敗走。の後、手に入れるもの③
よろしくお願いします。
泣けば良いのか、笑えば良いのか?
それとも、怒ってなじるべきなのか。
自分がどうしたいのかも分からない程混乱した頭でそれでも、身体は勝手に男の言葉に従って結界を張っていた。
光の膜が人々を覆い、魔物の攻撃から護る中、男はゆっくりとこちらへ近ずいてきた。
金に近い茶髪は綺麗なウェーブを描き、柔らかな微笑を浮かべた顔を彩っている。
細身のブラックジーンズに、ホストに見えるから止めてといつも言っていたジャケット姿。
何度も、なぜ止めなかったのかと後悔と共に思い出した最後の姿そのままの。
それは、失くしたはずの私の旦那だった。
「……なんで?」
かすれた小さな声は無視され、小さくなってしまった身体が伸ばされた腕に絡め取られ、抱き上げられる。
「なんか、懐かしい姿だなぁ」
愛おしげに細められた瞳に私が映っていた。
泣き出す1歩手前の情けない顔。
「ただいま、希。待たせてゴメン」
「なんで、こんな所にいるのよ。待たせすぎだわ、馬鹿ハルチカ」
かすれた声でどうにか文句を言って、ぎゅっと首筋に抱きついて溢れてきた涙を隠した。
肩口に次々と涙が吸い込まれていくけど、知るもんか。
7年前、彼が船の事故に巻き込まれ行方不明になったと聞かされて以来、ずっと我慢してたんだから。
せいぜいハンカチ代わりになってもらおう。
くすりと笑い声が落ちてきて、こんな子供じみた八つ当たりをしているなんてお見通しなんだろう、と思うと、少し悔しい。
でも、懐かしい。
いつも、いつも。
私の強がりを見透かして甘やかしてくれていた人。
「愛してるよ、希。これからはずっと一緒だ」
そっと旋毛に口づけを落とされる。
囁かれる声の甘さに酔いかけて、はた、と我に返った。
ココドコダッケ。
急いで涙を拭いて顔をあげれば、ポカンと口を開け、こっちを見ていた月乃ちゃんと目が合った。
「あの〜、希ちゃん?そちらの人は……」
月乃ちゃんが恐る恐る口を開く。
それに応えようとして、私は、口を噤んだ。
私、今子供の姿じゃん?
月乃ちゃんだけならともかく正体謎な人達がいる中で「行方不明になってた夫です」ってどうなの?
信じてもらえないなら未だしも、旦那、変態確定じゃない?
オブラート、オブラート……、あっ!
「私の家族なの!向こうの世界で行方不明になってた!」
勢い込んで言えば、ハルチカが吹き出した。
耳元で笑うな、うるさい!
「……って、あ〜、うん。………でも……」
なにやら歯切れの悪い月乃ちゃんに笑いを引っ込めたハルチカが、とりあえず、と言葉をつなぐ。
「移動しないか?魔物に睨まれながら和やかに会話する気分じゃないし、せっかく連れ戻した人達も治療してあげたいし」
促されて、改めて周りを見れば、ずいぶんボロボロで疲弊しきった人が1、2……6名。
「そういえば、この人達は?」
座り込んで荒い息を吐く人達に首を傾げるといい笑顔が返ってきた。
「魔穴にのまれた王様とその側近の皆様。だいぶ数減っちゃってたけど、どうにか探し出してきた」
「王様?!って、本当に何してたの、あなた?!」
「うん?いろいろ?」
思わず叫んだ私にケロリと返された。
「……希ちゃん、とりあえず、戻ろう?」
何かを諦めた顔で、ポンっと月乃ちゃんが私の肩を叩いた。
「私もいろいろ聞きたいし。
年取ってるし、だいぶ雰囲気違うけど、貴方、陽哉よね?
なんでそんな姿で、しかも未来でちゃっかりそのポディションに収まってるのか。しっかり説明してもらいましょうか?」
……月乃ちゃん、笑顔が怖いデス。
とりあえず、要望通り場所を移す事にして。
開いたゲートをくぐり元の野営地へと戻れば、心配していたサーフィス君たちに詰め寄られた。
だけど、何か言う前に続いてやって来た元王様達の姿に固まった後、周りに駆け寄り縋り付くようにして泣き出してしまった。
うわぁ、本当に王様だったんだ。
そして、すごい慕われてたんだなぁ。
涙を流し、無事を喜ぶ騎士達に元王様達は困った顔をしながらも答えている。
とりあえず、治癒魔法かけたいんだけど、水差すのも悪いし………どうしようかなぁ。
遠隔でも出来ないわけじゃないけど、魔力効率悪すぎなんだよね。
「……てか、ソロソロ降ろして。さすがにちょっと恥ずかしいし」
自分を抱く腕を叩けば不満そうな顔をされた。実は向こうで抱き上げられてから、ずっとその体勢のままなんだよね。
元王様帰還のショックのおかげで詰め寄られずに済んだけど。
「良いじゃん、久々の子供希。可愛いんだし、もう少し堪能させてよ」
「いや、普通にロリコンっぽいから。変態反対」
問題発言にベチベチと叩く手を強めれば、しぶしぶ降ろされた。
「なんか、遠慮してるの面倒になってきたんで、とりあえず治療してくるね。ハルチカの説明はその後ね!」
ピシッと指を突きつければ、いってらっしゃいと手を振られた。
それを確認して踵を返した目の端に、月乃ちゃんが話しかけてる姿がチラリと映った。
そういえば、さっきなんか言ってたなぁ。
ヤッパリそうだったんだ。
なんか、類似点が多いなぁとは思ってたんだよね。
その後、未だ纏わり付いている騎士達を排除しつつ、元王様とその側近達の傷を癒していく。全身大小様々の傷があり、魔力も枯渇しかけていた。
本当にギリギリの所を助ける事ができたんだなぁ。
元王様は現王様とそっくりだった。
彼が年をとったらこうなるんだろうなぁって感じの金髪碧眼の美丈夫。
優しそうな微笑みはさすがの貫禄だった。
……てか、この場合、王位ってどうなるんだろう?
アーウィン君、まだ若いし、返還してお父さんが王様に戻るのかな?
まぁ、死んじゃったと思ったからこそ王位を継いだんだろうし、普通はそうなるよね。
でも、戻ってきてくれ良かった。
アーウィン君に希望持たせるような事言っちゃったから、ちょっと責任感じてたんだよね。
魔穴攻略が無茶な日程になったのだって、正直そのせいだし、さ。
陽哉君、完全とばっちりだよね。ごめん。
王様(面倒なので元は省く)達の治療も終わり、少し魔力を使いすぎてクラクラしてる頭を抱えながらも、現在の状況説明及び報告会に参加する。
「とりあえず、貴方はどなたですか?王を救い出してくださった方との認識でよろしいのでしょうか?」
硬い口調でサーフィス君が問いただしたのは当然うちの旦那様なわけで。
擁護すれば良いのか迷う所だけどとりあえずスルーさせてもらおう。
てか、私も何がどうなってたのか気になるし、ねぇ。
「その認識で構わない。と、いうか、俺に敬語は不要だ、サーフィス」
不意に名前を呼ばれ、サーフィス君は困惑顔だ。
こんな人知り合いにいたかな?と首をかしげそうな勢いである。
結果、考えるのを放棄したらしい。訝しげに旦那を見てる……ていうか睨んでる。
ま、そうだよね。
魔穴に消えた王様達を連れて、突然現れた見知らぬ男に名前呼びされ、さらに妙に親しげな態度取られたら………。
うん、私でもあんな顔になる自信ある。
そんな相手に、旦那はあっけらかんとしたもんだった。
「時空の関係や諸々で成長しちまったが、俺は陽哉本人だ。魔穴にのまれた後、いろいろあって、な」
バチンとウィンクまで飛ばすサービスぶりだ。うん、チャラい。陽哉君のキャラ崩壊甚だしい。
あまりにも軽く放たれた爆弾発言に、サーフィス君が固まった。
情報が理解できないようだ。
まぁ、ねぇ。
さっき目の前で魔穴にのまれた相手が約半日後に大人に成長して出て来るなんて、意味わかんないことだろう。
「お〜〜い、聞いてるか?」
目の前でヒラヒラと手を振られ、ようやく動いたサーフィス君が最初にしたのは、らしくなく大声で叫ぶ事だった。
「は、はるやだと〜〜?!!」
貴方まで、冷静沈着なキャラが崩壊してますよ〜〜、サーフィス君。
手に入れたもの。
希→旦那
月乃→兄(はるや。上記と同一人物だけど……)
王国の皆さん→王様と側近さん達。
な、感じですね。
ちなみに、ハルチカ君の仕事は高校の先生(化学)
修学旅行の引率で沈没事故に遭いました。
と、いう、本編に関係ない裏設定……。
読んでくださりありがとうございました。




