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敗走。の後、手に入れるもの②

久しぶりの更新です。

難産でした……。


「さて、これからどうしようか」

私の言葉に、月乃ちゃんが暗い顔で黙り込む。

本当なら、私以上に陽哉君を追いかけて行きたかったはずだ。

だけど、彼女は皆んなを見捨てることができなかった。


「せやな……。ちっこいのなら聖剣無しでも嬢ちゃん一人で塞げるやろうけど、デッカいのは、媒介無しには難しいやろうなぁ」

トトが、ゆっくりとそう言うと首をかしげた。

やっぱり、そっか。

一人の力じゃ無理があるよねぇ。


「もっかい、作るしかないやろなぁ」

だけど、ため息をつきそうになって、落とされた爆弾に息を飲み、むせた。

ゲホゲホ咳き込む私にトトが「何しとるん?」と呆れた視線を向けてくる、けど、そんなのは今、問題じゃなくて。


「「聖剣って作れるの?」」

あ、月乃ちゃんとハモった。

2人同時に詰め寄られ、トトが一歩後ろに下がりながら頷いた。

「おん。条件さえ揃えば、出来るで?だいたいあの聖剣だってあいつらが作ったもんやしな」


「作れるなら、わざわざ取りに行かなくても良かったんじゃない」

聖剣を手に入れるまでの苦労を思い出して思わずぼやけば、トトに残念な子を見る目で見られた。なんで?


「条件が揃えばっちゅうたやろ、ボケ。わしがおらんとできへんのや。そもそも、作り方残しとらんやろうしな」

「トトは知ってるの?」

「おん。そもそも教えたのわしやし。ただ、あれ疲れるさかい、そない積極的にやりたいものでも無いんよ」


首をフリフリため息をつくトトに、なんと言えば良いのかよく分からない。

「……トトって何者なの?」

月乃ちゃんが思わずというようにポツリと呟けば、ニッと笑われた。

「言わんかった?守護獣やん」

相変わらずの人を食ったような笑顔に唇を噛む。


「聞き方変えるわ。もともとは、何なの?」

「あ、今頃それ聞くんや?おっそいわぁ、自分ら」

ケラケラと笑うトトにイラっとするけど、今は我慢。

そういえば、前にサーフィス君があんなの魔物にも魔獣にも見た事も聞いた事もありません、って言ってたけど、本当だったんだ。


「まぁ、なんでもええやん。あんたらの味方なのは確かなんやし。ま、最初は暇つぶしだったんやけどな」

「そんな適当な誤魔化しが通用すると思ってるのかしら、この羽根つきワンコは」

適当な誤魔化しにイライラが臨界点を突破して、思わずトトの羽をむんずっと掴んで持ち上げる。


「いたい!痛いって!!そんな振り回したらあかん!もげてまうやろ〜!!」

悲鳴をあげて抗議されるが知った事か。

「分かった。今はトトの正体なんてどうでもいいわ。サクサク聖剣のつくり方を教えなさい」

苛立ちのまま、ポイッと月乃ちゃん目掛けトトを投げる。

反射で受け取った月乃ちゃんに「あの女ありえへん」と泣きついているのをギロリと睨み付けると、ようやく口を割った。




「必要なのは地水風火の4大魔力、それから光と闇。それらの魔力を聖別化した土地で浄化した剣にキッチリ同じ量混ぜ合わせたら聖剣の出来上がり、や」


「………そんな簡単なの?」

もっと、ドラゴンの鱗とか火の鳥の羽、みたいな無理難題を言われるのかと思ってた。

拍子抜けして、月乃ちゃんと顔を見合わせる。どうも、月乃ちゃん同じような事考えてたみたい。


「簡単って、その6属性を揃えるのが大変なんやで、普通。たまたま月乃が持っとったさかいええけど、闇属性なんて超希少なんやで?」

「あたし?」

トトの言葉に月乃ちゃんがびっくりした顔で自分を指差す。


「せや。前の時も、闇属性探すのに大分手こずったんやで?今よりも魔力が満ち溢れてた時代だったのに、や」

なぜかドヤ顔のトトの言葉につまり、と月乃ちゃんを見る。

「やっぱり、月乃ちゃんがここにいる事も闇属性だった事も、意味がある事だったって事?なんだか、計られてるみたいで気持ち悪い気もするけど」


「まぁ、最悪の場合の保険っちゅうやつやったんやろな〜?」

「誰の采配なのかしらねぇ」

未だ月乃ちゃんの腕の中で寛いでいるトトを見るも、視線を逸らされた。

マジであのワンコとはそのうちジックリお話する必要がありそうだ。


「後は、聖別された土地と剣、だっけ。聖別ってなに?」

首をかしげる月乃ちゃんに私も首を振る。

「剣の浄化は私の魔法で出来るとして、聖別された土地なんて、魔法じゃなくて時間の領域じゃない」


「とりあえず、手近な所で聖剣が封印されてた部屋、やな。昔もあそこで作ったし」

トトの言葉に月乃ちゃんと2人で固まる。


「またあそこに行くの?振り出しに戻る感、ハンパないんだけど」

月乃ちゃんがうんざりしたように叫ぶ。けど、全くの同感だ。

そんな私たちを見て、トトはケラケラと笑った。


「ま、こればっかりはしゃぁないわ。他に手近な土地もあらへんし、希の言う通り、早々作り出せんるもんでもあらへん。諦めり」


そこまで言った後、トトは更なる爆弾を投下する。

「まぁ、そこまで苦労して作っても、多分前の聖剣の劣化版やろうけど」

「はぁ?どういう事よ」

次々と問題発言ばかりするトトがだんだん悪魔に見えてきたとしても、私は悪く無いと思う。


「どういうも何も、込める魔力の質の差や。希と月乃はともかくとして、後のメンバーは確実に前の者より魔力の質も量も落ちてんのやで?そりゃ、同じもんは出来へんやろ」

「足り無い分を私と希ちゃんの魔力で補うのはダメなの?」

「いうたやろ?それぞれの属性をキッチリおなじ量、同時に込めなあかんねん。つまり、1番低い所で揃えるしかない」


アッサリと首を振られ、その場に沈黙が落ちる。

つまり、今の状況って。

「………詰んでるわね」

ポツリと静かな空間に私の言葉が虚しく響いた。


だって、私と陽哉君、2人の力を合わせて聖剣を使っても塞げなかった物を、私一人の力で前より性能の落ちたツールを使ってどうしろと。

経験不足を補ったとしても、無理があるでしょ。

再び落ちる沈黙の中、食事が出来たとテントの外から声をかけられた。


「………とりあえず、なんか食べよ?お腹空いてる時に考え事したって、何にも思いつか無いし、さ」

月乃ちゃんの言葉に頷いて腰をあげる。

テントを出用としたその時、どこか遠くで爆発音が響いた。




「何事?!」

慌てて、皆が集まっている所に駆け寄ると、緊張した面持ちで騎士達がおなじ方向を向いていた。

「分かりません。しかし、突如魔穴の方向に火柱が立ったのです」


指差された方向はさっき私達が走ってきた場所だった。

と、再び轟音が響き、同じ方向の空が明るくなった。

「魔法……なの?」

「おそらく。炎の攻撃魔法による物ではないかと」


「私達以外の、誰かが戦ってる?でも、誰が……?」

既に輝きを失った暗い空を睨みつけて考える。

この先にある魔穴はこの国最大の物であり、おいそれと人が近づくとは思えない。

そもそも、あの場所まで徒歩はともかく、馬で走れる道は私達の通ってきた道のみだ。

でも、すれ違う人なんて居なかった。


ドクンッと心臓が音を立てる。

それは、歓喜の予感だった。


「行かなきゃ!」

「希ちゃん?!」

衝動のままに走り出そうとした私を、月乃ちゃんが慌てて抱きとめる。

自分を捕まえる腕を煩わしく思いながら、ふと、思いつく。


「そっか。馬で行くんじゃなくて、道を開けば良いんだ。何のためのチート能力よ!」

だけど、私一人じゃ心許ない。

自分を捕まえていた腕を逆に捕まえ、上を見上げれば驚いた顔の月乃ちゃんと目が合った。


「たぶん、陽哉君が帰ってきてるんだよ。迎えに行こう!って言うか、ドアを開くから、陽哉君の事を考えて!」

「ドアって……」

「ど○で○ドアなイメージのやつ。空間をつなぐから、陽哉君の事をしっかり考えて」

日本人なら誰でも知っている青いたぬき猫の便利道具を叫べば、納得した様に頷かれた。

他の皆さんにはハテナマークが見えるけど、この際、説明してる時間も惜しい。

だって、この瞬間も彼は戦ってる筈。


『彼の者への道を開け。ゲート!』

目指すは陽哉君。

四角を指先で空に描きながら強く念じる。

あれ、今、一瞬何かが頭をよぎった……けど、いかん、集中!!





描かれた四角が光を放ち、空間が歪んだ。

迷いなくそこに月乃ちゃんもろとも飛び込めば、そこは戦場だった。

魔物や魔獣がうじゃうじゃいる中、数名の人が戦っていた。

皆、装備はボロボロで互いに肩で支え合いかろうじて立っている人達もいる。

あれ?陽哉君じゃないの?


そんな人達を背に庇い、魔物に対峙している広い背中。

それが目に入った瞬間、あまりにも見覚えがありすぎて私は息を飲んだ。


もう、何年も見ていない。

だけど、絶対に忘れることなんて出来ない、その背中。

何度も守られ、支えられてきた。

誰よりも愛して、ずっとそばにいると誓った嘘つき。


「なんで……?」

飲み込んだ息を吐き出す時に溢れた言葉は、戦いの喧騒に紛れて届くはずなんてないのに。

「よぅ、希。とりあえず、結界張って?」


笑顔で振り返ったその人は。

数年前、仕事先で船と共に海に沈んだ筈の私の旦那だった。



「なんでこんな所に居るのよ!ハルチカ!?」






読んでくださり、ありがとうございました。


やっと、ハルチカにたどり着きましたよ。長かった。

今後、私的には解答編に入ります。



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