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もう戻ることはありません! 〜 実家と婚家で冷遇されてきた地味令嬢は、辺境伯領で薬学の知識を振るいます 〜  作者: 鳴宮野々花


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3. 家族の浪費

「嫌だわ、お姉様ったら! 薬草の調合ですって……! うふふふふ。そんなもの、貴族令嬢の学ぶことじゃないわよ。あ、そうか。お姉様の通っている学校は、平民学校ですもの。そんなことしか学べなくても、仕方ないわよね。……ふふ、それにしても……」


 マチルダがカトラリーを置き、我慢できないというように両手で口元を覆う。


「まるですっかり平民になっちゃったみたいね、お姉様。なんだかあたし、恥ずかしいわ」


(……っ!)


 妹のその言葉と笑い声は、私の胸を深く抉った。


「……どうして、そんな風に馬鹿にされないといけないの? マチルダ。薬草はこのローゼン男爵領の特産品なのよ。領主一家にとって、薬草の扱いを学ぶのは重要なことだわ。今栽培している薬草をもっと上質なものに、そして作っている薬をもっと効能の高いものにすることができれば、今よりも品物の評判がよくなるはずよ。質がよければ単価を上げることができるし、収穫量が多くなくても、もっと利益を上げることができるわ。だから私は……」

「リエラ、マチルダに絡むのはよせ。何をそんなにむきになっているんだ。見苦しい」


 すると、父が不機嫌な声で私の言葉を遮った。思わず父の顔を見ると、その近くに座っている母が深くため息をつく。


「そうですよ、リエラ。久しぶりに対面した実の妹なのよ? もっと優しくしてあげようという気持ちになれないの? 本当に……見目が地味なだけでなく、性格まで陰気ね、あなたって子は」

「な……、わ、私は、ただ……」


 反論しようとした私の言葉を、今度はマチルダが塞ぐ。


「本当、お姉様って怖ぁい。たかが薬草ごときの話で、何をそんなに突っかかってくるの? ここ、何もない田舎だから暇なのよね? 草いじりぐらいしかやることが見つからないなんて、可哀想。それにひきかえ、王都って最高なのよ。どこもかしこも華やかだし、素敵なものがたくさんあるし。王立学園の生徒たちも皆お上品で洗練されていて、すごくいい刺激になるの」

「ふふ、マチルダったら。たしかに華やかな王都はあなたにはぴったりだけれど、楽しむばかりではなくて、先を見据えた人脈もきちんと作っていてちょうだいよ」


 はしゃぐマチルダの言葉に、私を見て眉を吊り上げていた母も表情を和らげる。


「分かってるわよ、お母様。安心して。あたしのことを好きな令息ってたくさんいるのよ。でももう婚約者のいる方ばかりで、そこが難しいのよねぇ」

「妙な問題は起こすんじゃないぞ、マチルダ。婚約者のいる令息には近付くな。面倒なことになっても、尻拭いをするような金はうちにはない」


 父のその言葉に、マチルダが得意げに口角を上げる。


「分かってるってば。うちは学費だけで精一杯ですものね。……はぁ、在学中に絶対素敵な人を見つけたいんだけどなぁ」

「あなたの美貌があれば大丈夫よ。社交界でも群を抜いているもの。……今度、知り合いの子爵夫人がタウンハウスで茶会をすると言っていたわ。また招いていただいて、いいご縁に繋がりそうな方々を紹介してもらわなくては」


 母のその言葉に、マチルダが目を輝かせる。


「お茶会!? ねぇお母様、あたしも連れていってね! めいっぱい着飾ったあたしの姿を見せれば、きっと心が動くご夫人が何人もいるはずよ!」

「ええ。ドレスを新調する必要があるわね。王都の流行って、すぐに変わるもの。着回しなんかしたら見抜かれて蔑まれてしまうから、本当に気が抜けないのよね」


 いつの間にか、話題は完全にマチルダの方に移っていた。

 兄のアントンは、まるで自分がここに存在していないかのようにずっと口を閉ざしたまま、物音一つ立てず黙々と食事を続けていた。手と口が動いていなければ、置物のようだ。


(……この分だと二人分の学費だけじゃなくて、交際費や被服費にも相当お金を使っているわね。こんな調子で、大丈夫なのかしら。……ううん。大丈夫なはずがない。きっとかなりの借金をしているはずだわ。この人たちは楽観的すぎて、あてにできない。私がしっかりしなくちゃ……)


 彼らの会話を黙って聞きながら、私は内心そう思った。


 私の研究が屋敷の庭にある薬草だけで足りなくなるまでに、そう時間はかからなかった。学べば学ぶほど、試したいことは増えていく。私はオットーに頼み、領内で採れる全ての種類の薬草を集めてもらった。

 それらに丁寧な下処理や加工を繰り返していくうちに、私は気付いた。これまでの我が領地の薬草の扱いは、あまりにも雑だったのだと。それぞれを適切な時期に採取し、じっくりと乾燥させ、精密に環境を整えて保存、加工を施す。それだけで、仕上がった薬の効能に、驚くほど差が出るのだ。

 領地全体の薬草の栽培や加工方法を、少しずつでも変えていきたい。その思いは、私の中でどんどん強くなっていった。

 


 

 

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