その79・真実の囁き
・前回のあらすじ
聖女が仲間になった(四回目)
無能、聖女、聖女、聖女。
風変わりとか尖ってるとか編成が極端とか、そんな表現を軽々と飛び越えている我々のパーティーは、この度、まだ確定とまではいってませんが、新たな聖女を一時的に引き入れることとなりました。
聖女しか仲間にできない縛りでもあるのかと問われたら、ンなもんないとはっきり言えますが、言ったところでこの様では誰も信じないでしょう。
このまま俺が大人になったら、絶対に許されざるヒモとして、周囲からゲスを見る目で見られるのは避けられません。色とりどりの聖女達をとっかえひっかえして楽しんだりコキ使ったりする鬼畜と思われるに決まっています。俺は悪くねえ。
なので、爺ちゃんみたいに冒険者デビューとかしてみたかったのですが、ここはスッパリ諦めて地元で細々と生きていこうかと思います。
神や天や運命が許してくれるならですが。
そんな訳で俺達は、緊張を解いて笑顔を見せるようになった新メンバーもといシャリサさんから、自己紹介も兼ねた種明かしをしてもらっていた。
「──が、私の真実です」
「成程なぁ。それでさっきまでのズレた反応にも合点がいった」
「あらゆる嘘を見抜くことができるなんて、地味に凄いスキルよね。人間や他種族のそれを逸脱してるわ。流石は、高位魔族でありながら聖女でもある……ということなのかしら」
そう。
こちらの魔族聖女さんの生まれ持ったスキル。それが『真実の囁き』と彼女が名付けた、嘘かどうか瞬時に見極められる能力だったのだ。
しかも、この場合の『嘘』とは単なる騙すための言葉だけではなく、偽物、フェイント、幻術なども含まれるらしい。そこまで拡大解釈して判定できるならそりゃ凄いわ。応用効きすぎ。
「逸脱……という点では、わたくし達のスキルや魔法もそうですけどね」
「今後も使いどころは選んでくれよ。俺のいない時には特に慎重にな」
『わーってるさ。望まれるがままに力を使っていた末路がコレだしよぉ』
その結果どうなったかを改めて知らしめるように、ナナが自分の首を体の周りでフラフラとさ迷わせた。遠目で見た者がいたら、カボチャみたいな悪霊と動く首なし死体のコンビに勘違いされそうである。
「本当にアンデッドなんですね」
シャリサさんは光を失った三つの目をパチパチさせて驚いていた。
『おうよ』
「そんな存在があり得る……いや、私も人のことは言えませんね」
不死者でありながら聖女なのと魔族でありながら聖女。どっちもどっちだこれ。
『桁違いに飛びぬけたマネができる奴には、良いものも悪いものも押し寄せてくるって生きてた頃に散々学んだしな。嫌な人生だったぜ……はぁ…………』
「利益や救いを求めて他者が絶えず群がってくるのが、抜きんでた者の宿命なのでしょうね。ふぅ……」
珍しくナナがついた溜め息にディアーネがつられていた。
性格こそ正反対だが、共に斬首されている経験から共感できるものが二人の中にあるのか、こうして気が合うことがままあったりするのだ。
そんな経験あるやつ他にいないしね!
こうして、一気に態度が軟化してくれたシャリサさんが(俺に対してやけに)積極的に話を進めてくれたおかげで、互いの詳しい事情も次々と明らかになった。やはり情報交換は正義。
「魔将軍の娘かぁ」
「こっちでいうところの、高い爵位持ち貴族の令嬢ね」
魔族にも階級制度とかあるのかな。
まあ魔王がいるくらいだから、魔貴族とか魔平民とかいても不思議ではないか。
「それで概ね合ってはいると思いますが、冷遇されていたので、実感はさほどありませんけどね。それに今となっては、無断で祖国を飛び出したはぐれ魔族です」
『追っ手が繰り出されててもおかしくはねぇわな』
「他人事ではありませんわね……」
つい先日、妄想が生み出した声に導かれたバカ女と激突したばかりだしな。
「連れ戻したいのか、それとも汚点を抹消したいのか。仮に私へと祖国からの手が伸びているとするなら、果たしてどちらになるでしょうか。ディアーネさん、先達としてあなたはどう思います?」
「難しいところですわね。わたくしの場合はある意味その両方でしたわ」
「お前の首だけ持ち帰ろうと企んでたからな、あの腐れ聖女」
『逆にてめえの首が無くなっちまって世話ねぇぜ。ひゃはははっ』
ナナは時折こうして自分が言った血生臭い冗談で笑うのだ。
「ところで、祖国っていうと、やはり北のさらに北のあそこなのよね?」
ソルティナが確認するように問いかける。
それ以外ないとは思ってるのだろうが、念のためというやつだ。
「はい。あなたの推測通り、魔王国です」
だよな。
見苦しい権力争いの末に二つに割れた帝国を筆頭に、いくつもの国家が仲良く喧嘩しながら存在するセントレイル大陸。この大陸の北の果てにあると言われているのが、魔王が治めるとされている魔王国だ。
その魔王国において魔宰相と共に魔王に仕える五星魔将の一角、アガリプスの娘がこのシャリサさん──いや、グレネリアさんなのだとか。思いがけない大物だった。
「え~と……どっちの名で呼んだらいい?」
「元の名は捨てたのですが……まあ、貴方が好ましいと思う方を選んでください」
「あー、そんならシャリサさんって呼ぶことにするわ。そっちの方があんたにとって好ましいだろ?」
「さん付けは無しでいいですよ」
「わかったよ、シャリサ」
それの何が嬉しかったのかわからないが、シャリサが途端にニヤケ始めた。女心って難しい。
で、話を戻すと、その実の父親こそが彼女の目を切り裂いた残虐な張本人である。
「私は、魔族として欠陥品でしたので」
シャリサのその言葉には負い目や劣等感などはまるで感じられなかった。
親の惨い仕打ちに対して、あまりに淡々としている。
魔族でありながら暗闇を見通すこともできず、それどころか、陽の下でも眩しさに目をやられて満足にものを見ることができない、闇に愛されなければ光にも抗えない、出来損ない──
それが、嘘や沈黙で隠すこともせず露骨に態度に現していた、自分の娘への評価だったらしい。
魔族としてあるまじき身内の恥を雪ぐため、シャリサの父親は、彼女が八歳の時にその目を潰すことで、不名誉な事実を消し去ろうとしたのだという。
不慮の事故で目が見えなくなった。そんな『作られた事実』のほうが、まだマシだと冷酷に判断したのか。なんにしてもクソ親である。
あらゆる嘘を見抜ける聖女が、親の嘘に人生を塗り替えられるとか、とんでもない皮肉だな。
「酷い目にあったものね」
前世で婚約破棄と処刑の合わせ技喰らった奴に同情されても、その、困ると思うぞ。
『へっ、いかにも権力者って感じのクソ思考だなぁ。一度偉っそうな立場になるとよぉ、どうあってもしがみついていたくなるのは、魔族も人間も変わんねぇのかね』
「父はそういう性格でしたから。多分、他の魔将の方々よりも権力欲や見栄にご執心だったと思います。自尊心がとにかく凄かったので。それこそ、私にこんな傷を負わせるまでに」
「親のすることではありませんわね。わたくしの親も大概でしたが」
政略結婚の道具にした挙句あっさり見捨てたしな。しかも託宣持ちを。
その報いは、過剰じゃないかってくらい関係者一同がごっそり喰らったらしいけど。
「傷そのものは焼けるように痛かったですけど、コレはもともと使い物になってなかったので、後の生活に不自由は生じませんでしたけどね。傷が化膿しないかのほうがよっぽど心配でした」
全く、とまではいかなくても、ほぼ意に介していないという風に、シャリサは切り裂かれた瞳の辺りを指差した。
両目を右の人差し指と中指で、額の目を左の人差し指で示していると、なんだか可愛いポーズを取ってるように見えてきた。本人は至って涼しい顔のままだが。
「ひょっとして、いつか父親が凶行をやらかすと前々から思ってたのか?」
「私が魔族として恥ずべき瞳だけでなく、聖女の力すら宿していたのは父も知っていましたので。最悪、殺される覚悟もしていましたから、目だけで済んだのはむしろ幸運でしたね。あの粗暴な父がよく八年も我慢したものです。……それでも命を奪わなかったのは、なけなしの親心だったのでしょうか」
それから彼女は前髪を伸ばして傷跡を見えなくするようにしたらしい。
隠したところで、外に出ることも許されず、顔を合わせるのも事情を知るごく一部の使用人だけなのだから意味がない気もするが、いちいち顔を見られるたびに同情や嫌悪されるのも鬱陶しいので隠すことにしたのだとか。
普段の生活はどうしていたかというと、音の反響や地面から伝わってくる振動、気配の察知で、以前から一人でも問題なく過ごせていたという。
ソルティナも似たようなことできるらしいが、そっちは日常生活ではなく実戦で培われたものなんだろうな。
「その傷、治そうと思えば、私ならできないこともないけど……どう?」
「いえ、このままで構いません。さっき言った通り不自由はありませんし、何より私の心情にとって、これは決別の証になっていますから」
「そうだ。疑問だったんだけどさ、決別って、何のきっかけで親とか国とか捨てたんだ?」
「それは……幼馴染の、ルデルの手引きによるものです」
おお、やっとまともそうな人物が出てきた。
シャリサへの仕打ちを黙って見過ごすのもついに限界が来たとか、そんな感じなのかな。魔族としてその考えは異端なのかもしれないが。
「三年前、既に正騎士の座についていた彼は『君が幽閉されていることにもう耐えられない』と吐き捨てるように言うと、困惑する私をなかば強引に連れ出し、魔王国の外──西帝国へと向かったのです。そこなら、素性さえ隠しておけば私の聖女としての力を存分に生かせると」
「もし素性がバレてしまった時のことを考えると、東のほうにすべきだったんじゃない? なぜあなたの幼馴染は西を選んだのかしら」
魔族許さねえマンのたまり場に自分達から足を踏み入れるとか自殺と変わらないよな。
「彼には勝算があったみたいなので。事実、あちらの高貴な方々からは、当初、難色を示されましたが、結果的に西帝国のお抱え聖女として認められました。思想より実利をとったのでしょうね」
「ちなみにだけど、あんたって今何歳なんだ?」
「十八です。ルデルは私の一歳上ですね」
「ならその彼は十六歳で一人前の騎士として認められたのね。そんな将来有望な人物が、己の未来をフイにしてまで幼馴染を助けたかった……美談ねえ」
「………………どうでしょうね」
シャリサから笑顔が消え、クールというよりは落ち込み気味の沈んだ真顔へと変わっていく。これは根深そうだぞ。
「それってどういう意味なんだ? まあ、言いたくないなら無理強いしないけど」
さっきも幼馴染の名前出すときに、ちょっとためらってたしな。
「シオンさんは優しいですね」
「そっかなぁ」
「はい」
クスクスと上品に笑うと、シャリサは、また笑顔を消して、幼馴染の真意について俺達に語るのだった──
──そうそう、俺にはさん付け無しでいいって言ってて、自分は年下の俺にもさん付けするんだな。でもキャラに合ってるからいいか。
今週の更新は月曜以外に、水曜日と金曜日の四時にも行います。




