6話 叔父
白瀬は、地元にある親戚の家に来ていた。父の兄の一人である、叔父、浩二の家だ。
屋敷のなか、広い応接間に、白瀬は居た。
目の前の男は、椅子に座り、大きく背もたれにもたれかかる。齢60を過ぎると言われているが、浩二の表情に老いは見えない。
浩二は、大学教授として名をはせた男だ。今は地元に戻り、研究に専念していると聞くが、企業の相談役などもやっている。
「短い期間ですが、お世話になります」
白瀬はこれから、●●●祭が始まるまでの数週間、ここで滞在することになる。
「良いんだよ、俺の一人で退屈だしな……そう言えば、宮部家には挨拶に行ったか?」
浩二に聞かれ、白瀬は頷く。
「これから手土産を持って、挨拶しに行きます」
宮部家は、白瀬家の親戚である。かつては白瀬家が執り行っていた●●●祭を今は執り行っている。
血がつながっているというのに、父は宮部家を嫌っていた。子供の時、法事で訪れた時のピリピリとした感じは今も忘れられない。遺産、神事の執り行い、土地、様々な思惑があったことは大人になってからでないと分からなかった。だが、その居心地の悪さは今も覚えている。
「あそこに筋を通さないと、村人とも会話できん」浩二が視線を落とす。
白瀬も感じていた。村に入り、まず感じたのは、異界に来てしまったという感覚だった。村人は、誰か来た、と分かり、視線を向け、白瀬だと気づくと、視線を落とす。
幻覚の事や、いもち病について話した。
すると、浩二は顔色を変え、
「コメ被害の事はともかく……幻覚の事は話すな」
「どうしてですか?」
「知らんのか……」浩二は頭を掻き、
「4年前、宮部の一人息子の泰正が自殺しただろう。その時、幻覚症状を見ていたと聞いている」
白瀬は、息を飲む。親戚の顔がぼんやりと浮かぶ、亡くなったとは聞いていたが、自殺だとは知らなかった。しかも、自殺だったとは。
「クソ……なんで、また」
浩二が頭を抱えてしまい、白瀬もうつむく。自分も自殺するのだろうか。背筋に冷たい物が這うような感覚がする。
「何度か相談を受けたが、防げなかった。二度はさせない」
「信じられないと思いますが、幻覚を直す鍵が、●●●祭にあると思うのです」
浩二は額をさすり、大きくため息をつく。
「どうすれば良いんだ……俺は」
おそらく苦言を呈したであろう言葉だが、疑問形であるとわざと解釈し、
白瀬は息を吸い込み、
「人身御供の祭りに参加許可を頂きたい」
「あれは地元の限られた者しか参加できないのは知っているだろう……それにお前は」
「お願いします……それさえ参加できれば、何かがつかめると思うんです」
深々と、頭を下げる白瀬に、浩二はため息をつく。
「頭をあげてくれ……わかったわ、わかった。そこまで言うなら……交渉してみよう。お前は何もしなくて良いからな……だが、もし禁足事項を伝えられた場合は、必ず守るんだぞ」
「だが、ここでの調査が失敗したら、病院に連れていく。それが約束できなければ、調査は許さない」
「分かりました」
「それと、幻覚の事は宮部家含め、誰にも言わない事、これを必ず守るんだ」
「分かりました」
白瀬の顔を見つめ、浩二は大きくため息をつく。
「若い者が死ぬのは耐えられない」
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