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その74・紙一重の最悪

 ポトカでの本来の目的がどうでもよくなるくらいややこしい事があった、その日の夜。



「よしよし、怪しまれなくて良かった」


『うまく無関係なフリ装って、あっさり受け流してやったぜ』


「どこがなのよ」


 宿に戻った後、合流した坊ちゃんから追及も疑わしい目を向けられることもなく、空き家が崩れたり森の一部がそっくり別物と化した件についても、白々しくならないよう気をつけながら「へー、不思議なこともあるもんだ」でサラッと流すことに成功した。

 俺やソルティナは無難に話を合わせられたけど、ナナのやつが露骨に口数が少なくなっていたので妙に思われないか不安だったが、坊ちゃんも特にこの出来事を重く見てなかったようで、急に無口になったのが変だと突っ込んでくることもなかった。


 こうして、隣国の聖女とそのお供を皆殺しにした大事件は無事に闇の中へと消え、森の真ん中がある日いきなり衣替えした事実のみが、ポトカの謎の一つとして語り継がれることになりましたとさ。

 ……一つというか、まだ一つ目なのだが……この面白味の欠片もない町で、今後も謎が増えることはあるのだろうか。もし仮に増えたとしても、それはまた俺達が表沙汰にできない何かをここでやらかした結果の産物なのではないか。

 この町は俺達にとって、良くも悪くも、はちゃめちゃな出会いに巡り合う場所なのかもしれない。


 いや、ちょい違うな。


 それはこの町だけじゃなくて、今回の旅そのものだ。


(行く先行く先で、常に困ったことが起きてたな……面白かったが、せわしない旅だった。帰り道もまたこんな感じで、面倒な奴らやおかしな異変と遭遇するのかねえ)


 お茶なんて気の利いたものがこのド田舎にあるわけないので、疲労や肩こりに効くという薬草入りのお湯をすすってリラックスしながら、俺はこれまでの旅を苦々しくも楽しく振り返っていた。





 薬草湯の効果があったのかないのかわからないが、ぐっすり眠れたその翌日。


「んじゃリュムレインに寄ってロードス達拾って帰るわ」


「帰る途中に姉さまたちとすれ違うかもしれないから、その時は、ここの現状やおかしな出来事について知らせておいてほしいな」


「はいよ坊ちゃん」


「アルでいいよ」


「……わかったよ、アル」


「うん、そうそう」


 具のないスープと意外と柔らかいパン(どうせ固パンだと思ってた)を交互に口に運んで腹ごしらえした後、俺たちはさっさと支度を整えて坊ちゃんに別れを告げていた。

 なお、俺の口調がやけに砕けているのは「もう敬語とかいいよ」と坊ちゃんから言ってきたので、そのお言葉に甘えているのである。坊ちゃんって、実力を認めた相手に対して気を許すタイプの性格なのかね。

 向こうから急に歩み寄ってきて親密になってきた俺と坊ちゃん……アルの、そんなぎこちないやり取りを見ていたソルティナが、


「………………尊いわねぇ」


 と、意味のよくわからんことを呟き、横にいたナナも俺と同感だったのか不思議そうに首をかしげると、そのまま斜めにずれて外れかけたので思わず静止の声を上げそうになった。



「退屈しのぎに来たはいいけど、抜き差しならない事態も起きそうにないし、期待してたお楽しみも肩透かしだったから気が抜けちゃったわ。もう帰るわね」


 ソルティナが肩をすくめる。

 本当は思いっきり殺し合いが起きたのだが、これは墓まで持ってかないといけない類の話なので絶対にアルには教えられない。騙すようで気が引け……はしないな。そこまで俺は繊細じゃないので。


「いやぁ、急用もないから待っててもよかったんだけどね……。うちのソルティナはこの通りせっかちなんで、何の楽しみもないところでただ待ちぼうけするのは耐えられないと」


「いや、その気持ちはわかるよ。僕らが滞在している間にアレが使い物になるのは、いつになるかわからないからね。スプラルク山も落ち着いた……とまではいかないけど、あの様子なら町民を非難させなくてもいいだろうし……」


 お楽しみとかアレというのは、勿論温泉のことである。

 ソルティナも未練があるのか多少は渋っていたが、温泉に人の手が入って入浴施設が完成するまでディアーネを例の空き家で待機させておくのも心配なので、泣く泣くまたの機会に持ち越しにしたのだった。

 その空き家にしても、魔物が近くに生息してるから長年ほったらかしにされてたとはいえ、度胸のある狩人が無駄にやる気出して再利用するかもしれないので完全な穴場とは言い難い。しかもディアーネがその魔物を退治してしまったので、なおさら人が容易に近づきやすくなっている。

 魔物がいなくなったのを町の人間にはまだ知られてないと思うが、そのうち警備兵が町の周囲の見回りで気づくのも、そう遠くない話なんじゃないかな。

 そこまで神経質になって気を揉む必要もないかもしれないが、災いというのはいつどこから飛んでくるかわからない。しかも、こちらには面白いくらい不幸を引き寄せる聖女が三人もいるから一層ヤバイんだよね。


 だからさっさと帰ろう。


「あなたはどうするの? 私達と一緒に戻る?」


 俺達から聞いておいてあれだが、ここで頷かれでもしたらディアーネと合流しづらくなって困ったりするんだけど、聞かないのも不自然なので仕方がない。

 ただでさえ雑な予定が狂うのは嫌なんでどうか断ってくれ。アル頼む。俺とお前の仲だろう?


「鉄甲アリこそいなくなったとはいっても、まだまだ魔物は潜んでいるみたいだからね。姉さま達がこちらに来たら、近場を優先して魔物の討伐をすべきだって進言しようかなと思ってる。だから僕は残るよ」


 それを聞いて「よっしゃ! 俺は信じていたよ!」と思ったが、同時にひやりとした。

 これはやばかったな。俺とディアーネが出会うのが遅かったり会わずにすれ違ってたら、空き家の周りのヨツザル退治に乗り出した坊ちゃんたちとそこに潜んでいたディアーネが、鉢合わせていたかもしれん。

 対話で穏やかに済めばいいが、そうじゃなかったらバトル勃発は避けられなかっただろう。

 最悪、英傑が二人この世から消えて、俺達とアルがその敵討ちに動いたところに聖女リリエル一派まで乱入して大混乱になりかねなかったぞ。もしそうなってたらどれだけの被害が出ていたことか。




 ポトカの町境で腕を振りあってアルと別れながら、俺は紙一重で大惨事を回避できた

幸運に胸を撫で下ろすのだった──

今週は、月曜、水曜、金曜、日曜の同時刻に投稿します。

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