表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/17

5話 悪夢

 夢を見ていた。幼少期の時の夢だ。


 昔は、ゲームもなく、裏山で友人と走り、転がりまわるだけで楽しかったものだ。だが、ある日を境にそこに勝手に入ってはいけないと言われるようになった。


 朝から通い、昼には祖母の作った漬物をかじり、また夜遅くまで転げまわった裏山。そこで遊ぶなと言われて、すぐに子供が適応できるわけがない。白瀬は、約束を破り、学校帰り、午後3時過ぎに裏山に遊びに行った。


 焦りか、はたまた久しぶりで勘が鈍っていたのか、道に迷ってしまう。気が付くと、見たこともない場所にいた。妙に湿しめりり、暗い場所だった。


 樹が林冠(樹々の枝葉が相接している状態)を形成しているせいで、非常に見通しが悪い。こんな場所は初めてだった。林冠じゅかんのせいで地面にはほとんど光が届かず、見通しが非常に悪い。まるで影がもやのように、辺りをおおい尽くしているようだ。


 はぁはぁ、と息を切らしながら、白瀬は進む。泥の臭いがむせ返るほどに強く、ねばついた熱気が肌をおおう。汗を拭い、涙が零れそうになるのを堪え、歩く。


 薄暗いせいで、どこも同じ風景に見える。歩いても、歩いても森から出られない。叫べども、声は山に吸い込まれていく。喉は乾き、脚が痺れてくる。


 ふと、湿った石に足を取られ、転んでしまう。傷口から溢れる真赤な血と、泥で汚れた、親から買ってもらった速く走れるシューズ。


 ふと、ぼんやりと光るものが見える。群生するキノコのようにも見えたが、近づくと、違うと分かる。それは、白い魚のような、奇妙な物体だ。うろこのようなものが生え、その身体は細く、奇怪な形をしていた。


 これはなんだろう、と思った瞬間、鳥の鳴くような声が遠くで聞こえる。きぃー、とか、ぴぃーと言うような、甲高い声だ。


 森に響く異様な声に、白瀬は息を殺す。


 ぐちゃ、ぐちゃ、とその鳥(?)の足音が近づいてくる。かき分けられ、草が揺れる。


 ひひっ、と鳥(?)が声をあげる。そこで白瀬は気づく。相手は鳥ではない。猿か、もしくは―


 密集した下生えの向こうで、ああー、と甲高い声で「それ」は鳴く。


 白瀬はうずくまり、恐怖に震えながら、それが立ち去るのを待つ。両手の乾いた感触が、唇を押える。掌には、自分の湿った息が当たる。心臓が跳ね、息苦しい。


 足音は、すぐそばまで来ていた。低木と下生えが、塀のようになっているので姿は見えない。だが、むせるほどに獣臭がし、嗚咽しそうになる。


 がさ、と「それ」が反応する。そして、足元、ズックのすぐそばに、余りにも汚れた親指が見える。死人のような足。爪はボロボロだった。


 思わず、顔を上げてしまう。


 まず見えたのは、泥にまみれた体躯。あまりにも華奢で、青白い身体に、泥がこびりつき、濡れて光っている。真っ黒な髪は、引きずってしまうほどに伸び、つたや布が絡まっている。その奥から辛うじて見える顔は、眼、鼻、口が分からないほどに、泥で汚れていた。


 人間は、本当に恐怖した時、吐息のような物しか出ない。


 「それ」は顔を上げる。そして、泥まみれの真っ黒な顔の一部が、ぱっくりと割れ、巨大な一つの白い目が現れる。


 恐怖のあまり叫んだ瞬間、白い眼は、さらに大きく開き、赤い内部を露にする―そして、勘違いに気づく。その白い物体は、眼ではなく、口であったことを。白い歯が、光り―


 白瀬は、ハッとし、夢から覚める。


 掌は、ぐっしょりと汗で濡れていた。

 読んで頂きありがとうございます。感想、評価、レビュー、ブックマーク、お待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ