017▼場所:『走りついた場所は、夜の公園だった』……語り手:『セミロング』
◆◆◆場所:『走りついた場所は、夜の公園だった』……語り手:『セミロング』
「はぁ、はぁ……。ここまで来れば大丈夫かな」
《はぁはぁ》と、荒く呼吸の度に肩まで長いセミロングが顔に『さらさら』と、当たる。
心臓が『バクバク』言ってて、どうかなっちゃうじゃないかってぐらいに苦しい。
手足は『ずっしり』と、重くてだるい。『ふらふら』っと、倒れるようにベンチに腰を下ろしてしまう。
こ、こんなに走ったの初めてかもしれない。
「いや、初めてだょ。……こんなに走れたとは思わなかった」
病弱だと思ってた私。日焼けもなく、窓の外ばっかり眺めてた私。
そんな私が、とにかく走って走って走ってた。場合によっては、『短距離走の選手』になれるぐらいの自信に繋がったかもしれない。
――だけど、今はそんな場合じゃない。
「だって、『やさ男(お兄ちゃん)』が……」
それは、ないと思う。
あの人がそんなことするわけないと思う。
走りながら、『ケーサツ』から逃げながら、そればっかり思ってた。
――『ケーサツ』に私のことを知らせたのかもしれない。
「私を助けてくれたやさしぃ『やさ男(お兄ちゃん)』が、私のことに気づいて……」
こんな私の、こんな『家出』してる私のことに気づいて。
おかしいと思って、変だと思って、通報したのかもしれない。
「……一緒にいてやるって言ってたのは嘘だったの?」
ずっと、ずっと、私といてくれるって言ってくれたのはウソだったの?
――それは嘘だったって言うの?
私は本気で信じてたのに。
本気で『やさ男(お兄ちゃん)』と一緒にいれたらって思ったのに。
「なのに、なんで、なんで、なんでいつも」
――裏切られるんだろうか。
いつも、いつも、いつも、信じてるだけなのに。
ただ、信じて、信じて、病弱だけど、フツーのつもりで生きてただけなのに。
――なんで、みんな私を苦しめるの? 私が何をしたっての……。
「わからないょ。わからない。わからな過ぎるょ……」
指に力が入る。
『黒のシザーバック』を強く握る指先に、きゅっっと人工皮の感触が返る。
『お兄ちゃん』が私にくれた大切なプレゼントを握って、握りしめている。
――だけど、そのお兄ちゃんも。
「―――ッ」
苦しい。
苦しすぎる。
『信じたい』って気持ちと、『信じるな』って気持ちで胸が張り裂けそうだ。
こんなの、こんなの、今までで何度も味わったのに。
今まで何度も何度も裏切られたのに。それなのに、なんで。なんで――。
もう、こんな苦しいなら、人を信じるのは止めよう。
「――もう、止めてしまおう」
きっと、『フツー』なつもりで、オカシイんだ。
きっと、『フツー』じゃないから、私は裏切られてるんだ。
――人間じゃないから、みんな、みんな、道具のように扱うんだ。
ただの肉塊なんだから、『フツー』とか『フツー』じゃないとかって考えるのが可笑しいんだ。
――だから、みんなあんな眼で笑いながら、私を好き勝手に使ってたんだ。
「もう、止めよう……」
そのほうが、お似合いなんだょ。
クズは、どうなっても、誰も構わないでしょ?
――最初から、誰も見てないんだから。どうなろうと構わないよね。
死ねばいい。
ただ、死ねばいい。
――オカシイ、ヤツは死ねばいい。