第二十二章 「明かされた真相」
沈黙。
誰も動かない。
気づけば。
二人の武器は、既に鞘に収まっていた。
リーナは大きく息を吐く。
震えていた手が、少しずつ落ち着いていく。
⸻
リーナが天膳を見る。涙が残っている。
「天膳様」
天膳が振り向く。「ん?」
「……あの依頼」少し間。「最初から知ってたんですよね」
天膳は少し間を置く。「……まあな」
「なんで言ってくれなかったんですか」
「言う必要がなかった」
「そんな」リーナが食い下がる。「あの人たちは何者なんですか。天膳様は何を知ってるんですか。なんでこんな危ないことを一人で」
天膳が軽く手を上げる。「落ち着け」
「落ち着けません!」
少し間。
天膳は空を見上げる。「……そのうち分かる」
リーナが眉をひそめる。「そのうちって」
「今は黙って信じろ」
軽い口調。だが本気だった。
リーナはしばらく天膳を見ていた。
「……信じてます」少し間。「だから教えてほしいんです」
天膳はそれには答えなかった。
ただ、少しだけ笑った。
⸻
影は動かない。刀に手をかけたまま。
(……整理しろ)
黒幕は逃げた。旧道の先。廃村を抜けて例の街へ。
追えなかった。天膳に阻まれた。
(……あの男は何者だ)
護衛として黒幕側にいた。だが黒幕を逃がした。
いや――
(……意図的に通過させた?)
視線が天膳に向く。
あの強さは本物だ。霞穿が当たらなかった。連撃も全て防がれた。
(……格が違う)
それでいて今は刃を収めている。
(……目的が読めない)
⸻
その時。
「ねえ影っち」
猫女が隣に来ていた。いつの間に。
「……なんでここにいる」
「一緒に来たんだよ」猫女が笑う。
少し間。
「あの人ね」声を落とす。「敵じゃないと思う」
影の目が細くなる。「……根拠は」
猫女は少し考えるふりをする。「風の噂」
影は答えない。
猫女が少し顔を近づける。「私の目を見て…」
からかうような目。だが嘘はない。
影は少し間を置く。「……」
猫女がにやっと笑う。「信じるかどうかはお任せ〜」
少し間。
「ねえ影っち」
「……何だ」
「なんであの人たち追ってたの?」
影は少し黙る。
「……攫われた人間がいる」
猫女の表情が変わる。
「街の外れで人が消えてた。あいつらが絡んでると思った」
少し間。
「子供も一人いた」
猫女が聞く。「子供?」
「家族をやられて瀕死だった。助けた」
猫女は黙っている。
「だが」少し間。「一足遅かった。攫われた連中はもう先に送られてた」
猫女はしばらく影を見る。
そして小さく呟く。「……そっか」
少し間。
猫女は視線を落とす。「……ごめんね」
影が少し眉を動かす。「何が」
「邪魔しちゃったかも」少し間。「影っちが追ってたの、助けられなかった人たちのためでしょ」
影は黙ったまま前を向いていた。
⸻
影は猫女から視線を外す。
天膳の方へ向く。
「……お前」
天膳が振り向く。「ん?」
「何が目的だ」
天膳は少し間を置く。軽く笑う。「さあ」
影の手が刀にかかる。
斧男が息を呑む。「……また始まるのか」
弓使いが体を強張らせる。「……まずい」
側近が一歩踏み出す。「天膳様……」
「……冗談だって」天膳が手を上げる。
少し間。
天膳の表情が変わる。
⸻
天膳が夜空を見上げる。
「……そろそろかな」
小さく呟く。
その時。
背後に二人、現れた。
音もなく。気配もなく。
影の目が細くなる。
(……気づかなかった)
斧男が振り向く。「……あいつら、見たことあるかも」
弓使いが首を傾げる。「……どこかで」
側近が静かに言う。「天膳様の隠密だ。必要な時に現れる」
一人が天膳に頭を下げる。
「報告です」
天膳が頷く。「聞かせろ」
「馬車の行先を追いました」少し間。「……場所を、突き止めました」
空気が変わる。天膳の目が細くなる。「……そうか」
静かに。だが確かな重みがあった。
⸻
影の目が動く。
(……まさか)
天膳を見る。
護衛の依頼。黒幕を逃がした。追わせた。
(……最初からそれが狙いだったのか)
影の目が細くなる。
天膳が視線を感じて振り向く。軽く笑う。「勘がいいな」
「……この間にも各地で被害が出てるかもしれない」
静かな声。だが冷たい。
天膳は少し間を置く。「だからこそこの依頼を引き受けた」
少し間。「各地での失踪事件は聞いている」
天膳の目が変わる。「その中に俺の旧友もいた」
静かな声。だが重い。「身内に手を出したやつには容赦はしない」
⸻
影はしばらく天膳を見ていた。
嘘ではない。その目が語っていた。
「……」
影の中で何かが引っかかる。懐かしさに似た違和感。
(……このあり方)
どこかで感じた気がする。まだ上手く掴めない。
だが確かに何かが、ある。
⸻
斧男が口を開く。「……ちょっと待って」
天膳を見る。「つまり俺たちが護衛してたのって」
弓使いが続ける。「……犯人側ってこと?」
天膳が軽く笑う。「そういうこと」
斧男が頭を抱える。「知らなかったぞ!?」
弓使いが側近を見る。「……お前は知ってたのか」
側近は何も言わない。
斧男が叫ぶ。「なんで言わないんだよ!!」
側近が静かに答える。「言えなかった」
斧男が腕の傷を見る。「……おかげさまで殺されかけたぞ」
弓使いが頷く。「本当に」
天膳がくすっと笑う。「お疲れ」
斧男が天膳を睨む。「笑うな」
⸻
リーナが静かに言う。「……天膳様」
天膳が振り向く。「ん?」
リーナの目が真剣だった。「後でちゃんと話を聞かせてください」少し間。「全部」
天膳は少し目を細める。「……はいはい」
斧男が小声で言う。「……お説教だ」
弓使いが頷く。「珍しいものが見られそうだ」
側近は何も言わない。ただ少しだけ目が笑っていた。
猫女は黙って見ていた。いつもならからかう場面。だが今回は何も言わなかった。
⸻
しばらくして。
天膳が口を開く。「とりあえず街に戻るぞ」
斧男が立ち上がろうとする。「……いてぇ」
弓使いが苦笑する。「同感」
側近が無言で二人を支える。
⸻
歩き出す一行。
猫女が影の隣に並ぶ。
「影っちはどうするの?」
影は少し間を置く。「……街に戻る」
猫女がにやっと笑う。「一緒じゃん」
影は答えない。
ただ歩き出した。
⸻
街に戻ってから数日後。
影は宿の机に向かっていた。
筆を走らせる。
簡潔に。事実だけ。
失踪事件の経緯。黒幕の動き。廃村の中継地点。そして場所を突き止めたこと。
書き終える。封をする。
街長への報告書だった。
「……送ってくる」
立ち上がる。
⸻
数日が過ぎた。
天膳が影の前に立つ。
「そろそろ動くぞ」
影は少し間を置く。「……ああ」
短く頷く。
天膳が軽く笑う。「珍しく素直だな」
影は答えない。
ただ刀に手を添える。
静かに鞘に収まっている。
「……行くか」
第二十二章終~




