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開治の乱 ②

 やがて斉軍が晋王を追って勝利を収めたが、そこに開方府から急報が入る。出兵が遅れた呉王愛舎が、道を()えて斉都に迫っているというのである。斉王はすぐに退却することにした。一部の幕臣は開方など放っておいて寧京を抑えるよう勧めたが、斉王は頑として首肯せず帰路に就いた。


 寧京の廷臣たちがほっとしたのも束の間、斉兵が去ったあとに宋王ウラススがやってきた。しかし彼は草原(ミノウル)の生まれで華語すら解さなかったから、廷臣はその意図がわからず、やはり恐れて門を閉ざした。実際、ウラススは混乱に乗じて豊かな寧京を略奪しにきたのであった。入城を(こば)まれた宋王は、同郷の耶律拓拓に早馬を送って上京を(うなが)した。


 急ぎ帰った斉王は呉王と戦ったが、すでに晋王との死闘で疲弊していたので、あえなく敗れ、開方府に逃げ込んで籠城した。勢いに乗った呉王は付近を略奪したのち、一路寧京を指した。一度は退いた晋王も代原で態勢を整えて再び上京する。寧京城外はまたも戦場となった。しかも今度は晋王、呉王に加えて、何を考えているか知れぬ宋王ウラススも駐屯している。


 中央の乱脈に呼応して地方の諸侯もそれぞれ旗幟を鮮明にし、各派に分かれて活発に兵を動かした。武宗の統一した中原は、その子たちによって再び分裂したのである。王族のみならず、旧王朝の遺臣、あるいは搾取に苦しむ人衆の叛乱も群がり起こった。この間、寧京を預かる陳右烈らは、無策にただ武宗の遺骸を守って門を閉ざしていた。


 そのころ、天下の期待を集める(けい)竇徳(とうとく)はといえば、病に伏していたということになっている。が、これは真実かどうか疑わしい。幕僚たちが情勢を見極めるまで彼を動かさなかったと考えられる。それほどに中原の情勢は渾沌としていた。やみくもに干渉すれば、竇徳も呑み込まれる恐れがあった。


 だが彼の次子たる魯王糜奉(びほう)の考えは違った。父竇徳に似ず、単純で軽率なところがあり、野心も旺盛だった。これを機に武宗系の諸王を亡ぼして、天下を掌握しようと考えたのである。竇徳は彼のそのような性質を熟知していたので書信をもって軽挙を戒めたが、何も言わず一笑に付しただけだったという。


 糜奉は兵馬を整えると、寧京には向かわずに代原府を指した。呉王が斉王を破った策と同じである。魯王出兵の報に接した竇徳は、あっと驚いて長子糜達(びたつ)(のちの憲宗)を派遣して、これを止めるよう命じた。しかし効がなかったばかりか、かえって同調して軍中に留まった。それを知った竇徳はいよいよ病が(こう)じて、宮中に籠もってしまった。


 かくして薊秦を除く各地では戦のない日とてなく、特に寧京一帯の荒廃はひどかった。次第に糧食が欠乏し、陳右烈らは(はか)って、薊王および秦王に事態の収拾を懇請する使者を送った。その二王以外に混乱を収めるべきものはないように見えた。


 しかし前述のとおり薊王竇徳は病と称して薊を出ない。先に動いたのは秦王拓拓である。彼は宋王ウラススに上京を(うなが)されたときは言を左右にして応じなかったが、ここでは十万の兵を動員して寧京へ向かったのである。彼は歓呼をもって迎えられた。


 ところが拓拓には事態を収拾する策があるわけではなかった。ただ何となく、自分が出馬すれば何とかなるだろうと思っていたに過ぎない。諸王に先んじて寧京入りを果たしたが、各地に自重を(うなが)す使者を送ったほかは、何ら有効な手を講じえなかった。


 当初、秦王到るの報におおいに恐懼した晋王、呉王も、拓拓に積極性がないのを看て取るや、戦争を再開した。たださすがに拓拓の武名を恐れたのか、寧京周辺からは去った。

挿絵(By みてみん)

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