その73・一応の解決と今後について
隣の国からはるばるやって来た復讐の鬼を踏みつぶし、後に残ったくたばり損ない達も、一人残らず雇い主の後を追わせてあげることになった。
雇い主だった聖女リリエルがあのザマでは、言われるままに動いていたこいつらがろくな情報を持ってるはずもないし、処分しても問題なしという結論でまとまったのだ。
「お、お助けぇ」
「どうか……ごふっ、み、見逃してくれ……」
「憎っくき宿敵に挑んで敗れるなら無念でしょうけど、恨みや因縁のない赤の他人を襲ったんなら、逆に返り討ちにされてもそれは仕方ないと納得しなさいな」
『しくじったらどうなるかくらい、一度は想像したことあんだろ?』
「誰にでも終わりの日は来るものですわ。わたくし達にも貴方達にも。貴方達にとってそれが今日だったというだけのこと。生き延びることに懸命なのもいいですが、生を手放す潔さも、また肝心ですわよ?」
おうおう、一回死んでる連中だけあって死生観サバサバしてんなー。すっごい早熟な俺でもまだそこまで達観できないわ。
ということで、対人戦に秀でた冒険者さん達はここで世界からリタイヤになりましたとさ。次は真面目な人間に生まれ変われるといいね。
「森はどうにもならないわね。捨てましょう」
「簡単に言うな」
ソルティナも一応は灰化した木々を再生させていたのだが、あまりに面倒くさいので嫌になったらしい。七本目くらいで駄々をこね始め、十本目を終えた辺りで不貞腐れてやめてしまった。
元に戻せるか、と(俺に抱きついて離れない)ディアーネに聞いても「これは無理ですわね」と他人事のようにあっさり否定され、大地の属性を持つ(俺に抱きついて離れない)ナナならどうにかできるのではと期待したが、
『まぁ、できっけどよ。治すってんじゃなくて、違う木や草花がニョキニョキ生えてくるけど……それでいいかぁ?』
「良くは無いけど、この際、贅沢も言えんし……う~む………………」
ここだけ突然種類の違う植物が生い茂るのも、それはそれで別の意味で異常事態なのでやめようかと思ったが……結局ナナに頑張ってもらった。
「違和感ひどいわね」
どうせわかりゃしないだろ……って気もちょっとはしたのだが、昔から住んでる地元の人間なら……いや誰でも一発でおかしいと気づくなこれ。
「うん、まあ、ここまで範囲がでかいと、珍しいことが起きたで済みそうにはないな……」
ディアーネの赤い渦が広まっていた一帯が、丸く円形に、そこだけ地面をくり抜いて別の土地と取り替えたように、生命力にみなぎった別種の木々が力強く地面に根を下ろして生え揃っていた。
大空から見下ろしたら森の真ん中がツギハギされたように見えるのではないか。
「被害が出る類の異変ではないから、騒ぎにはなっても話し合いが行われるような深刻な問題として扱われたりはしないだろ」
「ですわね。原因は不明でも、ただ生えている木が変わっただけですし」
『不気味っちゃ不気味だろうけどなぁ。困った事にならなくてもよ、原因がなんも分からないって、それはそれで怖ぇえものがあるぜ?』
それは気持ち悪いし変な不安があるとは思うが、辺り一面が燃え尽きた薪みたいに灰と化して死に絶えてるよりは、まだ嫌な気にはならないんじゃないか。
「……この森についてはこれ以上どうしようもないわね。話し合いはこの辺で打ち切って、できるだけ早めにここを離れてグラッドに帰りましょう」
確かにソルティナの言うように、ここが妥協点だろう。
『だな』
「さっさと帰るってのは俺も賛成だ。けどさ、俺達がここに来たタイミングでこんな事態が発生して、しかも逃げるように俺達が立ち去ったら、坊ちゃんに関与を疑われないか?」
『いいだろそのくれぇ。疑われてもよ、よその聖女が仲間になったとか、よその聖女と一悶着あったとか、そこまで根こそぎバレたりしねぇだろ』
「普通はそうなんだが、普通じゃないことがよく起きるからなぁ……」
ナナの言う通り、被害も倒壊した家くらいしかないし、この森の異変からそこまで嗅ぎつかれるとは思えないが……。過去の見逃しが思いがけない災いとなって追いかけてくるのは聖女リリエルの件でよくわかったので、できるだけ疑惑の目を向けられたくはないんだよね。
「そうね、ディアーネにはどこかに姿を隠してもらって、私達は何食わぬ顔で町のほうへと戻りましょう。坊ちゃんにこの森での異変について振られても、適当に話を合わせて知らんぷりを決め込んで、長居はせず、けれど焦ってソワソワしすぎず、明日にでもここを発つべきね」
「ならディアーネ一人にはしておけないな。さっきの聖女の一党しか追っ手はいないと思うけど、それでも一応、護衛としてファングを付けておこう。頼むぞファング。何かあったら俺達のところまでかっ飛んでくるんだぞ?」
「ウォンッ!」
……やれやれ。
休暇に入った火山に行って火口付近の様子を探ったり、リュムレインの地下に何かないか調べたりするはずが、一旦どれも中断せざるを得なくなった。忘れた頃に大事が起きそうで怖いが、今はディアーネをかくまうのが先決だ。
ほっとかないで何かしらの手を打つべきかもしれないけど、俺は正義の味方でも勇者のクラス持ちでもないんで、そこは英傑さん達にお任せします。
『ひひっ。ここまで来といて、温泉に入れずじまいで残念だったなぁ』
「残念ではあるが、ソルティナの話だと設備を整えてゆったり浸れるまで手間がかかりそうだしな。まあ、今回は諦めるさ」
これで計画は決まった。後はディアーネにどこにいてもらうかだ。
中央だけ色違いになったようなこの森にはもう潜めないので、どこか別の隠れ家がないのかとディアーネに聞くと、あの倒れた廃屋とどっこいどっこいのボロさの小屋が、森の奥、山岳に近い場所にあるのだという。
「猟師さんたちの使っていた小屋だったようですけど、わたくしが見つけた時には毛皮の切れ端やナイフが転がってるだけでしたわ」
「そこらが魔物か賊の縄張りになって、危険だから使うのをやめたんだろうな」
「魔物なら大きいのがいましたわよ。腕が四本もあるお猿さんが」
あー、それ、ナナが眠っていた地下遺跡で俺も見たな。
ツーセットコングって名前なんだよな。冒険者とか猟師はいちいちそんな名称を使わずにヨツザルって呼んでるんだとか。そっちのほうがわかりやすいし。
「見た目の通り、並の人間よりもずっと生命力が強かったですけれど、わたくしの魔法の前では誤差の範囲でしたわ」
「退治して自分の縄張りにしたのか」
「あの、魔物の同類みたいなそういう扱いは……およしになってくださらない?」
「すまんすまん」
こうしてディアーネの隠れ場所も決まった俺達は、雑に練り上げたので穴がポコポコ空いてるかもしれないこの計画通りに動くことにした。
計画といってもなんてことはない。
町に戻ったら宿で大人しく待機して、坊ちゃんに何か面倒なことを聞かれたりしても適当に相槌を打ったり半笑いして穏便に流し、暗くなったら寝る。
翌日、外が明るくなっても下手に焦らず、軽く朝食を済ませてから坊ちゃんに「やることないしもう帰るわ」と挨拶して宿を出発し、ディアーネと合流してリュムレインに一直線。
ロードスとサイクロプスゴーレムを再び仲間に加え、寄り道厳禁でグラッドに戻ると、真っ先に秘密基地へと向かってディアーネ達と別れ、お土産を手に家族の元へ帰宅する。
後は、ほとぼりが冷めるまでディアーネには秘密基地に隠れてもらい、もう大丈夫と思われたら外出OK。それでも名乗りが必要な時は偽名を使ってもらうが。
エスタガス王国でのやらかしを知ってる奴にどこで出会うかわからないからな。
「首尾よく進んでくれるといいんだが」
不幸の星の元に生まれたようなのが三人もいるから嫌な予感がしてならないが、まあ、何が起きても俺が踏ん張ってどうにかしてやるさ。……可愛いあいつらの為だしな。
今週は、月曜、水曜、金曜、日曜の同時刻に投稿します。




