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その日から俺は二人分の飯を買ってくる生活になってしまった。
一回やってしまった挙句、飯を買ってこないとどこかおさまりが悪い。
よくよく見あればあのガキ、馬鹿みたいに細かった。
幼少の時の嫌なことを思い出す。電気がとまった西日ばかりが差す台所。なにかないかと探していた、ひもじかったあのころ。
怒声や暴力におびえる日々。いつも振り回されていた。
飯を買う時、その記憶ばかりがちらつき、気づけば二食分買ってきてしまっている。
最近あいつの好みまでわかるようになってきてしまっている。
まずい傾向だ。責任なんて一切取れないのに、生半可に手を出している。
今日も今日とてゆうげかおる帰路を、二食分入っているレジ袋を握っていた。
西日は今日も嫌にまぶしかった。
帰り着くと、その日は少し風景が違っていた。
少女はいた。ただ、殴られたのか目をはらしていた。それだけではなく、腕にもいくつかのあざがある。
俺はどうすればよいのかよくわからぬまま、平生を装い、袋を差し出す。
少女はいつものように一瞥しては袋を無言で受け取る。
俺は何とも言えぬ感情を抱えながら、自分ちのドアノブに手をかけた。
言い表すならどんづまったような感情だ。出したいものも出せず、気持ちの悪い感情。
部屋は静かだった。西日はそんな部屋を嫌に明るく照らす。
このボロアパートは壁が薄い。虚弱な俺でもシャベルを振りかざせばぶちやぶれそうなほど。
だから聞こえてくる。卑しく、聞きたくもない向かいの嬌声が。馬鹿みたいにヤっている声が聞こえる。
ここで聞こえてくるなら、玄関に座っているあいつも聞こえているのだろう。
そう考えたら、俺は体が動いていた。
なぜかはわからない。このばにあのガキがいてほしくなかったのだ。聞かれたくなかったのだ。
玄関のドアを開けていた。
勢いが良すぎたのか、ガキはギョッとしていた。
「おい、アイス買い行くぞ」
初夏にはうってつけな誘い文句だろうが、見ず知らずの大人にそんなことを言われれば怯えもするだろう。
ただ一刻も早くこの場から離れてほしかった俺はそんなものを無視して、呆気にとられる少女の手を取て歩き出していた。
はたから見れば、ただの誘拐だ。いや、はたから見なくともただの誘拐行為だった。
ガキが叫べば一瞬でお縄なこの状況に、ガキはただただ静かについてきていた。




