7話 宮部家
巨大な塀に囲まれた日本家屋の前に、白瀬は立っていた。親族の家だというのに、入りたくなかった。駐車場にはトラクターが止まっている。立派な庭園を眺め、自分の家と比べてしまう。
まさか、泰正が死んでいたとは。しかも、自分と同じ状況で。本当は色々と聞きたい。だが、一人息子を失った親の悲しみは想像以上だろう。浩二に言われるまでもなく、訊くことは出来ないだろう。
意を決し、白瀬は、チャイムを鳴らす。
はーい、と家の奥から声が聞こえる。どんどん、と床が軋む音がした。白く靄のかかったような摺りガラスの奥、人影が見えた。ガラガラ、と音をたて扉が開く。嗅ぎなれない柔軟剤の臭いに、白瀬は息を詰まらせる。
出てきたのは、気品のある50代くらいの女性。
「あ……あら、いらっしゃい」
「尚子さん……お久しぶりです」
尚子は、目元に皺が多くなっていたが、その美貌は変わらなかった。昔から、白瀬には優しくなかったが、怖くもなかった。
「お、お父さんは残念だったわね」
そう言いながら、尚子は、扉を閉める。
白瀬は一瞬、固まる。肉親というものは、不思議なものだ。父の顔も見たくなかったはずなのに、声も聞きたくなかったはずなのに。尚子の言葉に、まず覚えたのは怒り。
お父さんは残念? 何を言うのだ。間接的には、あなた方が殺したんじゃないか。その残念な法事に、参加できなかった要因の一部に、あなた方も含まれているじゃないか。
白瀬は気持ちを飲み込み、
「あの時はありがとうございました。これ、つまらない物ですが」 そう言って、東京の名物を渡す。
顔を隠すように頭を下げる。
「受け取れないわ」
かさかさ、と高級な紙袋が虚空で揺れていた。
「いえ、宮部さんには……お世話になりましたから」
「そうですか……」
尚子が受け取り、白瀬は息を吐き出す。
「お父さん、今、手が離せなくてね、来たことは伝えておきますね」 尚子が伏し目がちに言った。
「分かりました」
白瀬は何度も礼をし、宮部家を出た。敷地外に出ると、大きく深呼吸した。
人んちの臭いのする家だな、あそこは。白瀬は掌の汗を服でぬぐい、家に戻る。
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