9.「若返ってるじゃないか!!」
『では今回討伐を担当した鎌瀬パイロットにお話を伺います!』
画面にアナウンサーらしき女性とパイロットスーツを着た男が映し出された。
思わず食べる手を止め画面を注視する。
映し出された二人の片隅に小さくワイプで野生型異生体であろう生き物と戦う機体の映像が映し出されていた。
なんだ? インタビューの内容からして野生型異生体が現れ、それを討伐したという内容だ。
だというのに映し出される二人は、まるで野球のヒーローインタビューのような雰囲気を醸し出していた。
危機感——そうだ、あんな化け物が現れたというのに危機感というものが感じられない話しぶりだ。
手に持つ箸を置き、マキに問い掛けた。
「なあ、コレって——」
「どうですセンパイ。これがこの世界の現状です」
現状と言われてもな……あんな化け物が出現する世界なうえに、ゲームに登場していた機体が実際にある世界。
その二つを結びつけるだけの理由が俺にはわからない。
わからないのならマキに聞けばいいか。
「簡単に説明してくれ」
「わかりました。えーっとですね。野生型異生体自体は結構昔から現れています。そのうえで人類は対抗手段として『人型機動兵器』を開発しました。ですが、野生型異生体は突然なにもない空間から出現します。そういった場合、センパイならどうします?」
「え、そうだな……現れてから倒すしかないんじゃないか? それか現れる前兆的なのを観測するとか?」
「おっ正解です。さすがセンパイですね。人類は武器を強化するのと同時に野生型異生体が出現する予兆を観測する方へも力を入れました。それによって野生型異生体が出現する一時間前に、特定の空間の揺らぎが発生することを発見しました」
「なるほど。一時間前に出現する場所を割り出して被害も最小限にするってわけか」
「その通り! その結果、ここ近年では野生型異生体の討伐はエンタメの様相を呈しています。今テレビに映っている男も企業と契約している言わばプロのような感じです」
マキの話をまとめると野生型異生体ってのはそこまでの脅威ではないのか?
エンタメ化しているのならそこまで脅威ではないんだろうし。
そう考えていると、アナウンサーはこう言った。
『今回の戦闘は死傷者が0でしたね。前回は喪部プロの戦死により連続死傷者数0人が途切れてしまったわけですが』
『喪部プロが弱かった。ただそれだけですよ。僕としてはこれから続く記録の最初の一人になれたので良しとしますがね。ハッハッハ』
……死人は出るのか。
アイゼンの装甲を易々と噛み砕くような化け物が相手なら当たり前か。
だとしてもだ、人の死に対して軽薄な態度が気になる。
「マキ——」
「先程も言いましたが、コレがこの世界の現状です。本来脅威であるはずの野生型異生体を国ではなく民間の企業が対処しています」
「まるでスポーツのプロチームみたいだな……」
「その考えで大丈夫です。あと、帰り道で声をかけられた女がいましたよね?」
女? ……ああ、あの人か。
家に着いてから怒涛の展開ですっかり忘れていた。
「あの女はこの国の最上位に位置する企業の令嬢です」
「え、そんなすごい人がなんであんな所にいたんだ?」
「学園内での出来事なので、手の空いてる彼女に救援要請がきたとかじゃないですかね?」
「学園……学園? なんで学生が救援に来るんだ?」
「今その説明をしてもいいのですが、ご飯が冷めちゃうのでまた後ほど、ということで」
マキがテーブルを指先で叩く。
少しだけ冷めた料理に対して、早く食べろと圧をかけてきた。
そう言われたのなら素直に従うしかない。
店で作った料理以外で人が作ってくれた料理なんて何時ぶりだろうか……
そう思いながら目の前でニコニコと微笑むマキを見ながら残りの料理を食べた。
◇
食事も終わり。
そのまま風呂に入るように言われたので風呂場へ向かう。
まだまだ聞きたいことは山ほどあるが、風呂に入って一度頭をリセットするのもいいだろう。
風呂場につき、服を脱いでいる最中に違和感に気づく。
「マキィィィイイイ!!!!」
「はいはい、なんですか大声出し——ワァオ、誘ってるんですか?」
「んな訳ねえだろ! それよりコレはどういうことだ!?」
「……? どういうこととは?」
「若返ってるじゃないか!!」
「……あれ、言ってませんでしたっけ?」
「言ってねえよ!」
……言ってないよな?? うん、言ってない。
事故の後遺症がない世界としか言われていない。
脱衣場にある洗面台の鏡で改めて体を見る。
事故で出来た傷痕がどこにもない。
メガネをかけていないのによく見える。
手を強く握るとそれに比例した強さが手のひらに伝わってくる。
改めて元の自分の体とは違うのだと理解した。
鏡に映る顔も——何歳の頃だ?
たぶん高校生くらいな気がする。
「マキ。今の俺は何歳だ?」
「えーっと、つい先日16歳になったばかりですね。ちなみに高校一年生です」
「高一か……ヤバいな、あのころ何してたっけ……全然覚えてないな」
鏡を見ながら細部を確認するも、別人のようには見えない。
本当に過去の自分に戻ったように感じる。
よくよく考えれば気づくタイミングはいくつかあった気もするが、そこは他のことに気を取られていたんだろう。
「……よし、風呂入るから出てけ」
「呼んどいて酷くないですかぁ? それともお背中流しましょうか?」
「いらん。早く出てけ」
「はいはいー」
マキが脱衣場から出ていき、残りの衣服を脱ぎ捨てる。
「あぁ〜」
湯船に浸かると自然と声が漏れ出た。
今日一日の疲れがお湯の中に溶け出していくように感じる。
まあ、そう感じるだけで疲労はバッチリ残っているんだけどな。
それでも湯船に浸かるのとそうでないのとでは天と地ほどの差があるってもんだ。
「しかし、本当に別の世界に来ちまったのか……」
誰に言うともなしに零れた独り言。
心の準備をする暇もなくこの世界に来てしまった。
どうせ俺の帰りを待つ人はいない世界だが、だからといって身近な知り合いがいない訳じゃない。
バイト先の店長や大学の友人たち。
何かと世話を焼いてくれた親戚には一言伝えてからでもよかったな……
とりあえず風呂から上がって、その後のことはそれから考えよう……
体が温まったせいか少し眠気が襲ってきた。
寝落ちする前に早めに出るとしよう。
そう思いながら湯船の縁に体を預け、少しだけ瞼を閉じた。




