2 望んだ再会と望まぬ再会
私が次に灯夜と会ったのは中学を卒業し1年目、高校1年の年に行われた新年会だった。基本的に仲がよくお祭りごとが好きな私のクラスは当たり前のように新年会が計画された。
中学校を卒業してすぐ、私は灯夜から告白され、付き合うようになっていた。付き合っているとは言っても私と灯夜は違う高校に通っていたため、夏休みなどに遊ぶくらいしか恋人らしいことはしていなかった。
そんなこともあり、私は新年会に行くか迷っていた。
(あんなことになったクラスだし、行かなくてもいいなぁ。でも紫苑も行くって言ってたし、灯夜が来るなら行こうかな……)
そう思い新年会前夜、私は灯夜にメールを送った。
『久しぶり! 明日、新年会来る? もし来るならその前に会えないかな?』
いつも私からは誘わない。そんな私なりのデートに誘ったつもりだった。
数分後、灯夜からの返信には 『行くよ。いいよ。会おう。俺も話したいことあるし、久々に千草の顔見たい。新年会は18時からだから16時半に千草の家行く』 と書いてあった。
いつも通り記号も何もない普通のメール、それが私にはとても嬉しかった。
翌日、私は出かける準備をしながら灯夜が来るのを待ちわびていた。今でもはっきりと覚えている、あれは約束の10分前、16時20分。
来客を知らせる呼び鈴が鳴り、駆け足で玄関へと向かった。覗き穴なんて確認する必要はない。戸惑うことなく私は扉を開けた。
「灯夜!」
「千草、久しぶり!」
久しぶりに見た灯夜は、背が伸び、すっかり高校生になっていた。
(でも、顔は変わんないなぁ。やっぱり、好きだなぁ……)
「どうぞ、あがって?」
「お邪魔します」
それから私達は会えなかったときを埋めるように高校はどうか、友人はできたか、中学の友達とはどうしているか、など色々話した。
「じゃあ今は何もされてないんだ?」
「うん! 高校デビューしたよ!」
「よかった」
灯夜が中学校のときと同じふわっとした笑顔を浮かべたとき、もう一度来客を知らせる呼び鈴が鳴った。
「今日は誰も来る予定なかったはずなんだけど……?」
今思うと、私が玄関へと向かうその後ろから小さく「今までありがとう。ごめん。でも気持ちは本当だった」と聞こえた気がした。
「はい?」
「宅配便ですー!」
「あ、はーい!」
宅配便という言葉を真に受け扉を開けた私が馬鹿だったのだ。
「やっほ~」
「元気~? おっ! ホントにいるじゃん!」
突然現れ、上がり込んだ2人に言葉を発することが出来なくなっていた。
「なんで……」
かろうじて搾り出した言葉はそれだった。青と紅祁は私の家を知らないはずだった、教えたことがないのだから。しかし私の家の情報源を聞いた私はさらに混乱した。
「どうしたの。村雨さん? あ、なんで俺たちが村雨さんの家を知ってるのかって? 俺達、灯夜(・・)の後をつけてきたんだ」
「つけてきた……? なんで?」
「村雨さんに真実を教えてあげようと思ってね」
寒気を感じる笑みを浮かべた紅祁とは対照的に、自宅のようにくつろぐ無表情の青が私を見上げた。
「村雨さんは灯夜と付き合ってる、と思うけど、それ【嘘】だから」
(えっ……? 嘘? 何言ってるの?)
紅祁と青の来訪で既に真っ白だった私の頭の中は、突然で衝撃の告白でさらに混乱しだした。
「卒業して、俺たちいじめる相手がいなくなっちゃったからさぁ。灯夜に協力してもらって、村雨さんの反応を楽しんでたの」
(なにそれ、私はオモチャにされたってこと……?)
「えっ……と」
そんな私の様子を見た紅祁はいつもの調子で話し出す。
「ほら~青が急に言うから、村雨さんびっくりして混乱してんじゃん! やっぱりこういうのって本人同士で話したほうがいいんだよ! ってことで青、帰るよ!」
「はあ? これからおもしろくなるんだろ!? このまま居ようぜー」
青はソファに寝そべったまま答えた。しかしそんな青を紅祁が許すはずはなかった。
「だめ! 行くよ、ほら!」
「ちょっ、痛てぇ! わかったから離せよ!」
「それじゃあね、村雨さん。灯夜から詳しいこと色々(・・)聞いてみてね? じゃ、またあとでねー!」
気味の悪い言葉を言い残した紅祁と青が去り、残された私たちの間にはとても重い空気が流れた。
「あ……っと、ごめん」
「なんで、謝るの……?」
私は泣いたらあの2人に負けるような気がしたので涙が流れないよう、必死にこらえた。
「いや、だって」
「仕方ないよ! “霜月くん”も色々あったんでしょ? 大変だね~男子も。災難だったね! こんなのと付き合わされてさ!」
私はもう灯夜とは呼ばなかった。告白されたのはすごく嬉しくて、すぐに返事した。それからも、長期休みのたびに会うのが楽しみで、会えない間も頑張れた。
(でも、全部、嘘だったんだ。)
「千草……」
「ごめんね! でももう連絡とかしないから。新年会も行かないし! 霜月くん行って? あ、でもあの2人になんか言われたら私のこと、悪者にしていいから」
「あのな、千草……」
「――ごめん。今は何も、聞きたくない」
また私たちの間に思い空気が流れた。ふと、時計を見ると5時を指していた。
「あ! ほら17時半だよ? 新年会行かないと!」
私の家から新年会の会場までは3駅だった。実際30分も掛かりはしないのだが、このときの私は一刻も早くこの人を、霜月灯夜を、この場から消したかったのだ。
そんな私の空気を悟ったのか、灯夜は静かに立ち上がりまた静かに去っていった。
「――わかった。本当にごめん」
そう言い残して……。




