明日も生きるため
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俺がポーカーフェイスのままガクブルしていると、助祭が豪奢な法衣を着た男を連れてくる。
男はニコニコと柔和な笑みを浮かべているが、目の奥が笑っていない。
衣装に見合わない、どこにでもいそうな中年男性。
この人物が、この教会の司祭か……。
俺は司祭を迎えるにあたり、両膝をついて腕を組み頭を下げる。
裏ギルドの構成員として、人にへりくだる姿は見せたくはないが……相手が悪い。
ときには、一国の王すら頭を下げる教会勢力である。
俺が頭を下げたからと言って、誰が馬鹿にできようか。
「傷に障ります。楽な姿勢に」
司祭は優しい声で言った。
俺は数秒タメてから、ゆっくり立ち上がる。
「こちらへ」
そう告げると、司祭は歩き出す。
司祭の後をついていくと、個室に案内された。
ロック・クリフだと、その場で適当に魔法をかけられたが……。
大金を払っただけあって、VIP待遇らしい。
部屋に入って気づいた。
入る前に確認した隣の部屋との扉の間隔。
そこから割り出した部屋のスペースが、明らかに狭い。
俺は壁に意識を集中すると、壁の中から人の気配。
ドクンと、心臓が跳ねる。
両方の壁に合計四名。俺が察知できないだけで、天井や床下にも隠れているかもしれない。
司祭が俺をハメる気なら、ここは殺しの間と化す。
俺が隠れた兵に気づいていることが察知されると、ただの護衛であっても面倒なことになるかもしれない。
俺は動揺を隠しつつ、部屋へと入る。
日本人はもともと表情が読みづらいと言われている。
俺は今日、そのことに初めて感謝した。
「神に癒やしを願いましょう」
司祭が言った。
若者くんが、服を脱いだ俺の包帯を外していく。
「うっ」
傷口を見た助祭が、口元を押さえた。
そんなリアクションを取られるほど、俺の背中の傷ってヤバいの?
背中だから、自分で傷口を見られないんだよな。
俺は深く息を吸い、心拍数を落ち着ける。
ただでさえ激痛に耐えなきゃいけないのに、周囲を僧兵に囲まれている状態だ。
まったく、素敵なシチュエーションすぎて涙が出ますよ。
俺は気合ゲージと根性ゲージを満タンにして、痛みに備える。
「偉大なる神よ、傷ついた者に癒しを与えたまえ。ヒール」
ロック・クリフの豚司祭と同じ詠唱だった。
ミチミチと背中の肉が盛り上がる。
激痛が俺を襲う。
俺は腕を組み、つかんだ手が二の腕に食い込む。
んぎぎぎぎぎぎ。
痛え、痛すぎる。
でも、なんか耐えられる。
思ったより、痛くない?
いや、痛いは痛いのよ。
伸びた神経同士が接合するときなんぞ、アイスピックで神経をえぐられるような鋭い痛みが走る。
こんな切れ味抜群の痛みはなかなか味わえない。
筋肉の盛り上がっていく不快感といい、転生前の俺なら小便チビリながらのたうち回っている自信がある。
死ぬほど痛いが、思ったよりもマシな痛みは長く続かない。
魔法による治療が終わると、さっきの痛みが嘘のように消える。
「祈りが通じたようですね」
司祭が治療の終わりを告げる。
俺は礼を告げ、服を着る。
助祭が扉を開けたので、一礼して退出。
教会の外まで歩くと、助祭から声をかけられた。
「よろしければ、教会の定期礼拝にお越しください」
どうやら、金を渡しすぎたようだ。
いい金づるだとでも、思われたに違いない。
正直、教会と関わるのはおっかない。
でも、完全にロックオンされている。
気乗りはしないが、避けていた教会勢力とうまく繋がるいい機会かもしれない。
それに、宗教ってのは価値基準の根本だ。
現地の人たちが信仰している宗教を知ることは、その人たちの価値観を知ることと同じ。
市井の人々とはあまり関わらない職業についているが、ここらで異世界の一般人の価値観というものを知るのも悪くない。
「ええ、ぜひお願いいたします」
俺は笑顔でそう答えた。
俺は薬師ギルドの若者に、改めて礼を告げる。
「いえ、こちらこそ過分に頂戴いたしまして」
そういってお互い礼を言い合う。
クソ野郎だらけの小国家群で、彼は間違いなくいいヤツだ。
立派な薬師になってほしい。
「それでは、ここで」
俺がそう言うと、彼は不思議そうに尋ねた。
「宿はまだ先ですよ?」
彼の質問に俺は答える。
「いや、今から森に行かなくちゃいけないから。装備を整えるために、ちょっと寄るところがあってね」
俺の言葉を聞いた彼は絶句している。
「あの……森で死にかけたんですよね?」
「そうだね」
「そうだねって……」
「いや、荷物置いてきちゃったから」
俺がそう答えると、彼はドン引きしていた。
俺だって行きたくはない。
回復魔法で体は治っても、メンタルはボロボロである。
今すぐ、ベッドにダイブしたい。
でも、どうしても武器を回収しなくちゃいけない。
黒鋼のナイフを買い直す余裕はないのだ。
黒鋼の武器がなければ、高ランクのモンスターは倒せない。
対人戦にも影響が出る。
黒鋼のナイフは、パピーと俺の命の次に重要といってもいい存在だ。
体が治った今、回収に行かないという選択肢は存在しない。
我ながら、働き者である。
ブラック労働なんてレベルじゃない。
それでも、生きるために俺は森へ向かう。
明日も生きるため、再び死地へと向かうのだ。
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