2-23 浜辺の出会い
結局俺たちは砂浜に埋められたまま、スイカを頬張る女子たちを眺めるという結果に終わった。
途中で涼葉がスイカを俺の口まで運んで食べさせてくれたのだが、そんなことをするくらいなら掘り起こして欲しかった。
最終的に夏音が1人で俺を掘り起こして今はヘトヘトになってパラソルの下で横になっている。
「夏音、大丈夫か?」
「大丈夫……じゃないかもしれない」
「なんか飲み物でも買って来ようか?」
「あ、それなら私も行きます」
「じゃあ、あたしも」
「それじゃあ涼葉と織田さんは夏音のこと頼んだ」
「あのぉ俺は?」
「宇佐美はもうしばらくそこに埋まっててくれ」
別れ際に宇佐美が「扱い酷くないか?」とか言ってたような気がしなくもないけど、今は夏音の方を優先しよう。
ちなみに、今まで俺たちが居たのは浜辺のかなり端の方で、ほとんど、いや、全くと言っていいほど他に人は居ない穴場だ。(もちろん俺調べ)
浜辺の中央部には人が賑わっており、海の家なんかも充実している。
こんなところではバーベキューとか出来るわけないので端の穴場をチョイスしたというわけ。
でも、こうして飲み物なんかを買いに行くときは500mくらい歩いていかないと行けないのがデメリット。
「2人ともはぐれるなよ」
「子供じゃないんで大丈夫ですよ。むしろ裕太さんの方こそはぐれないでくださいね?この人と2人きりとか嫌なので」
「もーぅ、すみれちゃん酷いなぁ」
「あなたの、そういう適当な態度が嫌いなんです」
「じゃあなんでついてきたのよ」
「あとからついてきたのはあなたでしょう」
「あり?そうだっけ?」
「まったく……」
2人とも、俺を挟んで喧嘩ないで。
そのあとも、しばらくすみれの説教的ななにかをみかんが聞き流すというのが続き、海の家で全員分の飲み物を買い終え、拠点に戻ろうとしたところで
「ねぇねぇキミキミ。俺たちと遊ばない?」
「美味しい物たくさんあるよ。なんならお兄さんが奢ってやろう」
「ぇと、結構です」
あぁ……よくあるんだよなぁ、こういうの。
同い年くらいの女子1人が大学生くらいの男2人に囲まれナンパを受けていた。
問題なのはナンパを受けている女子に見覚えがあってだな……
まあ、その話は助けてからだな。
俺は少々心配ではあったがみかんとすみれを2人きりにしてその場に待機させた。
「ちょっといいですか?」
「あ?なんだよ兄ちゃん」
「この子の連れですがなにか?」
「……チッ。彼氏持ちかよ」
「いこーぜ」
ふぅ、これでよしっと。
みかんとすみれも俺のところまで来て、ナンパされていた子に
「大丈夫だった?」
と声をかけるみかん。
そして、すみれは
「愛莉じゃないですか。愛莉も海水浴に?」
そう、見覚えがあったその女の子は工藤 愛莉。俺の許嫁候補の1人だ。まさかこんなところで会うなんてな。
でも、それよりも驚いたのが
「すみれ、知り合いなのか?」
俺はそのまま思ったことをすみれに訊ねる。
「はい、中学からの友達です。愛莉も同じ高校ですよ」
「へぇ、よろしくな。俺は天野裕太。えーと」
「ボクのことは愛莉でいいよ、裕太」
おっと、ボクっ娘だったのか。
見た目はボーイッシュなショートヘアーでボクっ娘。おまけにこの口調。今、着ているスク水が無ければ男子に間違われそうだ。
てか、なんでこんなところでスク水?
「今、水泳部の合宿でここに来ててね。それで休憩中に絡まれちゃって……ほんとに助かったよ」
「へぇ、水泳部なんだ。あ、私はみかん。よろしくね」
「すみれから話は聞いてるよ。すみれのライバルの人でしょ?」
「ふーん。すみれちゃんが私の話をしてくれてるんだ」
ニヤリとすみれの方を見るみかんに。すみれは顔を赤くして「ちょ、余計なこと言わないでください」と愛莉に歯向かっていた。
「あ、それとボクは水泳部じゃないよ。よくいろんな部から助っ人頼まれてね。今日もそれで来てるんだ」
みかんも俺もその事は知ってるけど。調査してたなんて言えるわけもなく、「へぇー」と流した。
さて、そろそろ夏音が心配だな。早く戻らないと。
「愛莉ってこのあとも練習なのか?」
「いや、このあとは休憩挟んでミーティングだよ。ボクは助っ人だから参加しなくてもいいんだけど」
「そっか、よかったら俺たちのところに来るか?」
夏音たちにも紹介したいしな。
「裕太さん……ナンパを追い払って自分でナンパするんですか?」
「いや、これは違くてだな」
「アハハ、いいよ、すみれの友達ならボクの友達だし」