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七話

 リリーシアには喧騒が遠く聞こえていた。あれだけの騒ぎを起こしたのだから退学は間違いないだろうし、この事態が王宮に知れ渡れば死刑になる可能性も大いに考えられた。


(どうしましょう…。このままぼうっとしていたら捕られるのも目に見えているし…。)



周りを見渡せば、パニックに陥った生徒たちが一目散に逃げまどっている。

何とも面白い…と彼女は思った。普段学んでいる魔法を実際に使用する格好の機会であるというのに、怪我人そっちのけで逃げることしか考えられない生徒たちの姿が、リリーシアの目にはとても滑稽に映ったのだ。


校舎を修復して回り、怪我人を治療している教師陣を眺めていると、屈強な衛兵らしき人物たちがリリーシアの周りを取り囲むようにして近づてきていることに気が付いた。



「リリーシア・アウグスト! 君には国家反逆及び転覆の容疑がかかっている。我々にはそれが事実か確かめる術はないが、取り調べによって事実は自ずと明るみに出るはずだ。大人しく拘束され、取り調べを受けてくれ。」



恐怖の色をはらんだ眼を此方に向け、諭すような口振りではあるが完全武装の格好から、武力行使も辞さないという覚悟の元、拘束しようとしているのだということが伺える。

リリーシアの中で、ここはとりあえず捕まっておいて裁判のときに全て話し、その時に死刑を回避できるよう努力しようという結論に至った。



「私は逃げも隠れもしません。どうぞその拘束具で私を捕えてください。」



リリーシアはそう言って両の手を男の前に突き出した。





 あれから7日経ったのだが、未だに何の連絡もなく、リリーシアはその間王宮の近くに存在する監獄の地下牢に収容されていた。


空間魔法が使える彼女にとって不衛生で暗く、狭い地下牢で何日収容されていようが別段問題はなかった。

しかし、余りにも量の少ない食事しか提供されないため、彼女は遠慮なく異空間に保存していた食材を取り出し、獄中とは思えないほど豪勢な料理を優雅に味わうことにしたのだ。


(それにしても…遅すぎるわね。)


 まだ罪人と断定される前の段階で、ここまで長い間こんな劣悪な環境で収容されるのは、リリーシアにとって納得がいかなかった。

1日や2日経てば裁判が始まるだろうと腹をくくっていたのだが、1週間たった今でも裁判の準備を許されるようなことはなかったし、家族や知人との面会を望んでも全て拒否されてしまう。


何かおかしい…と彼女は淹れたての紅茶をすすりながら思った。何もせず、ただ好きな本を読み漁るという自堕落な生活というものそれなりに楽しめたのだが、さすがに1週間も経ってしまうと日の光が恋しくなるのも当然だろう。


<転移><透明化><隠密>


牢の外に容易く出たリリーシアは、牢の中に残る自分の姿をした幻影をちらりと見やり、上階に上がるための螺旋階段へゆっくりと歩き出した。







「陛下、あの女は私を確かに殺そうとしました。また、故意で校舎を破壊したテロリストでもあります。あのような危険因子は裁判などという猶予を与える間もなく処刑するべきです。」



強い口調で国王に訴えかけているのは、言うまでもなくアラン第一王子である。

それもそうだろう。何しろリリーシアの鬼神の如き姿を目の当たりにし、腕をもがれかけてしまったのだ。あの時の恐怖がそう簡単に消えることは無かった。



「しかしだな…正規の手順で罪を裁かなければここぞとばかりに半王党派が騒ぎ始め、この醜聞を利用して民衆を味方につけてしまう恐れがある。そうなれば私やお前の地位すら怪しくなるのは間違いないだろうし、革命の危険性が一気に跳ね上がる。」



白髪に杖をついているといういかにも初老といった見た目から想像もつかないような威厳に満ちた声でそう答えたのは国王だった。

しかし、それにすかさず反論したのはアランの母親である王妃。



「陛下。私に考えがあります。」



そう言って話し始めたのはその場にいる誰もが耳を疑う内容だった。

それは同じ部屋で堂々と計画を盗み聞きしていたリリーシアも例外ではなかったようで、呆れと怒りと、微量の悲しさが入り混じったような複雑な表情を浮かべた彼女は、重い足取りで部屋を後にした。





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