そんなに長時間や速くは飛べないみたいだから、今まで使ってなかったけどな」


何度も言うが、もはやこの人達に常識は通用しないな。


攻撃を避けられたグランビートルは旋回をして再度魔王に突進していく。


「体当たりばかりで能がないね。そんな単調な攻撃しかないようじゃ、この山を支配するなんて到底できなくてよ」


女魔王は突進を再度ひらりと躱す。

が、女魔王が突進を躱した瞬間に、グランビートルビートルは空中で頭を地に向けて体を反転をした。


そのまま女魔王に向けて両手を広げると、グランビートルの手から無数の氷塊が飛び出した。


「あいつ!魔法まで使えるのか?!ジークさん!やはり手を貸すべきです!」


私は驚きのあまり叫んだ。

しかしジークは一向に助ける気配を見せない。


女魔王はその攻撃に気付き、身を躱すが、全ての氷塊は避けきれず、右肩と左足に直撃を受けた。


「くっ。…」


女魔王が一瞬苦痛に顔を歪めた。


グランビートルは攻撃の手を休めずに、更に氷塊を繰り出した。


「ふん。体当たりだけの単調な攻撃を繰り返して、体当たりに目が慣れたところで魔法で攻撃するなんて、なかなか考えてるじゃない。

だけど、お遊びもそろそろお終いよ。」


女魔王はそう言うとグランビートルに向けて手を伸ばし、手の平を広げた。

すると女魔王に向かっていた氷塊が全て一瞬にして蒸発した。


熱魔法!


氷塊が消えるとすぐに、今度は女魔王からグランビートルに向かって突進をした。グランビートルは氷塊の魔法を何度も繰り出すが全て女魔王の魔法によって掻き消されてゆく。


「魔法はそれしか使えないのかい?だとしたらもう観念なさい!」


女魔王はグランビートルとの距離をどんどん詰めていく


それにしても、女魔王はあの漆黒の矢のような魔法すら効かなかったグランビートルをどのようにして倒すつもりなのだろうか?


皆目見当もつかなかった。


女魔王はグランビートルに近づきながら、左手に黒い光を収束させてゆく。やがてグランビートルの懐に入り込むと


「はぁぁーー」


と気合いを入れ、グランビートルの腹部を思い切り殴った。


バゴォーン。


けたたましい音が鳴り響くと、グランビートルの動きは止まり、そのまま宙からゆっくりと地に落ち、ピクピクと全身を痙攣させ 口から泡を吹いていた。


パンチ一発!!!


あまりの光景に私とリガンは目を丸くして口をあんぐりと開いた。


女魔王がゆっくりと飛びながら戻ってきた。


「随分と苦戦してたな」


ジークが笑う。


「ふん。思った以上にこちらの世界にきて魔力が衰えていただけだ。本来の力と私の剣があればあんな奴は最初の一撃で終わっていた」


これで実力が出しきれてないなんて…


それにしてもパンチ一撃であんな装甲の厚いモンスターを倒すなんて。。


今後女魔王さんを怒らせるのはやめておこう。

クリストファーはそう心に誓った。



「か…感動しました!!」


さっきまで震えていたリガンが女魔王に駆け寄ってく。


「是非私を弟子にしてください!!」


リガンが女魔王の前で土下座をして頼み込む。

女魔王は突然の出来事にきょとんとした表情でリガンを見つめる。


さっきリガンは最強のモンスターを目指すと言っていた。

女魔王のこれだけの強さを目の当たりにしたら弟子入りしたくなるのも頷ける。

むしろ私も似たような境遇だったし。


すると女魔王ではなくジークが

「リガンは最強のモンスターになって何がしたいんだ?人間襲ったり、世界征服狙ってたりするのか?」

と問いかけた。


するとリガンは俯き、話始めた。


「僕は……僕はただ強くなりたい。ただそれだけなんです。

私達リカント族はモンスターの中では下級モンスターとして位置付けられています。

リカント族の中にも色々と種族はあって、上級や中級モンスターに位置付けられる種族もあるのですが、僕は最も弱いとされる、ベビーリカントという種族なんです。

ベビーリカント族は他のリカント族に比べて、体が小さく、力も魔力もとても弱く、戦士などではない普通の人間にすら勝てないんです。

僕はそんなベビーリカントの中でも、産まれた時から体が小さく、力も弱くていつもいじめられてきました。

最も弱い種族の中で最も弱く産まれてきたんです…。

でもそんな運命を呪ったところで何も変わらない。

だから僕は決めたんです。

最弱のモンスターから最強を目指してやるって!」


リガンは目は真剣そのものだ。

リガンの前に立っているジークに目をやると、ジークは小刻みにプルプルと震えていた。


「リガン……。気に入ったぞ!!!

うちらの旅についてこい!!

最弱から最強を目指すなんて、最高にかっこいい夢じゃねぇか!!」


ジークは目をキラキラさせて、リガンの両肩をガシっと掴んだ。


「世界最強を目指すんだったら、こんな山にこもってないで世界を見てまわった方がいい!

もっともうちらの旅はすぐ終わってしまうかもしれないけど、旅の間はうちらが稽古つけてやるから!

なっ?魔王、クリス、いいだろ?」


子供が玩具をおねだりするような目でジークはこちらを見つめている。


「私はもともとお2人に同行させてもらってる身なので、お2人の判断にお任せしますよ」


と答えると、ジークは続けて魔王を見た。


「お前がしっかり面倒みるんだぞ?ちゃんと御飯をあげて、散歩もするんだぞ?」


いやいや。

ペットとして連れて行く訳じゃないだろ。

見た目は可愛らしいけど。

女魔王がボケたつもりなのか、真剣に言ってるのかはわからないが、この場はスルーしよう。


もし下手にツッコミいれて、機嫌をそこねたら、さっきのパンチが……。


こうして私達の旅に可愛らしい仲間が1人増えたのでした。

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