第一章 異世界へようこそ
先日トンテキ食べて、トンテキをネタにしたいと思い、書いてみました!
暗い空間の中、水晶の中には眠る少女とそれを見守る少女の姿。
「…ハルはとりあえず旅立ちましたよ…」
「本当に彼で大丈夫でしょうか…?」
水晶の中で眠りにつくクレアに問いかけるも、答えはない。
そんなことはわかっている。
しかし問いかけずにはいられない。
不安や悲しみ、それらが混じった複雑な表情…
「ハル…早く来て起こしてあげて…」
少女は水晶の前でただただ祈るのであった。
ハルは元々料理人のため、普段から立ち仕事であり、朝早くから市場に向かい、仕入れを行い、仕込み、夜遅くまで仕事をしている。
有り体に言えば、体力は化物クラスである。
しかし、1Km先の町へ向かうのには、かなり苦労しているようだ。
「手荷物はほとんどなくて助かるが、山道のアップダウンは、久々だと来るなぁ…」
直線距離だけで判断し、立体図を確認しなかった自分を呪いながら、川沿いを歩く。
念の為、クラスチェンジステッキで、冒険者の姿になっている。
あの恥ずかしい大声は、部屋を再度出し、その中でやっている。
流石に誰もおらんやろけど、ハズいもんはハズい…
余談ではあるが、ステッキの宝石を触り、なりたいクラスをイメージしただけで、使用可能ということも、この時確認した。
説明書きを床に叩き付けたのはお約束。
川沿いを歩くと、何やら先で騒がしい声と音がする。
クラスチェンジしたときに、一緒に出てきた剣を装備し、森の木々に隠れながら、慎重に先を進む…
「た、たたった助けてーーーーーーーーーっ!」
女性の叫び声のようだ。
ハルは先の状況はわからないが歩を早めた。
二周りくらいサイズを大きくした猪?が3体。
少女を囲うように、ジリジリと沢へと追い詰めていく。
で、でかいな…普通の猪でも相当怖いのに、あんなサイズの、俺が何とか出来るんか…?
見なかったことにし、見殺しにすることもできるが、ハルは性格上見捨てることができない。
…行くしかあらへんか…
覚悟を決め、剣を真っ直ぐ構え、猪の背後から突進する。
素人が振っても空振りするだけ。
なら突き刺す方が、真っ直ぐな分当てやすい。
何より体重を乗せれば、素人でも威力は出るだろう。
そんな思いで突撃した。
…周りの動きがゆっくりに見える。
走馬灯か?とも思ったが、どうも違うようである。
体感速度がゆっくりに感じるが、自身の速度は普段の感覚で動けている。
よくわからないが、これならやれる!
一匹目は真後ろから突き刺すと、デカ猪が真っ二つに。
血が飛び出るが、返り血を気にするほどの余裕はない。
振り返ると、一匹は逃亡。一匹はこちらへ向かっているようだ。
「喰らえ!」
と、ゆっくりとした体感の中、デカ猪の首を薙ぎ払う。
デカ猪は絶命した。
そう感じた瞬間、ハルの意識は途切れたのであった。
頭の中で自分を呼ぶ声がする。
声の主はクレアのようだ。
「挨拶もせずに消えてしまい、ごめんなさいね」
「手紙に書く時間がなかったから、書ききれなかった分を説明するわ」
「魔法でこの世界の読み書き以外にも、魔法を一部授けたわ」
「戦闘時に体感速度を下がったのもその力」
「ただし、まだハルの少ない魔力だと、魔力切れして、強制的に睡眠状態になってしまうの」
「戦闘時のみ発動する、身体強化魔法も別でかけたので、その辺の魔物には、簡単に負けないはずよ」
「今回も時間がないから、一方的でごめんね」
「…待ってるから…」
最後は少し悲しい顔をしたクレア。
こちらの声は向こうには届かないようである。
待ってくれ…聞きたいことが山ほどあんねん…
その思いも空しく、ハルの意識は覚醒する。
「あ!目覚めました?」
先程の女性…というか、少女である。
「危ないところを助けて頂き、ありがとうございます!」
「無事ならよかった」
「私は無事ですが、お兄さんが突然倒れてしまい、ビックリしましたよ」
「それはすんません」
「いえいえ!あ、申し遅れました!私はユナ。ユナ・スカルテッドといいます。ユナと呼んで下さい!」
「ユナさんやね。こっちは富上ハルといいます。よろしゅう」
「トガミハル?珍しいお名前ですね?」
「そうですかー?まぁ呼びやすいよう、ハルと呼んでー」
自己紹介を交わし色々話す。
ユナは16歳らしい。
目指してた町の住人で、案内してくれることになった。
「真っ直ぐ行くと、かなり厳しい道程なんですよね」
やっぱりか…
さて、ユナの案内で10分くらい進むと、町が見えてきた。
「ここは小さいですが、果物や野鳥、山菜など、山の幸に恵まれた町です!ようこそウッドストックの町へ!」
町へ入ると、露店で色んな物が並んでいる。
果物を売るおばちゃんの元気な声。
野菜や果物を売る、ハリセンを持ったおっちゃんの声。
肉に川魚、調味料にスパイス。はたまた武器に防具。魔法書専門店に、魔法のアイテムショップなど、なかなかの賑わいを見せている。
「5日に一度、こういった露店が並ぶんですよ!ちょうど良い時に、ハルさんは来ましたね!」
「そうなんや?何かオススメの食べ物とかあらへん?」
と言いながら、根が料理人なだけに、露店はマルシェのような雰囲気で、テンションが上がり始めている。
「そこの果物も野菜も、美味しいですよ!」
「そうなんや!まぁ後でしっかり、ここは回るとして、お昼時やし、どっか食べるお店案内してもらえへん?」
「え!?食べ物はみんな、魔法で出してますよ?」
「?どうこと?」
「知らないんですか?うーん…見てもらった方が早いですね!先程ハルさんが仕留めたボア肉、少し頂きますね?」
と言うと、ユナの手から光が出る。
手の中には、ステーキらしき物になっている。
「はいどうぞ!こんな感じです!」
出来たステーキを渡され、齧ってみる。
…………味が…しない…?というか、口に入れたら、すぐなくなってしまい、食べた実感もない。
「みんなこうして、魔法で加工して食べてますよ」
「食べた気しないというか、何だこれ?普通に料理しないの?」
「食べるのって、マナの回復とお腹を膨らますためのものですよね?そもそも料理ってなんですか?」
「え!?」
何で料理がないねん?てか朝食食べたときは、普通に料理やったし、味あったよな?
「食材を切って炒めたりして、味付けしたりは…?」
「???」
本当に料理を知らないらしい。
「ちょっと待ってな?あーと…どこか少し広い場所とかないかな?」
と、ハルはユナ家に行き、その庭にバングルから部屋を出した。
「ちょっと待ってな?ちゃちゃっと作るさかい!」
と、ハルは部屋に備え付いてる竈に火を付ける。
(余談ですが、部屋は魔法で作られてるので、竈についてるスイッチを捻ると、勝手に火が出ます。業務用のガスコンロみたいなものである。)
ボア肉に筋切りをし、元々部屋にあった塩と胡椒で下味。
肉から切り出した脂身をフライパンに乗せて焼くと、ラードが取れる。
その脂でボア肉を焼き、市場で買った葉物野菜とハーブをちぎる。
焼いたボア肉を休ませている間に、フライパン白ワインビネガーを加え、調味料で味を整える。
それを葉物野菜とハーブにかけて、ドレッシングの変わりに。
ボア肉は再度強火で表面を焼く。
ボア肉のステーキと、即席ハーブサラダのプレート!
「よし!でけたでけた!ユナさんよ!これが料理やで!」
と、何とも香ばしい匂いに、ユナは驚いていた!
恐る恐る一口…
…
……
………
「何これ!おいしいしーっ!」
すごい勢いで食べていくユナにビックリしつつ、自分でもぱくり。
我ながらえぇ出来や!でも、キノコ系とかりんご系のソースとかのが、この肉には相性よかったかな?
そう思いながらもお互いに完食。
「御馳走様でした!」
「お粗末さんでしたー」
「こんなの初めて食べました!味があるのって、果物とか野菜、そのまま食べたり、調味料かけたりが普通なのに、これは一体?」
「これが料理ってもんやね。てかほんまに料理がないというか…知らんの?」
「…もしかしたら、新樹の近くの王都ならあるかもですが、少なくとも私もこの町の人も、みんな知らないです」
料理がない世界ってことなんか…?
満腹の満足感と、不安感に苛まれるハルであった。
次回は料理という概念がない理由など、調べることが色々ありそうですね。