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人類の脅威であるアビスを殲滅するために、僕はアビス王と契約する~信用させて、キミを殺す~  作者: 夜月紅輝
第3章 嫉妬の罪、それは無理解の証

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第84話 二体のアビス王、そして同時攻略の理由#3

 アルスに提示された過去の特魔隊によるアビス王との交戦記録。

 また、命懸けの観察による情報収集を全て読み終えるのに軽く一時間は経過した。


 つまり、それだけの情報が集まっていることもであり、それでもなお勝てない相手。

 加えて、この情報からもたらされることを踏まえれば、アビス王の二体同時攻略は必定となった。


 あの命懸けの戦闘を同時に行う......やはり、何度聞いても正気の沙汰ではない。

 しかし、ここまで情報が集まっている以上、もはやこの記録の精度もバカに出来ない。

 となれば、やるしかないのか――二体同時攻略を。


「.....内容は把握した。そして、二体同時攻略も納得だ。

 なら、次はそれを踏まえた現状の戦力を確認したい。

 勝てる戦力は集まってるのか?」


 ノアが目の前のホログラムモニターと睨めっこしていると、隣にいるライカがそう尋ねた。

 その質問に対し、アルスが中指で眼鏡をスッと上げると、答える。


「正直、厳しい。十六年前と比べ、今はS級に至る人材も少ないからな。

 だから、アビス王を倒した二人にはだいぶ過度な期待を寄せている――ということになる」


 アルスの言葉に続き、ルーナレスが言葉を引き取るように口を開いた。


「お二人を呼んだのは、あなた達が私達が現状で知る最高火力戦力(アタックホルダー)だからよ。

 現に、あなた達はその戦闘能力、そしてピンキリな白魔力で手に入れた高火力の魔技を使用してアビス王を倒して見せた......こうしたチャンスって早々にあるものじゃないの」


「確かに、アタシ達の魔技は当たれば強力だろうな。

 だが、だからといって最強になったわけじゃない。

 あのバカ上司だって、歴代最高能力を有しながらもアビス王相手には手も足も出なかった。

 それでも、あんたらはアタシ達を当てにして戦おうってのか?」


 ライカの冷静でありながら、険のある言葉が部屋の中に響き渡る。

 その言葉を黙ってきていたノアであるが、発言内容には概ね同意だ。


 戦った自分だからこそわかる。自分達の魔技は通用するが、必ずじゃない。

 それこそ、所詮の「怠惰」のアビス王に対して、たまたま通用しただけかもしれない。

 加えて、通用しても実際は負けていたのだ。


 ノアとて決して自分の目標を見失ったわけではないが、それでも不安定な足元で走るほど愚かじゃない。

  いや、もうその意気込みだけで突っ走って行ける次元はとうに過ぎ去ったのだ。


 それも、これから戦うアビス王のうち「嫉妬」のアビス王は交戦すれば、必ず死ぬとされている。

 つまり、「嫉妬」のアビス王との戦いに関しては、以前の調査みたいな方式が使えないのだ。


 再戦不可能の一発勝負、そうである以上求められるのは確実に勝てる戦力だ。

 その戦力に自分とライカが加わったぐらいで勝率に大きな影響はない。

 もしそれで勝てると思っているなら、過大評価も甚だしく、あまりにもお粗末。


「あぁ、戦う」


 ライカの問いかけに対し、アルスは一切の迷いもなく断言した。

 メガネ越しのその翠の双眸には一切の揺らぎが無く、虚栄を張ってるようでもない。


 つまり、ノア達の戦力に期待しながらも、同時にそれで勝てると思うほど過度な期待はしていないということだ。


 そんな一見矛盾したような言葉の裏に隠された真実。

 そこまでして戦いを急ぐ理由を、続けてアルスが端的に答える。


「なぜなら、そう悠長に準備している時間がない可能性があるからだ」


「どういう意味ですか?」


「簡単に言えば、あなた達が『怠惰』のアビス王を倒してから、各アビス勢力が活発化し始めたの。

 恐らく、アビス王に仕える殉教者(マーダー)達が事態を大きく捉えたのね。

 それこそ、あなた達には心当たりがあるんじゃない?」


「「......」」


 そう言われた瞬間、ノアとライカは揃って黙り込む。

 それはここに至るまでに、二度も「嫉妬」の殉教者による戦いを経験したからだ。


 最初のアイドル・アスミが狙われた件に関して、その事件では私怨で話がまとまっているが、それでもその嫉妬に狂ったクラスメイトはもともと一般人だった。

 つまり、誰かが意図的にそのクラスメイトを殉教者に仕立てあげたのだ。


 そして、その仕立て上げた人物にノアは思い当たる。

 忘れもしない、駅のホームであからさまな人間のフリをし、乗り込んだ新幹線で乗客全員を殉教者に変えようとした狂人の双子。


 加えて、ライカと黄のパレス代表のアルスでも仕留めきれなかった相手だ。

 あれは紛れもなくテロであり、狙いこそわからないが、明らか何かを企んでいた。


 それが「怠惰」のアビス王の死をキッカケに動き出したとなれば、確かに悠長にことを構えている暇はない。


「現状、殉教者達にアビス王を動かす能力はない。

 しかし、それは動かせないという意味ではない。

 例えば、「嫉妬」のアビス王――パーシル=インヴィディアの場合、自分の命を顧みず赤子の人形を奪って都市に突っ込めば、それだけで僕達が済む都市は簡単に崩壊する」


「私達が追っている『暴食』はもっと簡単よ。

 今はこちらの都市と大きく距離があるし、移動スピードが子供だからなんとなかってるけど、彼女は食べ物のニオイを感じ取ればどんな場所にだってやってくる。

 それで私達が防衛のために攻撃すれば、パーシルが飛んできて終わり」


「......どうやら本当に悠長なこと言ってる余裕はなさそうだな。

 確かに、アタシ達が準備してる間に、あっちの準備が完了すれば、もう盤面は詰みだ。

 つまり、今のアタシ達は無理してでも動くしか選択肢がないってことだな」


「となれば、こうなったことには僕達にも責任が生じるね。

 全ては僕達と『怠惰』のアビス王との戦闘で決着がついてしまったことなんだから。

 賽は投げられた......ってことなのかもね」


 戦いの狼煙は既に上がっている。ここからは時間経過で激化していく一方だ。

 シェナルークの言葉で言えば、「嫉妬」も「暴食」も戦闘能力は下の方だという。

 強いて言って、「怠惰」より少し上かぐらい。


 つまり、自分達が恐れている戦いは、まだまだ前座に過ぎないということだ。

 そんな戦力的に圧倒的な不利な状況で勝機を見出すには、相手が動き出す前に仕掛けて削り切るしかない。


 アルスとルーナレスがここまでして自分達という戦力をかき集めた意味がようやく分かった。

 ここからは時間との闘いでもあるのだ。殉教者達の準備が整うよりも早く動く。

 そして、一刻も早くアビス王を倒す――それが今の自分に出来ること。


「わかりました。僕達もかねてよりアビス王を倒すことを目標としています。

 なので、是非自分達に協力させてください」


「とはいえ、アタシ達が最高火力戦力ってんなら使い方を誤んなよ?

 その物言いであれば、アタシ達二人がやられた時点で特魔隊自体が詰むことになるからな」


「あぁ、わかっている。とはいえ、二体同時の戦闘になれば、悠長に時間をかけている暇はない。

 二体揃った時点で僕達の勝利は絶望的だ。故に――片方には時間稼ぎをして欲しい」


「時間稼ぎ?」


 具体的な作戦方針をアルスに聞けば、彼から返って来たのはその言葉。

 その返答に、ライカがすぐに凄んだような口調で聞き返す。


 一見、威圧気味の聞き返しであるが、彼女からすればデフォルトだ。

 そんな圧を意に介さずアルスは再びメガネをスチャッと上げると、


「先ほど僕達はアビス王の二体同時攻略を提案した。

 しかし、厳密に言えば同時に倒す必要はない。

 厄介なパーシルの方だけを倒せれば、少しだけだが時間に余裕が作れる」


「つまり、アルス君が言いたいのは、二体同時に攻めはするけど、パーシルを最速で倒して欲しいってことなのよ。

 パーシルを倒すことが出来れば、私達が懸念しているアビス王の合流は無くなる。

 そして片方がパーシルの討伐に集中している間、もう片方は「暴食」のラナを引き付ける」


「なるほどな。とはいえ、相手は子供のなりをしていてもアビス王だ。

 となりゃ、ただの時間稼ぎであっても、十分な戦力が無ければ時間稼ぎにすりゃならない」


「それで僕達二人を呼んだんですね。

 にしても、一人だった場合どうするつもりだったんですか?」


 その質問はノアにとって、何気ないものであった。

 現状でたまたま自分とライカがいるだけで、あの時の戦闘でライカが死んでもおかしくなかった。


 だからこそ、仮に一人だった場合もその作戦を立案したのか。

 単なる興味本位、そんな質問に対して、アルスもルーナレスも至極真面目な顔をして――、


「変わらない、誰かが命懸けで時間を稼ぐだけだ」

「変わらないわ、誰かが命懸けで時間を稼ぐだけよ」


「――っ」


 ユニゾンした二つの声、同時に代表から放たれる覚悟の圧にノアは頬を殴られた気がした。

 自分の考えが甘かった――そう思えてしまうほど、今この場に居る人達の覚悟は決まっている。


(僕は......少し浮かれていたのかもしれない)


 これまでのノアに浮かれている自覚は無かった。あるはずもない。

 なぜなら、自分は「怠惰」のアビス王を、あのリュドルを倒してないと知っているからだ。

 今だってシェナルークの恩情で生かされているだけに過ぎない。


 しかし、今の代表二人の言葉は、ノアの覚悟の甘さを知らしめるのに十分な覇気があった。

 もうとっくに自分の死に対して執着していない目をしている――ルーナレスはわからないけど。


 つまり、二人ともアビス王の討伐には、並々ならぬ想いを抱えているということだ。

 自分がライカとの約束や、マークベルト、クルーエルを筆頭とした怠惰戦で殉職した戦士達の想いを抱えるのと同じように。


 だとすれば、やはりあんな質問をしてしまう時点で、自分の覚悟には緩みが生じていた。

 自分が真に目的を果たしたいのなら、この甘さを捨てなければいけない。

 だからこそ、これは一つのケジメ。


「愚問でした。興味本位で余計なことを聞いて申し訳ありません。

 この覚悟の甘さ、命を落とす原因となるところでした。

 そのことに気付かせてくださり、ありがとうございます。

 必ずアビス戦にて結果で証明してみせます」


 そう言ってノアは深々と頭を下げる。

 すっごく固い言い回しになってしまっているが、十分誠意が伝わる内容には違いない。

 すると、そんなノアに対してルーナレスがさっきのオーラもどこへやらの態度で対応した。


「大丈夫よ、ノア君。別に、普通に気になっただけのことだと思うから。

 それに、ノア君なら必ずやってくれると私は信じているわ。

 だって、その華奢でありながら、他チラッと見える首筋から肩にかけての筋肉、加えて外見からでもわる強者のオーラ、それでいて唯一無二の魔技、まさに天が遣わした救世主――」


「ルーナさん、落ち着いてください。それ以上は過呼吸でぶっ倒れますよ。

 っと、そんな彼女は置いといて、君の覚悟は伝わった。

 だから、ここからはもう少し具体的は話に移ろう」


 そう言ってアルスは何度目かのメガネクイをすると、


「その話というのは、君達二人には分かれて欲しい。

 当然一人が討伐役で、もう一人が時間稼ぎ役といった感じでね」


「最速で倒すってんなら、二人一緒に行動すべきなんじゃねぇのか?」


「その言葉は最もだが、懸念があるとすれば、パーシルの呪いの効果範囲がわからない。

 仮に、パーシルを倒したとしても、呪いの解除が出来なかったなら、僕達は最大戦力をその戦いで失うということになる」


「リスク分散のためにも分けたいってことですか」


 仮定の話過ぎても危険であるが、パーシルの呪いの存在は確認されてる。

 となれば、その呪いの効果の最悪の想定までして考えるべきなのだろう。

 とはいえ、それは――どちらかが死ぬ可能性があるということだ。


 つまり、アルスの言い方は直接的に言い直せば、どちらかは未来のために死んでくれとなる。

 ノアとライカ、どちらが生き残ればアビス王の殲滅という最高の未来に一パーセントでも近づけるか。


「「......」」


 ノアとライカは言葉の意味を察し、同時に顔を見合わせる。

 しかし、すぐに言葉が出ない。いつもなら、二人でやっていたからだ。

 それがまさかどちらが先に死ぬかなんて相談をされるなんて、当然思いもしなかった。


「少しだけ......二人で話しても良いですか?」


 ノアの言葉にアルスは瞑目し、静かに「あぁ」と答えた。

 それと同時に、ノアとライカは席から立ち上がり、揃ってバルコニーへと移動する。

 透明なガラス扉を横にスライドさせ、そこから外に出る。


 横長に広いバルコニーには柵があり、そこからは眼下に訓練中の隊員の姿があった。

 そんな光景を前に、ノアは柵に対して前のめりに、ライカは背中から寄りかかる。

 それから、話題は自然と先程の議題へと入っていく。


「なぁ、ノア......お前が時間稼ぎ役になれ」


 最初に口火を切ったライカの言葉、ノアはそんな言葉が来るとなんとなく予想がついていた。

 というのも、この心配性の幼馴染はいつも自分以上に相手のことを気にするのだ。

 それこそ、ノアが久しぶりに街の外でライカと出会った時もそう。


 自分のことを弟だと思っているのか、それとも頼寄りないのか。

 いや、きっとどれも違う――それは自分がライカの幼馴染だからこそわかる。

 だからこそ、ノアも同じく言い返した。


「いや、ライカの方がその役になった方が良い。

 僕の場合は距離に制限がなく遠くからも攻撃できるしね。

 ライカが戦うフィールドよりも圧倒的に広い。

 生存能力的にもきっと僕の方が向いている」


 ――というのは、あくまで表向きの理由だ。

 本当の理由は、恐らくノアが「嫉妬」のアビス王と対峙した方が自分のみならず、味方の生存も確保できる可能性がある。


 その理由は一つ、自分の中にシェナルークという守護神がいるからだ。

 倒すべき敵を守護神と崇めるのはなんだか妙な気分だが、実際そうであるから仕方ない。


 もちろん、それはいざとなったらシェナルークの力を借りるというけじゃない。

 そんなことをすれば、その瞬間に自分の命はエンドだ。

 あの傲慢なる王様が、約束を違える愚か者に対して容赦などしない。


 そうではなく、ノアの肉体を介して溢れ出るシェナルークの侵食領域「不遜」が理由。

 シェナルークの言葉を借りるなら、その侵食現象はあらゆる状態異常、精神干渉を無効化する。


 もっとも、ノアの場合は、シェナルークの魔力を完全に使いこなしているわけではないので、あくまで高い耐性を持つ程度であるが。


 しかしそれでも、シェナルークに侵食領域によって「嫉妬」のアビス王の侵食が防げる以上、仲間が突然発狂して暴れ始めたり、アビス化して戦力が減るということは防げる。


 つまり、「嫉妬」のアビス王を倒すというお題目に対し、ノアが一番その成功率を高められるのだ。

 だからこそ、討伐役をどちらにするかというなら、自分程の適性はいない。


「あんな奴らに距離なんて大して関係ねぇよ。

 どこにいようと距離を詰められて終わりだ。

 なら、どうせ距離を詰められるなら、インファイトに慣れてるアタシの方が良い」


 とはいえ、悲しいことに先程の根拠はあくまでノアだけに通用するものだ。

 シェナルークの存在、並びにシェナルークの魔力や瘴気を利用しているなど口が裂けても言えない。


 言えないということは、その攻撃の説得力は皆無に等しい。

 どれだけ準備万端に整理していたとしても、使わなければ意味ないのだから。

 とはいえ、どうにかしてライカを時間稼ぎ役に回したいのも確か。


「ライカ......あまり言いたくなかったけど、『怠惰』のアビス王を倒せたのは、僕の魔技があってこそだ。

 僕の銃なら多少距離が離れていても相手を狙うことが出来る。

 それに、火力面を見ても、ライカの全力の拳に引けを取らない」


「いいよ、変に気を遣わなくて。

 実際、ノアの魔技あってこその勝利だしな。

 それと、お前の攻撃の方が、アタシの拳よりよっぽど強い。

 速度、威力、貫通力、付属効果......そのどれをとってもお前の方が上だ」


 ノアの強気に出た言葉に対し、それに上塗りするようにライカが評価をプラスさせる。

 てっきりどんな否定の言葉が来るか身構えていただけに、若干拍子抜けだ。

 もっとも、魔力という力の大部分が借りものなので誇るに誇れないが。


 すると、ライカは寄りかからせていた背中を柵から離す。

 それから、ノアの方に体を向けると――、


「......ノア、一つだけ聞かせてくれ――アタシに隠し事はないよな?」


「――っ!?」


 ライカから問い質される言葉、それがあまりにも虚を突いた一言で、ノアの心臓が一気に冷える。

 どうしてそんなことを聞くのか、それもこんなタイミングで。

 あまりの急な展開に、ノアの思考が乱れ、瞳が小刻みに揺れる。


 隠し事ならある。それも、これでもかってぐらい大きな隠し事が。

 加えて、それは自分が力を貸してもらう約束であるために、明かすことが出来ない。

 もし、不要に口走ってしまえば、自分の命はその瞬間に消滅するだろう。

 だからこそ、言えることは一つ――


「うん、何も無いよ。僕はただ約束を果たすために行動しているだけ」


「.......そうか。わかった」


 ノアの言葉を聞き、ライカがあっさり身を引いた。

 あまりにも軽い身の振り方に、ノアは思わず尋ねてしまう。


「ライカはこれで良かったの?」


「よかねぇよ。でも、お前が思ったより頑固なことも知ってる。

 だから、アタシの方が折れて支えてやるって決めてんだ。

 だから.......あんまり無茶すんなよ」


 憐れみを含んだ瞳を向け、それからサッと顔を逸らす。

 話はこれで終わりだと言わんばかりに背中を向け、先に室内へ戻った。

 そんなライカの背中がいつもより少し小さく見えたのは気のせいか。


「......今は目の前のことに集中しよう」


 そう呟き、静かにライカから意識を外すと、ノアも同じく室内へ戻った。

読んでくださりありがとうございます。


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