その89・楽しい楽しい密偵ごっこ
「またしても大活躍してしまったわね」
『この町にえらく貢献したからなぁ。ひひっ、そのうち銅像でも建てられるんじゃねぇか?』
二人は楽しげだが俺は頭が痛かった。
「悪い冗談すぎるぞ」
しかし貢献したのは確かだ。
今はまだ、おっさん達も活動停止したゴーレムをどう細かくするか四苦八苦してるからいいけど、それが終わったら、また飲めや歌えやの大騒ぎになりそうで今からすでにうんざり気分である。
祭り上げられるのってどうにも苦手なんだよ。でもお金や品物くれるのは大歓迎です。
「人目を避けてササッと帰るはずだったのにな。隠し通しておきたかった新入り連中もがっつり見られたし、参ったわ」
『ンなしかめっ面すんなよ』
ナナは頭の後ろで手を組みながら、どこか楽し気に歩いていた。
『もっとお気楽にいこうぜ。な?』
気を張りつめすぎるのもよくないと言いたいのだろうか。
暴れられてスッキリした笑顔のソルティナと対照的に、ナナから見た俺はだいぶ苦い顔をしていたらしい。
「そうしたいのはやまやまだが、後からあいつらの素性について色々と聞かれそうでな……気楽になんてなれないよ。どう誤魔化したらいいものか……」
「メリエレイスさんは、まあどうにでも言いくるめられそうだけど、リアージュさんがね……。あの人、勘が鋭くてまいっちゃうわ」
しかも抜け目もないからな。交渉上手が相手だと話が早くて助かるが痛いところを突いてくるってのが困るところだ。メッさんはまあ、メッさんだから……
「あの蒼風姉ちゃん、どこまで察してるだろうか」
「ディアーネについては、バレたかバレてないか半々くらいじゃないかな」
「シャリサは顔を隠していたし、喋ってなかったから、きっと大丈夫だと思う。謎に包まれた英傑だとかメッさん達が言ってたし、もしかしたら二人ともシャリサの顔どころか声すら聞いたことないかもしれん。ピラリュアラについては、交流のほとんど無い種族だからな。知りようがないだろう」
「でもあの服装は怪しすぎだったわ。怪しんでくれと言わんばかりにね」
かといってずっと幌馬車に引きこもらせてるのも不自然だしな。仕方ない。
『後から色々と耳に入って「そういやあの時の怪しい女どもは……」ってなるかもなぁ』
「その頃までにはグラッドにとっくに着いてるさ。すぐさまお前を含めて四人とも秘密基地に隠れ潜んで、俺とソルティナは何を聞かれても、のらりくらいかわせばいい」
『潜むっていえばよぉ、あいつら、宿でじっとしてるかねぇ』
「ディアーネやシャリサは内向的そうだからいいけど、あの子がね……」
「あいつはなぁ……」
『あぁ……、そうだな……』
つい三人とも足が止まる。
まだ短い付き合いだが、ピラリュアラの頭の中身はだいたい把握したつもりだ。今頃は駄々をこねて他の二人に宥められているんじゃなかろうか。
『不安っちゃ不安だな』
「あの感じだと何日もじっとできる性格じゃないしな。しびれを切らせて騒ぎ出す前にやれるだけのことはやっとこう」
ということで聞き込みを開始する。
目に見える危機を蹴散らしたんだから、ピラリュアラがフラフラしだす前にさっさと立ち去りたいが、危機の大元があるかもしれないのに帰るのも後味が悪い。
いや、それくらいで痛む良心なんてさらさら持ち合わせていないけどさ、しばらく後になってから「どーもご無沙汰っした。んじゃさっそくだけどゴーレムのメンテ一丁よろしく!」みたいな感じで頼もうと再訪したら人骨と廃墟しかない死の町になってましたとか、色んな意味で後悔する事になりそうでね。
それが気がかりになって、ただちに帰りたいのに帰れないのだ。
「原因の排除までいかなくても特定はしたいわね」
「年寄り連中に聞けるだけ聞いて回ろうぜ。情報は足で調べるもんだって父さんもよく言ってたし」
「そっか、あなたのお父さんって町の警備兵だったわね。犯罪者の足取りとか、その手の調査やってたりしたんだ?」
「そうそう。ほら、羽振りの良かった金貸しのハゲいたろ」
「ああ、あのハゲね」
「お前は覚えてないかもしれないけどさ、そのハゲのところにコソ泥が忍び込んだことがあって、その時なんて警備兵が総動員で聞き込みに駆け回ったとかなんとか」
警備の人達は本来の任務をそっちのけにして、てんやわんやだったらしい。
そこまで大事になるほどのことじゃないと思うが、きっとハゲが町の偉い人にでも働きかけたんだろうな。やはり金……金は全てを解決する……!
「その甲斐あってお縄にできたの?」
「いや、数日後に森の真ん中あたりで死体が見つかった」
『なんじゃそりゃ』
「無理して森を突っ切って、マードラッドまで一気に逃げようとしたところを魔物にやられたんじゃないかって結論になったそうだ。盗んだ金貨や宝石も全て手つかずでその場に残されてたから、分け前で仲間と揉めたって線もなしってことで」
「つまりくたびれ損だったのね」
「ハッキリ言うとそうだ」
『ドンマイだな』
「……俺達もそうなるかもな。だったら、嫌だなぁ……」
そうだ。
あの時威勢よく言ったはいいが、そんな都合よく情報持ちのジジババに出会えると決まってなんかいないんだ。むしろ出会えない可能性のほうが遥かに高い。
過去に何らかの原因があるかもしれないからそれを知ってる年寄りがいるかもしれないから探そうってのが、自分で言い出しておいてなんだが、よくよく考えたらどだい無理な話なのだ。
宿を出た時には結構あった謎のやる気が、冷静になった自分の思考のトゲに刺されてじわじわと弱くしぼんでいく。
「やってみないとわからないわよ。何事もチャレンジあるのみってね」
乗り気じゃなくなってきた俺とどうでもよさげなナナの前で、元気いっぱいのソルティナが、得意げにガッツポーズしてみせた。
日が本格的に沈む気配を見せてきた夕暮れ時。
町の中央にある公園や、西と東に一件ずつ建っている薬屋などで聞きこんでみたのだが、手がかりになるような昔話は一切聞けなかった。
やってみないとわからないのでやってみた結果がこれです。
「何の成果もなかったわね」
再び公園に戻り、三人並んでベンチに腰掛ける。
「無駄骨以前の問題だった」
深呼吸みたいな長い溜め息が口から出てきた。
腰が痛いだの、硬いものが食えなくなってきただの、こう見えて昔は素手で魔物を何匹も仕留めたことがあるだの、そんな愚痴や怪しげな武勇伝いらねえんだよ。
しかも話してる途中で急に別の話にそれたりするから、無駄に時間がかかってかかって……
『話し相手になってやっただけじゃねぇか』
「ソウデスネ」
流暢に言い返す気にもなれず、つい片言になってしまった俺だった。
「…………ちょっとええかい?」
ナナに闇雲に町の地下を掘ってもらうかどうか真剣に考えていた時、誰かに話しかけられた。聞き覚えの無い、張りのある老人の声。
その声のしたほうを見ると、年の割に背中もまっすぐでシャキッとしたお爺さんが、杖も持たず一人立っていた。
「何すか?」
「どうしたの。おじいちゃん? 帰り道がわからなくなったの?」
謎の老人は顔をしかめて手をパタパタ振った。どうやら迷子ではないらしい。
「さっき、コバのやつの薬屋に行ったら、昔のおかしな出来事を聞き回ってる若い優れ者がおるって聞いてな。お前さんたちがそうなんじゃろ? この町を何度もバカでかい魔物から救った英雄だとか。ワシはすっかり家の外に出なくなったんで、何か騒ぎが起きとるくらいしか知らんかったが……いやはや、その年で
大したもんだわい。息子や孫に爪の垢を飲ませてやりたいくらいじゃよ」
お爺さんは一気にそう語る。
これまで聞き取りしていた年寄り連中とは比べ物にならない歯切れのいい喋りだ。
「ええ、そうですけど……褒めて下さってどうも。それで、おじいちゃんは何か知ってるの?」
「知っとるがことは知っとるが、お前さんたちが聞きたがってる話かどうかまではわからんのう」
いやいや、そんな謙遜しなくてもいいって。ここでこの展開はきっと当たりだろ。
思いがけない嬉しい知らせが飛び込んできて、俺達三人は顔を見合わせると、にやりと笑った。やっぱ自分から動いて流れを作らないと幸運って来ないんだな……
「是非とも聞かせてください」
俺は頭を下げた。機嫌を取っておくに越したことはない。
「その前に」
お爺さんは、ニヤッと笑うと、手でくいっと何かを飲むような仕草をした。
「年取ると喉が渇いていかん。この近くに安くてええ店があるんで、一杯おごってくれんか。話は飲みながらゆるりと語るわい」
……食えないジジイだぞ、こりゃ。
期待させといて、役に立たないガラクタみたいな話をするだけしてタダ酒飲んでバイバイとか勘弁してくれよ頼むから。ソルティナが鬼になるぞ。
今週は火曜、木曜、土曜の二時過ぎに更新します。




