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その84・棒みたいな槍みたいな針

 ポトカに到着する前は二人だった聖女が出発時には三人となり、リュムレインへ戻るその途中で五人となった。貴重すぎるクラスの持ち主が恐ろしいペースで加入している。類は友を呼ぶとはこのことか。


 エスタガス王国に命を狙われているのがディアーネ。

 西帝国の神殿関係者が追っ手を差し向けているのがシャリサ。

 白羽衆という剛虫族の大部族が必死に探しているのがピラリュアラ。


 実に、仲間内にいる聖女の半数以上がどこかしらの勢力に捜索されている。つまりダラダラ長旅すればするほどそれらの手の者に遭遇するのでさっさと帰りたいのだが、そうなると目立つ方々には隠れてもらわねばならない。

 半数以上といえば一度死んだことがある聖女の数もそうなのだが、これはまあ今の状況に悪影響を及ぼす要素ではないので気にすることもない。



「ボクも外歩きたいー」


「私は別に構いません。人目をはばかるのは慣れていますので」


 休憩を取ることなく俺達はひたすら寂れた街道を先へ先へと歩いていく。

 目立ちすぎる新入り二人組を幌馬車の中に押し込め、俺はリュムレインへとできる限りの最短ルートを通って進んでいた。野盗や魔物は鉄甲アリの件で逃げ出して影も形もないので、撃退で無駄に時間を食う心配もないのが助かる。

 夏の足音がそろそろと近づいてくる中、暖かな日差しを浴びながら、できるだけ誰ともすれ違わないようにと願いつつ俺は先を急いでいた。

 この季節、もっとのんびり旅を楽しみたかったが、よく考えると保護者無しで故郷を出てから結構な月日が経っている気もしないでもないので、これくらい急いでちょうどいいくらいかもしれない。

 そうだ、故郷といえば、まだお土産買ってなかった。忘れないようにしないとな。


「あーるーきーたーいー」


 そんな中、ピラリュアラは数分おきにぶーぶー文句を垂れていた。


「だーめーだー」


「けーちー」


『ガキかお前ら……って、いや、まあそうか』


 こいつも俺と同い年らしいからな。まだまだ大人とは程遠いガキだ。


「シオンさん、人気もなさそうですし、出してあげてもよろしいのではないですか?」


 横でごね続けるピラリュアラが哀れになってきたのか、シャリサが彼女の意見に後押しし始めた。まさか近くでごねられてウザくなったわけでも無いと思うが、そこを深掘りするのもヤブヘビぽいのでやめておこう。


「元々活気のある街道でもないから外に出してもいいっちゃいいんだが、どこで誰が潜んでいるかわからんしなー。潜んでいるのはいいんだ。見つけるのはそう難しくないからな。ただ、もし逃がしたりすると面倒なことになる」


 ソルティナの健脚から逃れられる者がどれだけいるかとは思うが、あのリリエルという根性がひん曲がった聖女みたいに転移魔法を使ってきたらお手上げだ。

 俺もトワイビュートを一瞬でどこまでも遠くに伸ばして遠距離攻撃できないものかとこっそり練習しているのだが、せいぜい百メートル先が限界だったりする。それも単発だ。続けて攻撃するには、伸びきったトワイビュートを一度引き戻し、そこから再びしならせる溜めの時間を含め、早くても五秒はいる。

 『絶望の落日』を俺を中心にして放つのではなく遠くのターゲット目がけてぶっ放せばまとめて倒すのも可能だが、あれは威力こそヤバいが射出速度は多分そこまででもない(と思う)ので、素早い奴が相手だとギリ逃げ切られそうだ。


『こいつにばかり頑張ってもらうのもなぁ』


 アンデッドだとバレないように(薄着になりたいのを我慢して)肌の露出をほぼゼロに抑えているナナが、先頭を歩いているファングを気遣った。


「何かある度に偵察させてたものね。いくら自分に仕える牙とはいえ、便利だから雑に使いまわしている感は否めないわね」


 珍しく申し訳ないことを言ったソルティナの腰まである銀髪が、太陽の光をはじいて眩しくきらめいた。こうして憂いていると完璧な美少女なんだが知っての通り中身は拳闘士だ。


「ウォンッ」


 当のファング自身は、なんてことないっスよという余裕っぷりだが、それでもこれだけの面々が揃っていて飼いクレセントウルフ一頭に監視を頼りっきりは情けないものがある。

 ナナに浮遊してもらって宙から見張っててもらうのもアリだが、弓矢や魔法で撃ち落とされそうな不安がぬぐえない。

 鎧でも着させるか? いやしかし厚着嫌いなナナが首を縦に振るはずもないし、となると大盾とか持たせるぐらいしかないな。それならいけそうだが……


「でしたら、私が探りましょうか?」


 意外なことに手を挙げて立候補したのはシャリサだった。


「移動しながらですといささか範囲が狭まってしまいますが、それでも私を中心にして直径一キロくらいの円内は、無理なく探れますわ」


「それって神聖魔法なのか?」


「いえ、スキルに分類されるのではないでしょうか。西帝国への旅の最中に編み出せていました。音や振動や気配で周囲を探っているうちに開花したようなのです」


「便利だねー…………んしょっ!」


 荷馬車の中でジタバタもがいていたのに飽きたのか、ピラリュアラが兎みたいにぴょんと石畳の上に飛び下りた。


「そんなに不安がらなくっても、ボクがいれば不審な奴なんてこーしてあげるよ」


 片手を優雅に上げ、肩まである白混じりの青髪をサッとかきあげると、その手の周りにキラキラときらめく何か──棒のようなものが現れ始めた。


「ちぇいっ!」


 下から上へすくい上げるようにピラリュアラが腕を振ると、その動きに応じたのかいくつもの光る棒が風を切って飛んで行き、遥か先にあった大きな岩に全て命中した。




 バガアアンッ!!




 こちらにまで聞こえるほどの景気のいい音を立てて、数百メートル先の大岩が弾けるように砕け散った。

 ほぼ同じタイミングで何本もの太い楔を根元まで叩き込まれたようなものだ。全ての棒が刺さってから表面に無数のヒビが走って砕けるまで、数秒もかからなかった。


「どう? 凄いでしょ、ボクの光魔法『シャインニードル』は」


 ふんぞり返り、頭に生えている二本の触角をピンと立てて、剛虫族の聖女がドヤ顔で自慢の魔法を見せつけた。


「あの威力じゃ、針というより槍という感じじゃない?」


「つまりシャインランスか」


「なにそれ。ぜんぜんカッコよくないよそれ! 変な名前つけないでよ!」


「槍というより、光るただの棒……っぽかったですわね」


「シャインバーですね」


『なんだそれ、だっせぇなぁ!』


「やめてよーー!!」


 不本意極まりないというピラリュアラの絶叫が、静かな田舎道に木霊した。



「ふんふんふん~~」


 それからどうなったかというと、俺達に散々いじられて思いっきりヘソを曲げたピラリュアラの機嫌を取るため、しぶしぶ外に出るのを許可することにした。

 後はシャリサのスキルに全て任せる。任せた結果見つかった場合は暴力でどうにかする。話し合いはその次だ。順番がおかしいかもしれないがそもそもここまでの経緯がおかしすぎるので今更である。


「もう穏やかな日々ってこないのかな」


 俺はムカつくくらい晴れ渡ったお空に輝く太陽を見上げて呟く。

 『そうだな』って声が、眩しさの遥か向こうから聞こえた気がした。

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