13 告白
「と、灯夜? 何言って……」
「今更なんだってわかってるけど。おれはずっと、向こうに行ってからも好きだった。忘れてことなんてなかった。ストーカーみたいって、気持ち悪いって思われるかもだけど……」
灯夜は切々と言った。
「あ、あの……!」
「千草が俺のこと嫌いなのはわかってる。昨日、店で会ったときも避けてたろ?」
「あ、あれは!」
(違う……! あれは、ただ、恥ずかしくて……)
私の気持ちを勘違いしたまま、灯夜は話を進めた。
「わかってるんだ。だから、これが最後……。向こうに戻っても会うことはないだろうし」
「ちょっ、ちょっと待って!?」
灯夜の胸に顔を埋めていた私は、ベッドに手をつき、ムクッと顔を上げ、灯夜の話を遮った。
「千草?」
「待って、私の話を聞いて? 私、灯夜のこと嫌いじゃないよ! 昨日のことは、ただ恥ずかしくて……」
そこまで言った私は、状況を目のあたりにし目を伏せた。
(か、顔近かった……)
「ご、ごめん……! 気にしないで!」
いたたまれなくなった私は、灯夜の上から逃げるように起き上がった。
(どうしよう……! もしかして何かすごい恥ずかしい事言っちゃった!?)
「千草……」
「ひゃっ!」
いつの間にか起き上がっていた灯夜は、ベッドに座る私を後ろから抱きしめた。
「と、灯夜!?」
「――俺のこと、嫌いじゃないの?」
耳元で響く、中学時代とは違う低く優しい声に、私は顔が赤くなるのを感じた。
「ねぇ、答えて……?」
耳に唇が触れそうな近さで囁かれ、耳が熱を持ち出した。
(もう、だめ……! これを言っちゃ……)
「千草……?」
いつまでも返事をしない私を不審に思ったのか、灯夜は私の顔を覗き込んだ。
私の顔を見た灯夜は小さく、そして優しく、意地悪く微笑んだ。
「なんて顔してんの?」
「――これが普通の顔、だよ」
(その言い訳は無理があるよね~。わかってます~)
そう思った私だったが、顔が近いやらなにやらでそれどころではなかった。
「ねぇ。そろそろ、答えて? 俺のこと、嫌い?」
首や耳に灯夜の存在を感じつつ、私の頭はいっぱいいっぱいになっていた。
(ダメだ。もう、隠せない……)
私は無言で首を横に振った。
「――じゃあ好き?」
私はまた、何も言わず首を横に振った。
「そっか、千草は俺のこと、好きでも嫌いでもないか」
灯夜は私の背後から離れ、普通に座った。
「でも、嫌われてなくてよかった」
(違う……。本当は)
「でも、これからはさ、連絡取り合おうぜ?」
寂しげな声に私は、机に向かいサラサラとペンを走らせる灯夜の後ろから抱きついた。
「――千草?」
「――き」
「なに?」
「すき」
小さく、でもはっきりと、灯夜の耳元で私は言った。
「聞こえない」
(聞こえてるでしょうにっ!)
私は灯夜の肩に顎を乗せた。
「好き……」
「もう一回」
「好き」
「もう一回」
「好き」
「もう一回」
「――いい加減聞こえてっ!?」
顔を上げた私は気がつくと顎を持ち上げられ、唇には柔らかい感覚があった。
(キスされてる……?)
「ありがと、千草。俺も好き」
「――聞こえてたんじゃん」
私は顔が赤くなるのを感じつつ、俯いた。




